第9話「七柱」
「ゆー君、大丈夫!?」
辺りにいた『守護者』達を片付けた頃、階段から風香たちがやってきた。
風香やアリスのほかに見たことが無い顔ぶれもいる。
「俺は大丈夫だが、楓が・・・。」
俺は風香たちを部屋に連れて行き、血を流して横たわっている楓の側に駆け寄った。
「あなた、治癒能力でしたわよね。楓の治療をお願いしますわ。」
アリスが一緒にやってきた、三つ編みの女の子に言う。
「分かりました。」
言われた女の子は返事をし、倒れている楓の真横に来ると、傷口に触れるか触れないかの距離まで掌を持ってきた。
すると、掌からゆっくり傷口を覆う様に光が現れた。
徐々に傷口が塞がっていき、呼吸も安定してきている。
「一応、治療をしましたが、楓さんには暫くは安静にしてもらうことになります。傷付いた肺は完全には回復していませんので、戦闘を行うと若干、影響がでるかもしれません。」
一安心し、俺達は本来の行き先であるニューヨーク支部へ向かった。
ニューヨーク支部に着いた俺達は、ひとまず楓を支部にあるベットに運び、俺と風香、アリス、それとミュウと呼ばれている少女の4人が支部の書斎らしき場所に集まった。
他のハワイに駆けつけた者達は、それぞれの持ち場に帰ったと言う。
「とりあえず、ゆー君を救出出来たのは良かったね。」
嬉しそうに言う風香に対し、アリスやミュウは険しい顔をしている。
「その通りなのですが、楓がやられたとなると、『七柱』の方々は黙っていないですわね。」
「・・・面倒な事になる。」
二人の言い分にしまった、という様な風香。
「『七柱』ってのは何なんだ?」
話に全く着いていけないので質問する。
「『七柱』っていうのはね、私達の中でも特に能力の強い7人の事を指すんだよ。楓ちゃんも『七柱』の一人何だよ。」
「他には“絶対領域”のローラや私達のリーダーのアイシャを始め、後4人ほどいますわ。」
二人が説明してくれる。
「その『七柱』が何で黙っちゃいないんだ?」
「それはね、ゆー君は皆から期待されてるからだよ。唯一、『守護者』を倒せる存在、なのに『七柱』という強大な力が側にありながら、その『七柱』の楓ちゃんが重傷を負ってしまった。」
「そのことを、他の『七柱』、否、他の皆も、快く思わない、ということか?」
その通り、と風香がうんうんと頷く。
「皆は希望の星であるゆー君がこんなんで大丈夫か?って不安になっているんだよ。」
「そこでその不安を取り除くべく、貴方に難しい任務かなにかを行わせ、皆に信用してもらおうとするはずですわね。」
「まぁとにかく、彼女らから何らかの指示が出るのを待つしかありませんわ。」
そう言うアリスはどこか不安そうだった。
場所は移り変わりイギリスの首都、ロンドン。
その都市圏は比較的平坦な土地に広がっており、その中心部をテムズ川が西から東に流れている。公園と緑地帯の面積は市の39%にも及び、都会でありながら緑が多い地域だが、今は少し違っていた。
木は倒れ、道路はところどころ焼け跡が目立ち、ビルなどの窓ガラスは割れている。だが、人々はその光景を見ても一切驚かない。むしろ、気づいていない様だった。
それもそのはず、これは自然災害でも、人間の手によって起きたものでは無い。『存在しなかった者』達により起こされたのだから、人々は気づけ無い。
そんなロンドンで、一際爆炎が上がっている場所があった。外周護衛を担当する近衛兵の交代儀式を見物出来る事で有名なバッキンガム宮殿である。
壁はところどころ崩れ落ちており、その周辺には顔を骨の仮面で覆った『守護者』が倒れていたり、数名の女性が腕などに怪我を負っていた。
そんな中、唯一立ち上がっている者がいた。
火の粉舞う中、銀髪をはためかせ、右手首にのみ銀の腕輪をつけている。身に付けている真っ白なドレスには返り血一つついておらず、時折、揺れるスカートからは美脚が見え隠れしている。
また、ドレスの上からでも分かるほど大きな胸の持ち主である。
「粗方、片付いたようねぇ。アイシャ。相変わらずのその反則的な強さは何?」
そんな彼女の背後から、声がした。彼女が振り返り、その瞳に移ったのは、拘束服に身を包んだ金髪の少女だった。見た目は中学生ぐらいである。
真紅の瞳を持つ彼女の服のいたるところにポケットがあり、そこからナイフやらノコギリやらクナイやら、ハンマーなどの彼女には似合わない物騒なものが見えている。
これだけでも辺なのに極め付けに背中にはチェーンソーを背負っている恐ろしい少女である。
「お久しぶりですねぇ~。ルチアちゃん。いつ頃、ここに来たのですか~?」
「いつ私がここに来たっていいでしょっ。」
のほほんとした声に、少々苛立ちが込められた声が返される。だが、アイシャはそんなことを気にする様子もなくにこやかな笑みを浮かべている。
「そんなことよりも、楓がやられたことは知っているの?」
ルチアは真剣な表状になり、言う。
「あ、あの例の悠斗さん、ですよねぇ〜。」
「えぇ、そうよ。正直なところ、彼を余り信用できないのよ。仲間達や私も含めてね。ですが、彼には『守護者』の抹殺をやってもらわねばならない。そこで彼には信用を取り戻すために一仕事やってもらうわよ。」
「なら私も行かないといけませんよねぇ〜?じゃあ参りましょうかぁ〜?」
手をヒラヒラと振りながら歩き始めるが、
「アイシャ、そっちは逆方向よ。」
出だし早々間違えるのだった。
少し時間が経ち、ロンドンにあるギルトの本部。現在は『守護者』による結界の攻撃によって効力が弱まっており、戦争の真っ只中に置かれ、おまけに周囲の人間達に存在を知られてしまっている。
おかげで、野次馬達が門に集まっては騒いでいる。
そんな騒ぎの中、内部では恐ろしいほど静かだった。ある一室を除いて。
「アイシャ様は、まだ来ないんすか?もう待ちくたびれたっす。」
部屋のテーブルに不良のように足を乗せたベリーショートでボーイッシュな高校生ぐらいの背の女性が言った。
目は少し釣り上がっており、活発そうなイメージである。
「もう少し待ちなさい。ジュン。アイシャさんが来ないのは、それなりに忙しいからです。それにこのくらいのこと神は許してくれるでしょう。全ては神の思し召しのままに。」
修道女の格好をした、女性が分厚い聖書に目を通しながら言った。首から十字架の形をしたアクセサリーをぶら下げている。
「トスカナの言う通りだとリリスは思うなぁ♪ジュンはアイシャ姉、LOVE過ぎるんだよ。ねぇ、ポンちゃ〜ん♪」
修道女の言い分に重ねる様に、小学生低学年ぐらいの長い赤髪を2つに分けている少女が言った。白いワンピースを着ている。
「お前みたいなちびっ子にアイシャ様とのことをいちいち言われたく無いね。それにお前だっていちゃついてんじゃねぇか!!」
ジュンの指差す先には、骨の仮面をつけた男、つまりは『守護者』に抱きついているリリスがいた。
しかし、『守護者』は攻撃するどころか嫌がりもせず、彼女の頭を撫でている。
「リリスとポンちゃんはねぇ、相思相愛だから良いの。でもジュンは片想いでしょ?」
ジュンの反論にリリスが毒舌を吐く。その言葉でジュンは魂が抜け落ちた様に何も喋らなくなった。
そんな中、ギギィーと扉が開き、ジュンの表状が明るくなった。
そこから現れたのは『七柱』の一人、ルチアと彼女達のリーダーであり、この部屋に集まった者達と同じ『七柱』の一人、アイシャだった。
いかがでしたか?
気軽に感想、アドバイスをお書きください。
次回もお楽しみに。