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第28話

派手な爆音が戦場に響き渡る中、わらわは牢獄に閉じ込められていた。


地面に刺さり四方と天井を塞ぐ黒い鉄格子の中、手錠と足枷を嵌められた状態で地面に這いつくばらされている。黒い金属で出来た手錠と足枷には鍵穴が一つあり、さらに鎖もそれぞれ一本ずつ鉄格子の四隅に長さはバラバラで括り付けられていた。


体を動かそうにも鎖が擦れる音だけが虚しく鳴り響くばかりで、外れる気配は無い。


「ったく、『七柱』ってのはあんな化け物なのかよ。チッ、もっと金を貰うべきだったぜ。あー、割りに合わねぇ。そう思うだろ?囚われのお嬢ちゃん」

男の声がわらわの上空から浴びせられた。文字通り上空、黒い鉄格子の天井部分に器用に立っているのだ。


寝癖の様に跳ねた不恰好な銀髪等気にせず、気怠げに目を細めたその男、マイクは不敵な笑みを浮かべて言った。ダボタボの黒のジャージをだらしなく着こなすその姿からは気迫が感じられない。


「わらわを捕らえて置いて良く言うね。一応、『七柱』の一人何だけどな」

首だけを動かし、嫌味垂らしく言ってやる。マイクは、すまん、すまんと反省のこもっていない謝罪の言葉を口にした。


完全に油断した。この風貌に、闘志の無いやつの姿勢に、面倒くさがりなその性格に。わらわはマイクの実力を図り損ねてしまった。


この男は強い。


「にしても、やっぱりスゲぇな。ボブの野郎、殺られちゃったよ。あー、お嬢ちゃん抜け出そうとしても無駄だぜ。ほれ」

わらわの能力『物質生成』で、手錠の鍵を生み出した瞬間に、この男は手錠の鍵穴を塞いだのだ。鍵穴が無かったことになり、手錠から金属の輪へと変わったことを意味していた。


「まぁ、安心しな。俺はお前を殺すつもりは無いから。というより、俺には殺せないのさ。お前らを捕まえておくことが、依頼主の命令だからよ」

そう言って、鉄格子から足を離したマイクは地面に脚をつけた。軽やかなジャンプとはお世辞にも言い難い、危なかしい着地であったことは内緒にしてくれよ、とマイクはこちらに目を向けている。


「っと、囚われのお嬢ちゃん。捕らえた俺が言うのも何だけどさ、君とのおしゃべりはもうお終いのようだ。これはもうあれだよ、追加料金を請求しないといけないぜ。飛んだ悪徳商法に引っかかったみたいだ」

目線を外し、立ち込める砂煙の先、二つの人影にマイクは視線を向けた。

トスカナと志穂さんだ。


「楓、何しているの?貴方ともあろう人が」

冷めた目でトスカナは私を見下ろし、次に視線をマイクの方へと向けた。


「おいおい、怖い顔すんなよ。修道服のお嬢ちゃん、可愛い顔が台無しだぜ。俺にはお嬢ちゃんみたいな連れが一人いてな、あんまり戦いには乗り気じゃないんだよ。うん、本当に。だからさ、大人しく投降してくれないか?無駄な労力は使いたく無いんだ。俺はもう年だからな、腰とかに来ちゃうんだよ」

おちゃらけた様子で、マイクは話すが、その頬、剃り残しのヒゲが出ている頬に一線赤い筋が現れる。

志穂さんの飛ばした針だ。


「そういうわけには、いかないのよ。さっき、仲間から『大天使』が接近してると連絡が来たわ。だから、ゆっくりする時間は無いのよ」

刹那、志穂さんが動いた。それに続くようにトスカナは詠唱を始める。


「あー、マジついてないぜ。依頼料は二倍いや、三倍だな。んじゃまあ、サクッとやりますかぁ?怠いし」

マイクの口元が僅かに笑みを浮かべた。








わらわは何も出来ずに唯、見ているだけだった。

そして、


「終わった、終わった。いやー、疲れたぜ。早いとこ、金を請求して帰りたいね」

両腕を伸ばしてリラックスしているマイクと、


「...っ」

「...」

両手、両足を黒い鉄棒で串刺しにされ地に縫い付けられている志穂さんと、真っ白の十字架に手足を固定され、幾重にも鎖を巻かれて磔にされているトスカナの姿がそこにあった。


こいつの能力、『籠の中の鳥』は、対象者を捕獲し拘束する異能。その捕獲方法は様々だが、決まって共通点が捕まれば脱出はほぼ不可能であることだ。


「おーい、名無しの嬢ちゃん。こっちは終わったぜ。...って、聞いちゃいねぇな」

マイクの視線の先、決して派手な戦いでは無いものの、細かな何百手という技の出し合いが一瞬のうちに繰り広げられている。

片や、名前を名乗らなかった幼女が嫌に楽しげな笑みを浮かべていた。片や、わらわ達のリーダー、弥勒が苦々しい表情を貼り付けていた。


「弥勒様...」

「うん、助けに行きたいのかい?でも、止めときな。お嬢ちゃん達じゃ気付く間もなく肉塊にされちまうぜ。命が惜しけりゃ大人しく、な」

わらわの呟きにマイクは返す。


「そうだよ。君達は大人しく鑑賞するがいいよ」

上空から声が聞こえた。その声は、囁くようなそれでいて背筋が凍りつくような声だ。わらわはその声を知っている。


「暇だったから居ても立っても居られず、つい出て来たら、面白い事になってるよ」

真っ黒のゴシックロリータをはためかせ、日傘をくるりと回しながら彼女は降り立つ。


「ねえ、ボクも混ぜてくれないか?」

“怠惰の黒姫”。明だ。




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