だいじゅうはちわ「俺は……」
音が聞こえる。
何かが壊れる音や奇声と呼ばれるような大声。
近くで響いているはずなのにどこか遠くに感じるそれに、俺はどうすることもできない。
身体がダルい。頭が重い。まるで自分が自分でないかのように……。
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気分が高揚する。糞犬をいたぶればいたぶるほどに私は快感に身を焦がしていく。
ミリアが私にかけた魔法『狂化』。これは、思考をより攻撃的に、より危険にするものだ。
なぜ、そんな魔法を私にかけたのか。理由は簡単だ。精神汚染を受けないようにするためだ。
まあ、そんなことしなくても私は最高にキレていたんだけどね。『あの糞犬、私の空に何しちゃってくれてんの?』ってね。
要するに精神汚染を防ぐ一番の手段は強い信念や暴走した心ってことらしい。
『グゥッ!』
「おらおら、死ね死ね!」
普段の自分が口走るような言葉じゃない。というか、私自身が客観的に見ているこの状況もいろんな意味でおかしいのかも。
どうでもいいか。私は、空さえ救えればそれでいい。だから、今はこの感情に抗わず従おう。
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俺は……誰なんだろう。
外で戦っているのは誰なんだろう。だんだん意識が薄くなってきている。
ああ、俺はこれで消えるんだと思った。
その時、俺を呼ぶ声を聞いた気がした。
『ねぇ、ねぇ』
思わず、その声がする方を見た。そこには、小さな輝く金の髪を持つ少女がいた。
『あなたはここで何をしているの?』
「何をしているんだろう……。わからないや」
分らない。何でこんなところにいるのかも。何で、何も覚えていないのかも。全て、何もかも思い出せない。
『そう……』
少女はうつむいた。だけど、すぐに顔をあげた。そして……
パァンッ!
頬を叩かれた。痛い。
「な、何を」
『何をじゃない!あなたはまだ生きてるでしょ!何をこんなところでぐずぐずしてるのよ!』
すごい剣幕で罵られる。
『あなたがすべきこと、わからないなら教えてあげる』
「え?」
少女は飛び上り、俺の唇に唇を重ねた。
その瞬間、全てがフラッシュバックするかのように視界を駆け廻る。
『どう?思い出した?』
「ああ、ありがと」
思い出した。全部思い出した。もう、遅れはとらない。
「悪いな。行ってくる。ありがとな、いろいろと」
『いいのよ。だから、私を殺しに来てね?』
「ああ、お前のことは絶対に殺しに来てやる!」
俺は願う自分が魔法少女であることを。そして……、俺は少女になった。
「俺は……魔法少女ソラだ!」
俺の意識は覚醒した。