だいいちわ「今日から君は魔法少女です!」
俺こと御波空は幼馴染が叫んでいる声で目が覚めた。
今は昼休みで飯を速攻で食い終えた俺は、教室の自分の机で授業が始まるまで惰眠をむさぼろうと思い突っ伏していた。
そんで軽く寝入った時に今時珍しい仲のいい幼馴染が意味のわからん事を叫んでいた。
その内容だが、寝てたならわかるはずがないのだが、俺の耳にはその言葉がちゃんと聞こえた上にこびりついていた。
『魔法少女はいるんですっ!』
正直、庇いきれませんよ……。その言葉を叫んだおれの幼馴染こと赤染美海はさすがに恥ずかしかったのだろうか、自慢の綺麗な赤髪を翻しすっ飛んでどこかに行ってしまった。
あいつが落ち込んだりしたら励ますのはもちろん俺の役目だ。だから、俺はあいつが行きそうな場所に検討をつけ、すぐさま眠い頭を起こし探しに向かう。
まあ、あいつが逃げ込むならば屋上位しかないから屋上いけばいるか。
屋上へ来て見ると案の定、ふてくされて体育座りをしている美海を見つけた。ご丁寧に効果音がつきそうなくらいにどんよりしている上に給水タンクの陰で死角になるような場所にいるのでどんより感は倍以上に感じる。
「お~い。美海さんや~。出て来いよ~」
俺は軽く声をかけつつ、美海のそばに行く。
俺が近づくと美海はぱぁっと明るくなったような顔を上げた。おい、さっきまでのどんより感はどこに行ったよ?
「あ、空。私、私~」
涙目でこちらを見上げてくる。やべぇ可愛いので抱きしめたくなるが、我慢して声をかける。
「ああ~、そのなんだ。恥ずかしかったのか?」
「ひっく。ちょっと違うの……。あんなことを言ったのは確かに恥ずかしいんだけどね。魔法少女を否定されたことが悔しくて……」
……。どういうことだよ。こいつにメルヘンな趣味とかはないはずだから、別に魔法少女に憧れてるわけでもないはずだ。
つか、そんな趣味があるなら俺が知らないはずがない。
「何が言いたいんだよ……、ったく。だけど、それは俺にはどうにもしようがないな」
「そうだよね。空にしてもらうのはちょっとね……。魔法少女とか恥ずかしいよね……」
「いや、俺はお前の味方であって、お前の意見を否定しない」
「え?」
美海がびっくりしたような顔をして、俺を見上げる。目の端に残っている涙が可愛い顔を更に可愛く見せている。いかんいかん。何考えてるんだ俺は……。
とりあえず、美海の目に残る涙を拭ってやり、立たせる。
「俺はいつでもお前の味方でいる。いつものことだろ?」
「うん!」
とびっきりの笑顔だった。
その後、俺は美海を連れて教室に戻り美海に頭を下げさせた。そりゃ、騒がしたんだから謝罪くらい必要だろ。まあ、うちのクラスはいい奴ばかりなので助かる。
まあ、すぐに予鈴が鳴ったので何かをするといったこともなく席へと着いた。
授業が始まるまで俺は考え事をしていた。いや違うな不思議に思ってたんだ。あいつ、美海の言った言葉『魔法少女はいるんですっ!』という言葉をネタや酔狂ではなく本気で言っていてなおかつその言葉が真実のように感じていたことに……。
最後の授業も終わり、俺は美海を連れだって学校を出た。家も隣で仲もいいので自然と二人で帰ることが多いのだ。
美海はちょっぴり人見知りで部活にも入っていない。俺はそれに付きあって入らない。当然、勧誘はたくさんされたのだが、俺にとっては部活よりも美海の方が大切なので関係ない。
それに、俺の両親は今家にいない。父の海外出張に母はニコニコ顔で付いて行ったためだ。家事とかはすでに完璧にできるので問題ない。でも、あの両親は俺の世話を美海の両親に頼み。美海の両親は美海にその世話というかお目付け役見たいのを押し付けたらしい。
その為、家で飯を作って食っていたりする。そんな、美海を一人にするわけにもいかんしな。そんなわけで帰宅部らしく、すぐに家に帰るのだ。
家に帰りつくと、俺はすぐに部屋で着替えリビングに行く。すると、既に着替え終えた美海がいた。
我が家に服を置いているらしく、帰ってきたときは我が家で着替えてから買い物に行ったりする。まあ、我が家で寝泊まりしているわけではないので楽っちゃあ楽ではあるのだが。
そのまま、俺は美海と買い物に行き近所のおばさんに冷やかされつつ買い物を終え、家に戻る。
美海と話しつつ6時くらいになると美海が食事の準備を始める。
6時半から7時の間に飯を食い終え、美海は自宅へと戻る。
今日も変わらぬ毎日のサイクルだった。
だが、この後の展開を誰が予測できただろうか……。いや、きっと誰もできないんだろう……。
俺は美海が帰ったあと、風呂に入った。いつも通りの行動だ。風呂にはのんびりとつかり、いつも通りに過ごす。風呂に入ってる間何か変な感覚を一度感じたが特に何かあったわけではなかったのでその感覚自体がなかったものと考えた。
風呂から上がり、俺は冷蔵庫の前に立ち、牛乳を取り出し飲む。飲み終わると俺は、自分の部屋に戻るために階段を上がる。その途中何か変な感覚がしたが特に気にしなかった。
部屋の前に立つ。あれ?ドアノブってこんなに高い位置にあったっけ?まあ、いい。そう思い扉を開ける。
俺の部屋には普通は珍しいだろうが姿見がある。そこで俺は自分の変わり果てた姿を見た。
「はああああああぁぁぁぁぁぁぁっっっっっ!!!!!!!!!!」
姿見に映っていたのは俺ではなく金髪の長い髪をした子供だった。しかも女。着ているのは明らかにサイズが違うダボダボのTシャツ。
「おまえは誰だ!」
今にして思えば明らかに振りだよな?まあ、そんなわけで俺はテンパっていた。
考えてもみろ。突然知りもしない人物が自分の部屋の姿見に映ってたんだぞ?焦らない方がおかしい。しかも、見た目完全に幼女(?)なんだぞ?ここは便宜上少女ということにしようと思うが……。
ちょっと経って落ち着くと俺は再び姿見を見る。見ながら自分の体を動かす。まずは右手を上げる。すると鏡の中の金髪少女の左腕が上がった。つづいて左手を上げる。すると、さっきと同じような感じで右手が上がる。鏡は反転するので右手をあげたら左手が、左手をあげたら右手が鏡に映るはずだ。
「つまり、この少女は俺?」
何だこのメルヘンな展開は?俺は一度として女になりたいと思ったことはないし、ましてやこんなにも見た目が幼くなりたいなどと思ったことなどないのだ。
つか、これはもうファンタジーの領域に足を踏み入れるようなレベルでの不思議体験だ。
何が原因だよ?俺には心当たりなんてないぞ?っていうか元に戻れるのか?
そのとき俺の後ろから物音が聞こえた。なんつうか ガタンッ! って感じの音だった。
おいおい、こんなメルヘン体験中に強盗でも入ったのかよ?
恐る恐る後ろへと目をやるとそこには、妖精としか表現できないような、なんつうかちっこい人間見たいのがいた。
「どちらさんっすか?」
思わず声をかけちまった。何やってるんだよ、俺は……。
「え、僕ですか?僕はミリア=クライン。君のパートナーです」
何言ってんだこいつ?そしてこいつはこの後とんでもない発言をしてくれるのだった。
「そして君は今日から魔法少女です!」
勘弁してくれよ…………。