第6話「着物?な少女」
空港に無事に着き、一段落する俺達。
『ギルド』から空港まで約9kmの道のりを走り続けたが、余り疲れは感じられなかった。
その後、ニューヨーク行きの飛行機に乗った。
「それにしても、ファーストクラスなんて、よくそんなお金があったなぁ。」
左隣に座っている風香に言う。
「お金なんて払ってないよ。コレでちょちょっとね。」
風香は笑顔で、大鎌を指差しながら話す。
「良いのかよ?金払わなくても。」
「いいのですわよ。私達はもともと『存在しなかった者』。社会のルールなんて当てはまりませんわ。それにそんなことにお金を使っていたらこちらが持ちませんわ。」
俺の右、通路を挟んだ向こう側の席に座っているアリスがコーラを飲み、言った。
「そんなもんか。」
「そういうものですわ。」
そんな会話をしていると、何やら後ろの方が騒がしくなってきた。
「お客様、今から離陸しますので、お席にお戻りください。大変危険です。」
スチュワーデスさんの声が聞こえてきた。
「大丈夫だから気にしないで。っとっとっとぉ。」
そんなスチュワーデスさんの声を無視している様子の凛とした女の人の声が聞こえてきた。
飛行機内が少し揺れると、よろけたのか体制を崩し、俺のほうに倒れてきた。どうやら飛行機が動き出した様だ。
俺は慌てて席を立ち、お姫様抱っこをするような形で受け止めた。
視界には鮮やかな赤が映ると同時に、甘い香りがした。
その少女はきれいな赤髪をしていて、華奢な体をしていた。
桜が描かれた着物とゴシックロリータが混ざったような服装をしている、とにかく派手な格好をしている少女だった。
「大丈夫?」
「あ、ありがとう。」
少女はそういうと、手で顔にかかった髪を払い、その顔が露わになった。
整った顔立ちだが、まだ幼さが残っており、赤く輝く灼眼が俺の目を捉えていた。
「弥勒さま・・・弥勒様!!」
少女が満面の笑みを浮かべ、俺に抱きついてきた。弥勒って誰?
「楓ちゃん・・・!?」
「楓、あなたがどうしてここに!?」
すると、左右から驚きの声が上がった。
って、楓っていったか。この子がみんなが言っていた子か。
確かに小動物のように可愛いし、着物(?)も着ている。
「アリスさんに、風香ちゃん、三日ぶりだねぇ。元気にしてたの?」
俺に抱きついたままの状態で、俺の肩に顎を乗せ、二人に話しかける。
「元気にしてましたけど・・・。あ、あなたは日本支部にいるはずでは?」
アリスが言葉を詰まらせながら言った。
「抜け出してきました。咲は抵抗しましたので、ちょっと大人しくさせて貰いました。あ、ご心配無く。命までは奪ってませんからね。」
「そ、そうなんだ・・・。」
風香が安堵の声を上げる。そこは安堵するところなのか?
「そんなことよりも、風香ちゃん、アリスさん。この方が来られたら、わらわに一声かけてくれても良かったのではないか?」
その瞬間、周りの空気が凍りついた様な気がした。
その言葉は淡々と出ているが、ほんの少しの怒気を孕んだ様な声だった。
「そ、それは・・・そのぉ・・・。」
「なんといいますか・・・。」
二人が言葉を濁す。そんな様子を見て、楓はぷうっと頬を膨らませ、二人を睨みつけ、
「私だけ仲間外れとは酷いよぉ。それなら今からわらわがこの方を自由に使ってもいいよね。」
と言うと、俺を更に強く抱きしめてきた。
「駄目ですわ。」
「私達で護衛するように本部からも命令が来ているんだよ。」
「そんなこと、知ったこっちゃ無いです。いざとなれば本部ごと潰せばいいだけでぇす♪。」
にはは、と笑いながら物騒なことを言う楓。冗談だと思うのだが、風香とアリスの顔が真っ青になっているのを見ると、どうやら冗談で済むような感じではないらしい。
「と、言うわけでちょっと借りるねぇ。」
楓は抱きつくのをやめ、立ち上がり俺の手を掴むと、飛行機のドアを、『存在しなかった者』特有の馬鹿力で無理やり開け、空中にダイブした。
「うそぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」
俺の叫びは、ビュービュー吹く風の音でかき消されていく。
「ちゃんと掴まっていてくださいね。」
「掴まるってどこに!?」
かろうじて右手は彼女が掴んでおり、左手で彼女の肩にしがみついているが、今にも離れてしまいそうである。
「どこでも良いですよ。お好きなように。」
お好きなようにって・・・。でもどこかに掴まっていないとこのままでは落っこちてしまう(今も落っこちているのだが)。なるべく女の子が、嫌がるような場所を避け、ウエストの辺りを掴む、というより抱くというような形で掴まった。
「あっ・・・!!」
「あ、ごめん!!」
楓が声を上げたので、慌てて手を離そうとするが、
「いいですよ、気にしてないから。」
そう言って、左手を俺の右手に重ねてくる。
「ちゃんと掴まっててください。・・・“物質生成”!!」
その言葉と共に、海面が輝きだし、エアークッションの様なものが出現する。
「まだまだ・・・!!」
さらにエアークッションが出現し、俺たちはそこに落下する。
ポワンっと跳ね返される。全然痛みは無かった。
「大丈夫!?怪我はない?」
楓が近寄りながら尋ねてきた。
「平気、平気。それより君のほうこそ、怪我とかはなかった?」
「本当ですか、良かった~。」
安堵の声を漏らす楓。すぐに、困ったような顔になった。
「そ、そのぉ・・・お名前は?」
「あぁ、まだ自己紹介していなかったか。俺の名前は実神楽悠斗だ。悠斗って呼んでくれ。」
「実神楽・・・実神楽、あ、はい悠斗様。わらわは楓と言います。」
ぺこりとお辞儀をしてくる楓。そして、まじまじと俺の顔を見てくる。
「やはり、弥勒様に似ていらしゃる。」
「なぁ、楓。弥勒っていうのは誰なんだ?あ、別に答えたくないなら答えなくてもいいぞ。」
楓は少し顔を伏せたが、ゆっくりと、顔を上げた。そして、話し始めた。
一方その頃、飛行機にいた風香とアリスは焦っていた。
「どうしよう、どうしよう、ねぇどうしよう?アリスぅ・・・。」
飛行機内は先ほど人が飛び降りたというのに、騒ぎになっていなかった。まるで、悠斗達など知らないといった感じだ。
「ちょっとは落ち着きなさい。私達じゃあ、飛行機から飛び降りるだなんてことしたら、死んでしまいますわ。」
「とりあえずは周辺の各支部に連絡を。手の空いている者には捜索を手伝ってもらいましょう。私達はニューヨークに着き次第、支部にいるミュウに会いに行くわよ。」
アリスの指示に、頷きながら、早速連絡を取り始める風香。
風香たちの連絡手段は携帯電話ではなく、『存在しなかった者』の力を使って行うものなので、飛行機の中からでも連絡することが可能なのである。
一通り連絡を終え、座席に深く座る風香たち。
「それにしても、ゆー君大丈夫かなぁ?」
「敵に襲われても、楓がいるので大丈夫だと思いますわ。彼女は何といっても一人で、一国の軍隊や、大量の『守護者』達を捻り潰してきた猛者ですわよ。最も、敵にすると同胞殺しまでやってのける厄介な存在ですけど今は私達の味方、多分ですけど。これほど心強いものはないですわ。」
2人を乗せる飛行機はまだ、ニューヨークに着く気配は無い。
いかがでしたか?
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次回もお楽しみに。