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   ― 聖地 ―


 彼は長い間、そこに立っていた。

 長い紺碧の髪が乾いた風を受けて踊る。目を閉じると、髪の一本一本にまとわりついては流れてゆく、風の動きを感じられた。しかしそこにはもう、かつての輝きはない。

 世界に満ちる力は年々弱まり、こうして聖地に立っていてさえ、その流れはごく緩やかにしか感じられなかった。

 原因は分かっている。

 彼は振り返り、岩山の足元にうずくまる集落を見やった。木と獣皮で作った、小さな住まいばかりだ。決して立派ではないが、夏は涼しく冬は暖かく、持運びも出来る。この地で暮らすには最適の家。

 ただ、その数はささやかなものだった。

 かつては彼の一族だけで、この数倍はいたという。それだけでなく、もっと豊かな土地に町を築く一族もあれば、ひとつの季節すら同じ所に留まらず、旅を続ける一族もいた。山々の懐に、岩を削って町を造った一族も。それぞれが独自の文化を持ち、独自の生き方をしていたはずだった。

 だが、彼らは皆、もういない。

 この広い大陸にどれほどの同胞が残っているのか、正確に知る術はないが、力の流れから汲み取れる気配では、そう多くもあるまい。

「……宿命、か」

 彼はつぶやき、小さく吐息をもらした。

 我らが我らであるがゆえの滅び。ならば、避ける術はないのかもしれない。しかし。

「何とかしなければ」

 彼は独りごちて、灰緑の茂みがうずくまるばかりの荒野を見回した。乾き荒み、限られた命だけがこそこそと、厳しい自然の目を盗むようにして生きている荒野。

 人がおらずとも世界は在り続けよう。だがこのまま彼らの一族が消え去ってしまえば、この大陸に残されるのはこのような風景ばかりになる。緑の沃野も、ほとばしる泉も、色とりどりの花も、およそ人が美しいと感じるものは一切見られなくなるだろう。

 それだけならまだ良い。

 もし一族が消え、そうでない人々のみが残れば?

 その時には、荒野すら残らないかも知れない。

「どうすれば……」

 彼は両膝をつき、空に、大地に、祈った。答えを、救いを求めて。



   ― エデッサ、学府 ―


 闇を閉じこめた雲の奥で、稲妻が閃いた。

 生ぬるく湿った風が、ねっとりと重く身体にまとわりつく。この分だと、じきに天の底が抜けたような土砂降りの雨になるだろう。

 セレスティンはテラスに立ち尽くし、我が身を抱いて厳しい目で空を見上げていた。

 嵐そのものは自然の現象だ。しかしここ数年続いている力場の乱れが、天候にも影響を及ぼしていた。例年通り、という言葉を使うことがなくなり、人々は先の読めない気象に右往左往するばかり。

 蜜蝋色の髪が風にもつれ、長衣の裾がばたばたとはためく。やがて大粒の雨が一滴、足元でピシャッと弾けた。続いて頬に一滴。瞬く間に世界の色が暗く染まっていく。

 小さなため息をつき、セレスティンは眉間にしわを寄せたまま、屋内に戻った。

 魔術がほとんど使えなくなった今では、激しい嵐をほんの少しなだめることさえ出来ない。野に住む獣たちと同じく、巣穴に引っ込んで、じっと大自然の機嫌が直るのを待つしかないのだ。もっとも、幸いにして獣たちよりも良い住まいを持ってはいるが。

 セレスティンはそんな事を考えながら、窓をしっかりと閉ざした。途端に風の咆哮も、木々の呻きや雨の喧騒も、よその世界へ遠ざかる。

 室内ではランプの炎が身じろぎしたが、それだけだった。暖かく静か、そして安全。

 セレスティンは机に向かい、上の空のまま書類を広げてペンを取った。しかしペン先をインク壷に浸しもせず、ただ茫然とする。

「このままじゃいけない」

 無意識に言葉がこぼれた。

「何とかしなければ……」

 でも、何をどうすれば? セレスティンは神経質に、ペン先で机をコツコツ鳴らした。と、その時。不意に視線を感じ、彼女はハッと顔を上げた。

「誰かいるの?」

 瞬間、確かに誰かと目が合った。

 そう思ったのだが、室内にはやはり誰もおらず、彼女の声に応えもなかった。風に揺られて鎧戸がカタカタ鳴り、屋根を打つ雨音が微かに響くばかり。

 しばし宙を見つめてから、セレスティンは頭を振って書類に目を落とした。機械的にペンをインク壷に近付け、そのままぎくりと動きを止める。

(誰かが『見て』いたんだわ)

 あれは――魔術の『目』だった。もう何年も感じたことのない気配だったため、正体を掴み損ねてしまったのだ。

 息を飲み、いまさらながらに慌てて立ち上がる。だがもう、最前の気配は完全に消え、痕跡をたどることも出来ない。

(いったい誰が?)

 荒れ狂う力場をかいくぐってまでこの部屋を覗き見るような、命知らずの魔術師がいるとは思えなかった。そんな真似をせずとも、彼女は『長衣の者』の長であるから、いつ、誰であっても面会が可能なのだ。

 それにまた、『目』を通してこぼれ出る観察者の意識も、不可解だった。悪意あるいは好意のいずれも無く、見ようという明確な意図さえも感じられなかった。

(悪いものではなかったと思うけれど……)

 むしろ奇妙に懐かしい。雑踏の中で、古い知り合いと偶然にすれ違った時のよう。あっ、と思って振り返った時にはもういない、そんな感覚。

 これは何を意味しているのだろう。

 セレスティンは立ち尽くしたまま、しばし考え込んだ。分からない。何かが起ころうとしているのか、だとしたら何が? そして、その中で自分は何をなすべきなのか。

 無意識に彼女は天をふり仰いだ。その目は、古い、数百年の歴史を経た杉材の天井を通り抜け、空を覆う暗雲を越えて、遥かな星空を見ていた。



   ― テラ共和国、治安局本部 ―


(……ー……ニア)

 誰かが呼んでいる。私の名前ではないのに、私のことを指している言葉で。

 そよ、と頭の上で空気が動いた。誰かの手が、今にも触れそうな位置にある――

 トトン、トン。

「カゼス?……あれ、いないのかな。入るよ?」

 癖のあるノックの音が、いきなり意識を引き戻した。カゼスはびくっとなって、机に突っ伏していた頭を上げる。ちょうど来客がドアを開け、目をぱちくりさせたところだった。カゼスは決まり悪げに目をこすり、うんと伸びをした。

「珍しく暇のようだね」

 笑いながら、客は親しげに笑いかけた。五年あまり前にカゼスが帰還して以来、あれこれと世話をしてくれている『管理者』だ。猫柳色の髪と、人の好さそうな灰水色の目をした、三十代半ばの男。

 彼、即ちエイル=シーンのおかげで、カゼスはなんとか今までやって来られたのだ。カゼスは客にソファをすすめてから、紅茶を淹れるために席を立ち、湯を沸かしながらこの五年間を振り返った。

 帰還して間もなくの、うんざりさせられる報告と検査漬けの日々。私的な事、思い出したくない事まで根掘り葉掘り訊かれた。リトルが記録した事実とは別に、カゼスの主観や感覚、魔術によって得た知覚などを問われたのだ。

 その後には、家族との決別。

 自分の生まれを知ったカゼスは、その事について話し合おうとおよそ六年ぶりに育て親を訪ねたが、結果は惨憺たるものだった。いまさら責めるつもりかと逆に攻撃され、まともな会話にもならなかったのだ。カゼスの部屋も私物も一切がとっくに処分されており、一家にとってカゼスは『なかったこと』にされていた。

 カゼス自身、いまさら傷付きはしなかったが、しかしやはり衝撃ではあった。

 そして、監禁されるか処分されるか、と捨て鉢な予想を立てていたカゼスにもたらされた、魔術師長任命の報せ――。

 よくもまぁこれだけのストレスに耐えられたものだ、とカゼスは歪んだ微笑を浮かべ、砂時計を逆さにする。

 数少ない友人も精神的に支えてはくれたが、実際に面倒を見てくれたのは、エイルだった。それが仕事だから、だが。

 師長になれとの命令を持ってきたのも、エイルだった。驚くカゼスに、彼は言ったものだ。師長と言っても、名誉職のようなものだから、と。

「どういうわけか、魔術師として稀有な才能の持ち主は、実務能力に乏しいことが多いらしくてね。何代も前から、運営に関しては副師長が実質的なトップで、師長は、なんというか……よろず厄介事引受業みたいなものなんだよ」

 そう言って彼は、悪戯っぽく笑った。彼なりの冗談だったのか、あるいは事実なのかはともかく、エイルがそんな具合にカゼスの不安を和らげてくれたのは確かだ。

 単に命令や要求をメールや郵便で送り付けるのではなく、エイルはそれを自分でカゼスに届け、恐れを除き疑問に答えてくれた。単なる仕事上の必要とは思えないほど、親身になって。それが、『管理者』たちに対するカゼスの警戒を緩めさせる目的であったのなら、既に八割方は成功したと言えるだろう。

 カゼスは複雑な面持ちでエイルを眺め、その前に湯気の立つティーカップを置いた。

 彼が親切なのは、それが仕事だからだ。そしてカゼスにはそれを拒む権利はない。打ち解けたふりをしながら、居心地が悪いほど互いの立場を意識している。その関係は五年経った今も変わらない。

「それで、今日はどうしたんだい。君の方から私を呼ぶなんて、珍しいね」

「……いくつか、お願いしたいことがあって」

 エイルの向かいに座り、カゼスは遠慮がちに切り出した。

「ふむ?」

「師長を解任して貰いたいんです」

 カゼスがため息まじりに言うと、エイルはさして驚いた様子も見せず、ぱちぱちと瞬きをした。そして、ひとまずは同情的な表情でうなずく。

「仕事が多すぎるかい?」

「それほどでは。厄介な仕事が多いのは確かですけどね」カゼスは苦笑いした。「確かに私は他の人よりも、一度に大容量の『力』を扱えますし、そのやり方も理論や技に縛られない――つまり型破りなものです。でも状況判断力は、ただの準局員だった頃からたいして変わっていません」

 様々な事故や事件の難局に呼び出され、いきなり解決を求められる。『狭間』に落ちた人間の救出、ぶつかり融合して混乱した輸送空間の整理、消えかけている変動痕を読み取り固定すること、等々。

 事象をどうにかするだけなら、カゼスには造作もない場合がほとんどだが、前後の関係を把握し、最適な手段と解決方法およびその実行手順などを決める能力は、経験の積み重ねに頼るしかない。普通ならそれを教えてくれる筈の先輩は、カゼスの場合、いなかった。前任の師長はとっくに定年を過ぎており、後任が来るやいなや引継ぎもろくすっぽせず田舎へ引っ込み、挙句早々にあの世へとんずらしてしまったのである。さしものカゼスも降霊術は専門外だ。

「この五年で鍛えられましたけど……でも実際、かなり厳しいです。私のやり方について来られる助っ人もいないし……気疲ればかり溜まって、もう」

 はあ、とさらにため息。うつむいたカゼスに、エイルは気遣うまなざしを向け、ぽんと肩を叩いた。

「生憎、私は管理委員会の一員でしかないからね。治安局の人事を動かすような力はないんだが……でも、そうだね、せめてただの正局員に戻せないか、掛け合ってみるよ」

 約束はできないけど、と言い添える。するとカゼスは首を振って顔を上げた。エイルはその顔を見た途端、相手が本当に「お願い」したい事は別にあり、それはもっと厄介な問題なのだと察した。ぎくりと怯んだエイルに、カゼスは申し訳なさそうに言った。

「実は、正直に言うと、仕事を辞めたいんです」

「……それは、また」

 エイルはなんとも情けない相槌を打つことしか出来なかった。そこまでカゼスが追い詰められていると気付かなかった己を責め、唇を噛む。それを見て、カゼスはふっと苦笑した。

「ああ、あなたのせいじゃありませんよ。ええと……辞めたいと言ったのは、仕事がきついからっていうだけじゃないんです。実は、その」

 言いにくそうに頭を掻き、ためらって目をさまよわせ、どうにか言葉を押し出す。

「呼ばれて……いるんです。しばらく前から」

「なんだって?」

 さすがにエイルもぎょっとなり、思わず腰を浮かせた。

 カゼスが隣の惑星レントの過去へ二度も飛ばされた経緯については、エイルも聞き知っていた。二度目は落雷だった、しかし一度目の時は……

「また誰かが『ラウシール様』に助けを求めているって事かい」

 冤罪で投獄された若者が、ラウシール、すなわちカゼスに助けを求めて祈っていたから、というのが原因だった。

 エイルの表情から、彼が何を思い出したか察し、カゼスは首を振った。

「あの時とはちょっと違うみたいですけどね。個人の祈りというより……もっと漠然としていて、もっと遠いような……でも、引っ張られている感覚はあるんです。このまま放っておいたら、また落雷に見舞われるか、あるいは階段から落ちた拍子にでも、あっちへ呼び込まれてしまうかもしれない。だから」

 と、そこまで言って、カゼスは言葉を切った。迷いを捨てて心を固めるように、いったん唇を引き結ぶ。それから彼は、ゆっくりと、しかし揺るぎなく、言った。

「――だから、今度は自分から行かせて欲しいんです」

「……!」

 予想外の言葉にエイルが絶句する。彼が我に返るより早く、カゼスは畳み掛けた。

「また混乱のさなかに落とされたり、向こうの歴史に重大な影響を与えたり、他人の生死を左右したり……そんなことは、もう勘弁して欲しいんです。私はやむを得ず『ラウシール』になったけれど、本当はそんな柄じゃないし、そんな立場にもう一度なりたくもない。だから、そうなる前に自分から出向いて、私を呼ぶものが何なのか、理由を知って、解決したいんです。二度と振り回されることのないように」

 カゼスの決意を聞くうち、エイルのまなざしが少しずつ変化していった。興味深そうな、観察者じみたものへと。

「君はどちらかというと、状況に流されるのが上手いタイプだと思っていたんだけどね」

「流されるのに上手下手がありますか?」

「当然さ。単に流されるだけなのと、流れに乗って順応するのとは違う。君は大きな流れに呑まれたのに、溺れるどころかすんなりその流れに乗り、ひとつの役割を果たした。そんな君が、自ら流れに逆らおうとするなら、どういう事になるだろうかね」

「……今度は溺れるぞ、と言いたいんですか」

 カゼスがむっつり唸ると、エイルは両手を広げておどけた。

「さあ、それは私には分からない。でもまぁ、そうだね、君の人生だ。やってみたいと言うのを止める道理はないし、ともかく希望は伝えてみよう」

「ありがとうございます」

「感謝するのは早いよ。実現するかどうか分からないし、したとしても、多分面倒なことになるだろうからね」

 脅すような口調で言われ、カゼスは不安に眉を寄せた。エイルは両手の指先を唇の前で合わせ、すまし顔を作る。考えてごらん、とばかりの教師っぽい仕草に、カゼスは渋面をしつつも素直に頭をひねった。

「私が抜けても、治安局の方はそれほど困りませんよね。むしろ経費削減になる……あ! そうか、お金の問題がありますね。手ぶらで向こうに行くわけにはいかないし、服とか食べ物とか」

 そんなに貯金があったかな、とカゼスは自分の口座の数字を思い浮かべた。今までの二回は運命のゆえか庇護者となる人物に出会い、その財産で生活できたが、もし自分から行くとなったらそんな幸運は期待できまい。

 いったいどれほどの期間滞在することになるか分からないまま、行き先の通貨を持たずに旅するとなったら、砂金の袋でも持ち歩くしかないだろう。だが、カゼスの財産でそれを用意するとなると……。

(ああ、やっぱりあの腕輪、くすねときゃ良かった)

 燦然たる宝物庫の光景を思い出し、カゼスは情けない顔でため息をついた。

 カゼスが事の厄介さを身に染みて理解したところで、エイルがくすくす笑って、さらなる打撃を加えてくれた。

「そう、それにね、絶対に君ひとりで行かせては貰えないだろうね」

「ええっ!?」

「当然だろう? レントの遺跡調査をしている学者は大勢いるし、だから君の派遣は学術調査という名目で許可が下りるかもしれない、経費も出してくれるかもしれない。というか、それ以外の方法で君を行かせられるとは思えないね。ただ、そうなると当然、経費に見合う成果が要求される。素人の君が単独で行けるわけがない」

「あー……うぅ……」

 理解と納得、そして落胆。うめきだけで見事にそれらを表現し、カゼスはがくりと頭を垂れた。まさか、ツアーよろしく旗を持って学者集団の引率をするわけにはいかない。

 と、その内心を読んだようにエイルが言った。

「リトルヘッドもついていることだから、何人もぞろぞろ引き連れていく必要はないがね。君が嫌だと言ったら、ほかに実地調査の方法はないんだから、そこは有利に運べると思うよ」

「ああ、そうですね」

 ささやかな慰めに、カゼスも顔を上げてうなずいた。そもそもレントに関する研究が進まないのは、過去への溯行調査がほぼ不可能だからなのだ。この世界の過去だからおいそれと――覗き見るだけでも――手は出せない、という建前もあるが、現実に手を出したくとも出せない理由がある。

 力場が強すぎるのだ。

 過去のレントはあまりにも力場レベルが高く、下手に狭間を開いてあちらへ移ろうなどとすれば、相対的に低レベルのミネルバ側へ力が溢れ出して、魔術師の精神を簡単に破壊してしまう。カゼスにしても、呼び声や落雷のような何らかの力が作用しない限り、楽に渡れる場所ではないのだ。

「ともあれ、そういう事なら上の方に掛け合ってみよう。師長解任の件も併せてね。だから、しばらく辛抱して待っていてくれないかな」

 エイルは言って立ち上がり、悪戯っぽく付け足した。

「一人でこっそり出て行かないように、頼むよ」

 無意識の望みを言い当てられ、カゼスはぎくりと怯んだ。ひきつった笑みを浮かべ、ごまかすように腰を上げて見送りに立つ。

「そんな事はしませんよ。向こうから先に迎えが来たら、その時はどうしようもありませんけど」

「おやおや。それじゃ急がせなきゃならないな」

 エイルはおどけて見せると、握手を交わして部屋を去った。

 その背中が廊下の角を曲がって消えると、カゼスはふと振り返り、窓の外に目をやった。緑の梢が揺れ、微かなささやきを風と交わしている。

(……レー……ア……)

 呼んでいる。誰かが。

 カゼスは目を閉じて、精神をそっと開いた。緩やかな力の流れが、全身を包み込んでは去って行く。懐かしい風のようだ。

 強くはなく、けれど消えることなく、声は呼び続けている。

 じきにその元を訪うことになるだろう。


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