第3話「守護者」
「ただいま。」
風香を無視して家に帰って来た俺。玄関で靴を脱ぎ、リビングを覗くと、誰も居なかった。時計を見てみると午後3時になったばかりである。
母親は仕事に、妹は中学校に行っている頃だろう。ちなみに父親はいない。俺が産まれると同時に死んでしまったらしい。
2階にある自分の部屋へ向かう。
ドアノブに手を掛け、ドアを開ける。
いつも通りの部屋、少し散らかっている机、たくさんの本がある本棚、それらがある・・・
「・・・っ!?」
はずなのに、部屋には何も無い空間が広がっていた。
昨日の朝まではいつも通り合ったはずなのに。
「ただいまぁ。」
母さんが帰って来たようだ。
急いで下に降りながら、
「母さん、俺の部屋どうな・・・って・・・。」
「どちら様ですか?」
俺の言葉は母さんの言葉で遮られた。
どんな冗談だよ。俺はあんたの息子だぞ。
だが母さんの表情はまるで不審者を見る様な感じだった。
「警察を呼びますよ。」
玄関に母さんの声が響く。
その時、玄関のドアが勢い良く開かれた。
「・・・遅かったみたいだね。」
「そのようですね。」
そこには風香と俺が不良に追いかけられる元凶となった金髪ツインテールの少女がいた。
「おま・・・っ!!」
俺の声は、ずかずかと中に入ってきたツインテール女が口を手で塞いで来たため遮られる。
「急いで!!」
「分かってるって。」
ツインテール女の声に風香が反応し、手に持った大鎌を母さん目掛けて振った。
斬られた瞬間、母さんは意識を失ったように倒れた。
呆気にとられる俺をよそに2人は手際よく母さんをリビングのソファに寝かせ、俺の右手を風香が、俺の左手をツインテール女が掴み、
「ゆー君、行こっ。」
「何ボケッとしてるの?行きますわよ。」
彼女らに連れられ、俺は家を飛び出した。
暫く歩き、人通りも少ない裏道に入ると、2人は走るのをやめた。
そして、俺のほうを振り向き、言った。
「ゆー君、ごめんね。ショックだったよね?」
「風香、いいですわ。こんな人間のクズみたいなヤツに謝る必要なんて無いですわ。それにコイツは私の可愛い風香の待って、っていうお願いを無視するなんて万死に値します。」
申し訳なさそうに謝る風香と、その横から暴言を吐きまくるツインテール女。
「大丈夫だ。それに風香が助けに来てくて助かったよ。それよりも、おい、そこのツインテール女。」
「何か用ですの?それに私はツインテール女じゃなくてアリス・セイルストンって名前があるのですわよ。」
俺が指差すと、ツインテール女もといアリスはイライラを隠すことない表情でこっちを見てきた。
「よくもあの時はやってくれたなぁ。不良を俺に押し付けたじゃねぇか。」
「あの時の男でしたか。」
今、思い出した様子のアリス。
「知り合いなの?」
「えぇ、こいつったら女の子がピンチなのに見てみぬ振りをしようとした最低人間ですわ。」
アリスの言っていることは本当のことだけに、精神的にキツイ。
「そんなことより、風香、ちゃんとこのクズに説明してあげないといけない事があるんでしょっ。」
アリスはビルの壁にもたれかかり、腕を組んで言った。
「あの時のお母さんの反応はね、契約のせいなの。ゆー君は死なないために、魂以外の全てを捨てた。それによって、『存在していなかった』ことになってるんだよ。」
存在していなかった、だから俺の母親は俺のことを知らなかった。俺の部屋が無くなっていたということか。
「だからね、ゆー君の友達とかも忘れていると思うんだよ。」
「じゃあ、俺はこれからどうすればいいんだよ!?」
「私達に着いて来てもらいますわ。その方があなたも得策かと存じますわよ。」
風香は肩に大鎌を担ぎ、アリスは不敵な笑みを浮かべて言う。
「得策・・・?」
「えぇ、あなたはもう人間ではないのですよ。つまり・・・おっともう来たようですわね。」
「ゆー君、逃げる準備をしてね。」
俺を守るように風香は前に立ち、アリスは手のひらから火の玉を出現させ始めた。
彼女達が見上げる先、5階建てのマンションの屋上からこちらを見ている姿があった。
背の高さは180cmぐらいで、手には大きな剣を持っていた。
学生服を着ており、顔には骨で出来た仮面のようなものをつけている。
暫くこちらを見つめ、仮面野郎は何の前触れも無く、屋上から飛び降りた。
加速しながら落下し、地面に当たる直前、一回転し、こちらへ向かってきた。
一瞬で間合いを詰められ、ヤツの刃先が俺の心臓に突き刺さる寸前、
「はぁっ!!」
金属同士がぶつかる音が鳴り響き、俺の心臓を庇うように大鎌が大剣を受け止めていた。
それと同時に、無数の火の玉が、仮面野郎目掛けて飛んできた。
仮面野郎はすぐさま後ろへ飛びずさり、火の玉は先ほどまで仮面野郎がいた地面を焼く。
「まだですわ!!」
その声と共に龍の形をした炎が、アリスの手から仮面野郎の下へ突っ込んでいく。
仮面野郎は宙へ飛んで避けようとするが、
「残念でした~♪」
その先には風香が待ち構えており、横から上半身と下半身を真っ二つに切り裂いた。
持っていた大剣が手から滑り落ち、地面に刺さり、遅れて仮面野郎の体がコンクリートの地面に叩きつけられる。さらにそこへ龍の形をした炎をが突っ込み、体が炎に包まれる。
「これで暫くは追ってこないはずですわ。」
「そうだね、移動しようよ。」
あたりに異臭が立ち始める中、俺たちは近くの喫茶店へ向った。
「アイスコーヒー二つとチョコパフェ一つお願いします。」
店員さんに注文し、話は本題に入った。
「さっきのヤツは何なんだ?」
「『守護者』と私達は呼んでいますわ。」
「『守護者』?じゃあ何であいつらは俺たちを襲ってきたんだよ?」
そういったとき、注文したアイスコーヒーとチョコパフェを持ってきた店員さんがやってきたので話が一旦途切れる。
風香はチョコパフェを一口食べると、
「私達を消すためなんだよ。ゆー君は私達側になったって言ったよね。つまり私達も『存在していなかった』ってことになってるんだよ。」
と言って、また一口食べる。
「だけど、世界は、否、神様はそんな私達を許さなかったんだよ。本当は『存在しなかった者』が『存在している』、つまりイレギュラーなことが起きてしまったんだね。その場合、ゆー君なら元に戻すためにどうする?」
風香がスプーンをこちらに向け、返答を促してくれる。アイスコーヒーを飲み、少し考えて、
「・・・イレギュラーなことの原因となったのを消すだろうな。」
と俺が言うと、風香は「その通り。」と言った。
「神様は私達を消すために『守護者』を創り出し、世界中に放ったんだよ。」
「『守護者』は焼かれようが斬られようが、時間がたつとまた復活しますわ。要するに、不死身なんですわ。」
風香のチョコパフェを横から食べたアリスが言った。
「ですが、『守護者』もまた、『存在しなかった者』を消すための『存在しない者』に変わりありませんわ。つまり彼らは私達を殺すと、殺した『守護者』も一緒に死んでしまいますわ。死ぬというより消えてなくなるといった方が正しいですわね。これは確認済みですわよ。」
そして風香はチョコパフェを食べ終わると言った。
「私達は一つの仮説を立てたんだよ。それはね、私達の人数分、『守護者』が用意されてるんじゃないかってね。私達が全員、死んだ時、『守護者』もいなくなり、世界は元の状態に戻るんじゃないかってね。」
そして、暫く間を空けて風香が口を開いた。
「そこで、ゆー君に協力してもらいたいんだよ。」