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とある夫婦の一日

とある夫婦の一日 2

作者: 柏田華蓮

前作「とある夫婦の一日」をご覧いただいてからの方が、話が分かるかと思います。

 ――恋をした。


 気がつけば恋をしていた。

 地球人口六十億人の中で、彼女に出逢った。

 朗らかな笑顔を浮かべる彼女と出逢った。


 今までに燃え上がるような恋愛をしてきたた訳じゃない。

 だけど、この恋は自分が思い描いていた様な恋愛とは何だか違っていた。


 中高時代はそれなりに女子と付き合って来たつもりだった。

 手を繋いで登下校したり、休日にデートしてみたり、一緒に勉強してみたり、唇を合わせて愛情を確かめる真似をしてみたり、体を寄せて相手の存在を気にしてみたり。

 相手が推して来たから付き合っただけ。

 嫉妬されれば、面倒になって離れただけ。

 興味があったから触れてみただけ。

 相手を可愛いとは思えたけど、それが愛しいには変わらなかった。

 だから、俺は恋愛に淡白なんだと思っていた。

 そんな普通の青春時代。


 生まれて二十数年。

 結婚をした。

 式を挙げない質素な結婚をした。

 互いの名前を書いて、判を捺して、書類を出して、役所の人から「おめでとうございます」と一言言われるだけの結婚をした。


 ただ、彼女とは相思相愛ではない。

 相手を思う比重が違うから。

 俺たちは、恋人の関係から結婚した訳では無いのだから――。

 

 夫婦ってのは、根っこを言えば赤の他人だ。自分が守られてきた環境を離れ、独り立ちし、たくさんの人と出会って、二人になる。

 そして、幾度かの試練を共に越えて、二人一緒の空間に居を構えれば、段々と「家族」と呼べるものになっていくのだと当然思って生きてきた。

 今まで通り、淡白な恋愛観に尾鰭(おびれ)がついたような感じなのだ、と。


 だけど、傍らに背を向けて眠る彼女を冷ややかに見る仮面夫婦のような―――そんなヤツに俺はなれそうもない。


「ん……」


 寒い空気に肌が触れ暖を求めて体を捻らせる。一瞬、触れた肌と肌に反応して無意識の彼女は(おれ)を手繰り寄せる。

 何回か腹や胸を(まさぐ)った後、男の固い筋肉の感触が気に入らないのか、ふと目を覚ましぼんやりと(おれ)を確認すると、寝起きにも関わらず大きな目を見開いて、慌ててベッドから飛び出した。


「おはよう」

「お、おは、おはよう……ございます……」


 この間の結婚記念日以来、毎日続けている挨拶。

 でもベッドの中では、彼女の反応が薄くて挨拶を交わすことが余りない。

 拒否されているのかと思うくらいに、目も合わせてこないのだ。

 ――それも仕方ないと思う。

 結婚記念日以来、肌を直に合わせていないのだから。俺は恐くて、何も出来てないのだから。


 そして、今日も彼女が用意してくれた朝食を腹に入れて通勤の仕度する。

 玄関に向かう俺の後ろをちょこちょこと付いてくる仕草に、言葉になら無い感動を毎日覚える。

 ドアを閉める瞬間、彼女が柔らかく微笑んで送り出す瞳が好きだと思う。

 そんな風に惚けていたら、「行ってきます」と毎回ドアを閉めきった後に言ってしまっていた。


*****


 学生時代、彼女との出逢いが運命だと直感が囁いた。

 惚れた弱味は、たぶん最初から握られていると思う。


 大学の図書館でよくすれ違い、同じ階の決まったブースを使う子――。それが彼女の第一印象だった。

 頻繁に見かける女の子だなと思って、勝手に顔だけを覚えていた。

 凛と立つ姿が印象に残って、気になって、すれ違っては気持ち良く前に進む彼女の背中を目で追っていた。

 何学部で、何年生でどんな声をしてて、どんな風に喋って、どんな分野に興味があって勉強をして、どんなものに楽しみ笑うのか。

 気になり出したら止まらない。止められない。――その時、初めての片想いと言うのを経験した。


 正直、自分で自分に驚いたくらいだ。

 気になり出したら次は近付きたくて、

 なんとか手を尽くして、知り合いになって、

 それから仲の良い先輩と慕ってくれるポジションを獲得して、

 遠かった心の距離を縮めれば、また……、それから……、と目標を達成すればするほど次々と欲は止まらなかった。

 自分の中にこんな行動力があったのか、と。


 大学を卒業しても、また努力して彼女と付かず離れずの距離を保っていれば、この関係は楽しいままずっと続けられると思っていた。

 逆に考えれば、彼女との距離はこれ以上縮まることはなく、一生、関係は赤の他人のままだと気がついた。

 今のままだといつか、彼女の隣に俺の知らない誰かが立って、彼女を慰めたり、励ましたりするのかも知れない。

 いつか、彼女の隣に俺の知らない誰かが立って、彼女は俺の知らない表情をその誰かに見せるんだと思った。


 今この時に、もしかしたら……。

 そう、思い悩んでたらいつの間にか、やり取りは年賀メールしかやり取りを送らなくなっていた。

 ―― 一抹の不安が脳裏を過る。

 何だか胸の奥底がギシギシと音を立てて苦しくなった。


 怒った顔も、尖った声も、睨んでいるんだけど睨みきれてない上目遣いの瞳も……

 泣いた顔も、(しゃが)れ声も、擦りすぎて腫れてしまった瞳も……

 笑った顔も、華やぐ声も、目が弧を描いたみまもる優しい瞳も……

 全て独り占めしたいのに、出来ないもどかしさ。


 彼女を慰めたり、励ましたりするのは、俺でいたい、と。

 俺を仲の良い人止まりにしないでくれ、と。

 頼れる先輩ポジションに定着させないでくれ、と。


 本当はもっと近付きたくて、本当は誰も知らない彼女の表情を独り占めしたくて……。

 人に言えない願いばかりが増えていって、久し振りに勇気を振り絞って一縷の望みを掛けてメールを送った。

 彼女の隣に立つために。

 けど、実際は自分でも驚くほどの変化を遂げる。


 最初は自分から「彼女に付き合おう」と言って、恋人の段階を踏んで行くんだと思っていた。

 しかし、彼女は俺が思い描いていた段階を三段も四段も飛び越えてプロポーズをして来た。予想外の出来事に頭が真っ白になったまま気付けば頷いていた。

 放心状態だったけれど内心、もう一人の自分が囁いていた。

 他人に捕られてしまう位なら、自分の理想とするプロセスを曲げた方が良いのではないか、って。

 自分が情けないから、呆れられないように、と思った。

 ――嫌われたくない。

 その気持ちばかりが大きくなって、手を伸ばしたくても伸ばせなくなっていた。


 そうやって一年過ぎた夫婦生活。

 手をこ招いていた結婚記念日の告白。

 ――私ばっかり好きで、愛してて……

 その場で啼かせてやろうかと思ったくらいに可愛くて。

 『それは俺のセリフだろ!』と、何回心ん中で突っ込みを入れたか……。

 けど一年という長い時間が、嫌われる事を恐れて、彼女へ手を伸ばすことを躊躇わさせる。


*****


キィ…ッ


 職場にいるとふとした瞬間に彼女を思い出す。

 椅子の背凭れに深く腰掛けてだれる。

 教科室には誰も居なくて、こういう時は家のソファーに居るとき見たいに寝転びたいくらいだ。

 あの優しい空気に包まれて目を閉じる幸福を感じたいと毎日と思う。

 そして、窓の外にいるサボりのヤツらを見つけて溜め息をつく。そこに脚を運びながら、また彼女を思い出す。

 例えば、目の前で話しに盛り上がる生徒たちを前にして、どんなヤツがタイプなのかとか、高校時代はどんな一日を過ごして何を思っていたのかとか。

 彼女も自分の時みたいに、誰かと手を繋いで登下校したり、休日にデートしたり、一緒に勉強したり、体温を重ねて愛があるのかを確かめたんだろうか?

 それが愛しいに変わったりしたんだろうか?

 そう言えば、結婚してから聞いたことがなかった。

 でも本音を話して、想像していると(はらわた)が煮えくり返る程、心の奥底がモヤモヤっと黒い渦に捲き込まれそうだ。

 そうなる位なら、俺の中だけに留めさせといて、自然と相手の気持ちが分かる境地に持っていった方が良いのか…、葛藤する所だ。


「うぉーい、お前らー。教室行けよー。授業中だぞー」


 教科室から見えた生徒三人はチャイムが鳴ったにも関わらず、地べたに座ってトランプを続けていた。

 最近の教育指導は、事細かにそして慎重にしなければならないから、無理やり彼らを教室まで引っ張っていくことは出来ない。


「あ、(あさ)やんだ♪」


 トランプから顔を上げた女子生徒は笑顔で俺の方を見た。


「後藤。朝やんじゃなくて、朝川先生て呼ぼうな……」

「朝やんは今日もイケメンだねぇ~」


 呆れながら、言い直すともう一人寝そべっていた男子生徒が茶化すように言った。


「あのな~、ふざけんなよ? 俺は奥さんにモテたらそれで良いんだ」

「……うわ、さり気にノロケられた」


 彼らに視線を合わせる高さで座ると、両耳合わせてピアスを五、六個開けた男子生徒が顔を若干引き釣らせて俺の顔を凝視した。


「朝やんって、意外と愛妻家なのね?」

「意外ってなんだ。一目で分かる愛妻家だろうが」

「ぷぷ~! 部活見に来てた奥さんに(たか)る虫達を威嚇してた位だもんねっ!」

「え? それどう言うこと? 詳しく聞かせろし」

「あー…はいはい、はいはい。よくご存じで」


 語尾に音符が飛んで喋る後藤と言う女子生徒は、俺が受け持つ部活のマネージャーで、どうやら結婚記念(あの)日のやり取りを盗み見していたらしい。

 予想外の攻撃を受け、心的ダメージを喰らいつつも彼らを何とか教室まで行くよう施し、見送った背中に向かって溜め息が漏れた。

 確かにあの時は、理依に近寄る俺以外の異性に敏感になっていたから、図星を突かれて反論は出来なかった。



 帰宅して、晩飯を食ってのんびりしていた頃。テレビで「もらって嬉しいプレゼント特集」みたいな番組が流れて気が付いた。


「誕生日か……」


 年に一回の自分だけの記念日。


 学校や大学に居た時は、自分の誕生日を何となくそわそわして過ごしていた日。

 特別な日に感じて、「おめでとう」と言われると胸の奥がくすぐったくなるくらい。

 大学を卒業してからは、忙しさから誕生日の存在すら忘れていたんだけど、ただ、理依におめでとうと言ってもらえるならと思う。

 カレンダーの何の印も施されていない真っ白なマスを見て、吸い込んだ息を吐き出した。

 今、シャワーの音が消えた方へ視線を向けて、自分以外の存在に笑みが溢れた。


「侑さん、お風呂どうぞ?」

「うん」


 洗面所から出て、真っ直ぐリビングのラグの上に座った理依は、タオルドライをかけながらテレビに夢中になっていた。

 ――明日、か。

 確か、部活も入れてないはずだ。

 だけど部員の中には部活に熱心で、自主練に来るヤツもいるから何もなければ、学校へ顔を出すことが多々ある。

 でも、今週は行かないな……。


「キャプテンに連絡して、完全に休みだって伝えねぇと、アイツ無理すっしなぁー」


 体を拭きながら小さく呟いて、暑さを発散させるように、腰にタオルを巻いて熱気の籠る洗面所から出た。


「うゎぁっ!」


 ドアを開くと目の前に居たらしい理依が、頬を染めて慌てて後ろを向いた。

 水を飲んでいたのか、右手には透明な水滴を残したガラスコップが握られていた。


「あぁ、ごめん」

「う、ううん!」


 頬を染めた彼女は、可愛くてちょこちょこと目の前を駆けていく。

 俺はそれを後ろからついていって、持っていたガラスコップをシンクに置こうとしていた理依の手を覆って、彼女の後ろから蛇口を捻った。


「うぇ? ゆ、侑さん?」


 俺とシンクに挟まれた彼女はあたふたして、小動物がキョロキョロしている姿に似ている。


「ん?」


 そんな所をニヤけて見てる顔を隠すつもりで、左の耳に短く答えた。


「あ、ああぁ、あの!……て、手をっ!」

「あぁ、うん」


 水を入れ終えて、コップを彼女から奪うとその後ろに立ったまま口に水を運んだ。


「ゆ、侑さん……スエットは?」

「え? 着ると、まだ暑い」

「いや、でも」

「じゃぁ……取り敢えず、下は履いて来ようかな」

「えぇっ!?」


 頬を真っ赤に染めた理依は、両手で顔を覆って「大丈夫、大丈夫」とぶつぶつ何かを呟いていた。

 一瞬、顔を寄せたときに香った彼女の匂いがオレを熱くさせたけど、俺も心の中で「大丈夫、大丈夫」と同じように呟いていた。

 スエット姿でリビングに戻ってみると、理依はソファーに背もたれて、ラグの上で小さくなって座っていた。

 俺はソファーの上に座って小さくなった彼女の旋毛を見下ろした。


「明日って何もない?」

「………え?」


「明日。理依の予定は何もない?」

「何もないけど? どうかしたの?」


「いや、土日ってそう言えば、そんなに出掛けたこと無かったなって、さっき思い出して。たまには理依の行きたい所に行こうかなって」

「折角のお休みでしょ? 休まなくて良いの?」


「うん」

「そう? どうしようかなぁ~」


 休まなくていいと肯定すると、彼女ははにかんだ笑顔を浮かべてテレビに視線を戻した。

 暫く二人でテレビを眺めて、眠気が襲ってくる時間になると彼女が先にベッドへと向かう。俺はその姿を見送って、眠った彼女の顔にキスを落として瞼を下ろすのがここ最近の日課になっている。

 でも、今日は何だか零時を過ぎた空気が、いつもより穏やかで胸が躍るような感じがした。


 目が覚めて、顔を洗って、鏡に映った自分を見る。

 いつの間にか自分の記憶よりも頬令線の皺が目立って来たことに気づく。

 去年の今頃は、結婚したてで二人であたふたしていたような気がする。

 それなりに一人暮らしをしていたから家具とか諸々どうするか、その時は頭を付き合わせて配置を話し合ったと思う。

 支度を済ませていつもの定位置(ソファー)で、理依を待っていると見慣れないモノが目に入った。

 テレビボードの棚にチラリと見える鮮やかな――綺麗に包装された箱。

 丁寧に結んであるリボンの間には、メッセージカードが挟まっていた。

 性格を現すような綺麗で真っ直ぐした字に自分の名前が書かれていた。


「侑さん~? 支度終わ……あぁっ!」


 寝室から出てきた理依に振り返ると、彼女は目を見張って動きを止めた。

 そして、物凄い勢いで俺の前に立つと手に持っていた箱を取り上げて、彼女の後ろに隠した。


「理依?」

「あ、あの、えっと。うぅ……」


 後ろ手に隠したモノを見せまいと、彼女は俺を睨んで後退りする。

 ソファーから立ち上がって、後ろのモノに手を伸ばすと取られないように交わされた。


「それ、なに?」

「こ、これはその、えっと……」

「見せて?」

「だ、ダメ! あ!」


 交わされた体を引き寄せて、理依を包み込むように囲うと、隠された箱に手を伸ばし奪い去った。


 ――侑へ――


 宛名はやっぱり俺で、見たことのないモノだった。


【誕生日おめでとう】


「………プレゼント?」


 決まり文句のような、文言が目に入るとポカンと口を開いて彼女を見た。


「侑さんの所為ですよ。何で誕生日だって言ってくれなかったの?」

「は?」

「気付かなかったあたしも馬鹿だと思うけど、もうちょっと分かりやすくアプローチしてくれたって……」

「理依?」

「今日、誕生日なんですよね?」

「あ、あぁ。うん」

「そのプレゼントは、お義母さんから戴きました……」

「母さん……いつ来たの?」

「『いつ来たの?』じゃなくて…。 昨日夕方来たよ? 久し振りだったから結構長くお茶してたけど『これ渡しといて』って持たされたのが、」


 プレゼントだなんて……。

 落ち込んだように腕の中でしょんぼりしているのを上から見下ろした。


「お義母さん、『私のは理依ちゃんが渡した後で良いからね』って言ってたけど、あたし知らなくて」


 バカみたい、と落ち込む彼女を宥めるように俺は小さな体を抱き締めて言った。


「実は俺、昨日気付いたんだよ? んで、理依と一緒に居たいなと思って今日…誘ったし」


 気にしていないとただ伝えたかったけど、理依は落ち込んだままだった。

 失敗した、と絶望に陥りそうだった。

 自分が一番彼女にしたく無かった、悲しませる事。


「だけど、誕生日って、『この日に生まれてきてくれてありがとう』って日でしょ? あたしは侑さんが生まれてきてくれて、出逢ってくれて、一緒に居てくれて、ありがとうって盛大に表現して祝いたかったの」


 ただ嬉しい事しか言わないこの、小さな存在をどうやって可愛がれば良いんだろう?

 理依の言葉が嬉しさを越えて、くすぐったく感じる。

 言われた事を頭の中で繰り返して、照れて言葉にならない。


「ヤバい」

「え?」

「外出たくなくなった」


 まだ腕の中にいる彼女を思いっきり、力強く抱き締めた。


「外出るのやめて、メチャクチャにしたいんだけど」


 耳朶にかぶり付くように声を掠めて言うと、ピンクがかった頬が更に紅く染まって、顔を埋められて見えなくなった。


「あたしをメチャクチャに出来るのは、侑さんだけだよ」


 羞恥心を残した言い方に俺の本能は、抑制ゲージを振り切った。眠っていた獅子が目を覚ましたようだったと、後から指摘されたけど。

 息を喰らい尽くすくらいに歯列をなぞり、舌を絡めて上顎を(くすぐ)った。

 掌で身体のラインを辿って、柔らかい双丘を直手で捏ねた。

 段々と洩れる息に艶がかかって啼き声に替わった時、我慢していたモノを全て彼女に注ぎ込んだ。


「はぁ……はぁ……」


 二人して切れる息を共有して、肌で温もりを確かめ合う。


 『愛してる』の言葉は、互いに言わなかった。だけど、合わせた視線が互いを求めている事を伝えていた。

 明確な言葉が無いから、互いが不要な訳ではない。

 羞恥心が棄てきれないから伝わらないだけだったと互いに教えられた。


「プレゼント、ありがとう」


 俺が言葉にしても彼女には照れがあるから応えはないだろう。彼女の顔は見えないけど、絡めた足が更に密着して、嬉しさを物語っていた。


 ――俺は恋をした。


 気が付けば恋をしていた。

 地球人口六十億人を超えるの中で、彼女と出逢っただけ。

 今までに燃え上がるような恋愛をしてきたた訳じゃない。

 だけど、この恋は自分が思い描いていた様な恋愛とは何だか違っていた。


 何故なら二人は今、鎮火を知らない恋愛の途中だから―――……。







―完―

活報に後書きと小話設置しました。

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