第7話「最悪の場所」
「と、いうわけです。」
楓が弥勒という男について話し終えた。
詳しくは聞かせてもらえなかったが、話によると、弥勒とは遠い昔に楓が出会った男であり、強くないのに、強がって、助けを借りず、楓をからかったりするらしい。
話を聞くかぎり、根は良いやつなのではと思うのだが、楓は、わらわとの『約束』を破った馬鹿男だと言っている。
「そいつは生きてるのか?」
「もう死にました。」
顔を伏せ、震える声が返ってきた。
「幸せそうだったか?」
深く聞いてはいけないと思うのに言葉が勝手に出てくる。
「はい、幸せそうでした・・・。・・・悠斗様は変わっていらっしゃいますね。普通、こんなこと聞きませんよ。」
ゆっくりと顔を上げながら言う楓。その顔には悲しみの色は無くなっていた。
「ごめん・・・。」
「良いですよ。それに、この様なところも弥勒様に似ていらっしゃる。今まで待った甲斐がありました。」
それから暫く無言になったが、楓が口を開いた。
「そろそろ移動しましょうか?」
周りを見渡すが島一つ無く、海が広がっている
。移動するといっても、船も無いし、どの方向に進んでいいかも分からない状態である。
「移動するってどうやって?」
「これを使うのです。“物質生成”!!」
楓の目の前に一艘の船が出現する。そして、彼女はにこりと笑い、船に乗った。
時は過ぎ、風香達はアメリカ、ニューヨーク支部に来ていた。
ニューヨーク支部は路地裏にあり、途中の道にはストリートチルドレンらの姿もちらほら見受けられる。
そんな彼らの縄張りともいえる場所に、とんでもなく豪華な家があった。
大きさは日本支部約三つ分はあるだろう。
だが、彼らはそれに気づく事はない。
何故なら支部を囲む様に結界が張ってあるからだ。
そんなニューヨーク支部の中では、悠斗らの捜索が行われていた。
「ミュウ、楓は見つかりましたか?」
「・・・ちょっと待て。今、捜してる。」
ミュウと呼ばれた少女が言った。
青髪の少女である。背は160cmぐらいで、黒いスーツを着ており、腰のあたりに二丁の拳銃が掛かってある。
ミュウは目を瞑り、額に指を当てている。
彼女の能力は他人の位置を検索する能力。ただし、一度会ったことがある『存在しなかった者』のみで、『守護者』の場所は検索不可能である。
「・・・見つけた。場所はハワイ島。」
何の感情も込めずに、淡々と言う。
「そ、そんな・・・。」
「寄りにもよって、ハワイですって・・・。」
だが、風香とアリスは、しまった、と言う顔をしている。
「・・・ハワイはイギリスでの戦争で捕まえた『守護者』達を送った場所。・・・ 危険。」
相変わらず声色一つ変えずに言った。
南の島、ハワイ。
年間約670万人の観光客がやってくる国際的観光地であり、軍需と並びハワイ州の経済の屋台骨と言っても過言ではない場所である。
だが、人がたくさんいるはずなのに誰一人としていなかった。
「ご飯を食べようと思ったんだけど、誰もいないようですね。」
楓があたりを見渡しながら言う。蒸し暑いのだが、彼女は相変わらずゴスロリと着物が混ざったような服を着ていた。暑くないのか?と思うのだが、汗は掻いていないようだ。
「そういえば、さっきの“物質生成”だったけ。あれで食べ物を出せば良いんじゃないのか?」
「わらわの能力では、食べ物は出せません。出せるのは武器やら、乗りものやら、自分では作れない物だけなのです。」
自分で作れない物なら何でも出せるんですけど、と付け加えた。
「そんなことより、ここは、というよりこの島全体に人除けの魔法か何かが掛けられているようです。こんなことが出来るのはわらわの仲間か『守護者』と思って良いでしょう。」
「つまり、移動は最小限に抑えたほうが良いってこと?」
「その通りです、悠斗様。」
前者ならまだ良いが、後者の場合は命の危険にさらされる。日本で襲われたあんな経験はあまりしたくはないからな。
「とりあえずはあのホテルに行きましょう。」
浜辺の近くに建っているホテルを指差し、俺たちは歩き始めた。
ホテルは20階建てのものであった。
エレベーターはあったが、動いておらず、やはりホテル内にも誰一人いなかった。
中は綺麗に掃除してあることから、ここには人があまり来ていないようだ。
とりあえず、俺達の潜伏する部屋が決まった。
10階にある西側の階段から二つ目、東側の階段から四つ目の部屋、1005号室である。
鍵が掛かっていたが、楓の馬鹿力でドアは呆気なく破壊された。部屋の中は洋風な造りとなっており、テーブルやテレビ、タンスなどがあり、奥の部屋にはベットが二つあった。
「悠斗様、疲れたでしょう。お休みになってください。」
奥の部屋に入るなり、楓は言った。
「楓の方こそ休みなよ。見張りは俺がしてるから。」
「わらわのことは気にしないでください。三日間、地下にいる間、寝てましたから大丈夫です。」
そう言うと、彼女は無言で俺の目を見てきた。
「分かったよ。お言葉に甘えさせて貰う。」
「それで良いのです。・・・悠斗様にはまだ死んでもらうわけにはいきませんから。それではお休みなさい。」
楓が部屋から出ていく。ベットに入り、俺は眠った。
部屋から出ていった楓は暫くコの字型の椅子に座り、悠斗が寝静まるのを確認すると、廊下に出るドアのドアノブに手を掛けた。
「悠斗様〜♪悠斗様〜♪待っててくださいね。全部片付けておきますから。」
そして、ドアノブを捻った。
ドアが開いていく。その瞬間、中に何者かが入ろうとした。だがそれは、楓の正面に突然、出現した巨大なハンマーにより、阻まれた。
ハンマーにあたり、何者かは廊下の壁にめり込む。
そいつは骨で出きた仮面を付けており、足下には槍の様な武器が落ちている。
楓はそいつの姿から『守護者』であると確信した。
廊下に出ると、左右に、『守護者』が4、5体ずついた。更に東西の階段から、足音が徐々に近づいてきている。
楓はゆっくりとドアを閉め、『守護者』達を見渡す。
そして、ドアを守るように背を向け、言う。
「悠斗様が寝でいらっしゃいます。あまり騒がないでよね。」
その声は威圧感たっぷりであり、これから起こる戦いを楽しむように口が弧を描いた。
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次回もお楽しみに。