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第25話

「西九条君。ボクらは、ここで待っているように言われたけれどさ、退屈なんだよね。」

くるくると日傘を廻しながら、明は陰の中に入る。


「少しは大人しくしてろ。」

西九条暗は、明から日傘を取り上げると、代わりに持ち、明に影を作っている。


「そう入ってもだね、命令されると抗いたくなるのは、仕方の無いことだよ。まぁ、西九条君に迷惑を掛けるわけにはいかないから、ここはまだ離れないよ。ただ、退屈なのはどうしようもない。だから、少しボクの話を聞いてはくれないか?」

明は猫のような笑みを浮かべて言う。


「...。」

渋々といったように暗は頷く。


「では、話そう。『緋色の旅団』には団長のオリョウ以外にも強力な4人の幹部がいるんだ。」

明は鮮やかな赤のリボン帯を解いては結びを繰り返しながら話を始めた。


「まず、一人目は...。」










「うちの名前は司法院(しほういん)仙花(せんか)。まぁ、覚えるか覚えんかはあんさんらに任せるわ。」

ただでさえ高い身長で、ハイヒールを履いているその女はそれだけで妙な威圧感を放っていた。


例えるなら、極道の女と言ったところだろう。その眼光の鋭さは並大抵の者を寄せ付けないだろう。


だが、それは並大抵と言うだけで、いまこの場においては、並大抵の者などいなかった。居るのは異能をもつ異常なやつらだけだ。


「アイシャ様、この女の相手はこの私にお任せ下さい。」

恭しく言って、頭を下げたのはアイシャの懐刀にして、策略家チャールズだ。


「いいですよ~。戦闘向きでは無い貴方の相手はあの女がちょうどいいでしょうね~。では任せますよ~。」

アイシャはそう言って、残りの二人に目を向ける。ガルムと二人はお互いに牽制し合い、動けないでいる。


「と、言うわけでアイシャ様の許可もいただいたので戦いましょうか。」

チャールズはクルクルとステッキを廻し、その棒の先を司法院に向けた。


「?」

司法院が訝しげな顔をした数秒後、


カチリ、と音がしてステッキの先端が折れた。そしてそれは人差し指ほどの太さの空洞がある筒へと変わる。


「Are you ready?」

「...!!」

バンと、そこから一発の弾丸が飛び出した。

それは真っ直ぐに、司法院の額に向かって行く。


ただし、亀のようなノロさで、だ。

「は!?遅すぎでは無いんか?こんなんにうちが当たるとでも思うんか。」

女は馬鹿にするように笑う。其の間にもノロノロと進んでいるが、距離的にはあまり変わっていない。


「ほな、今度はうちの番や。」

カツン、とハイヒールを鳴らす。カツン、カツンと一定のリズムで鳴り響いて行く。


刹那、ドンという地割れの音に変わった。

司法院が足踏みしていた地面はひび割れているが、ハイヒールには一切の傷は無い。


「うちの能力は『急がば回れ』や。足踏みすればするほど、うちの脚力は向上する。」

ニヤリと女は勝ち誇った笑みを浮かべた。


そんな女にチャールズはクルクルとステッキを回しながら、女の足元を見ていた。


「なに黙りこくってんの?ちゃんと戦いに集中せえへんか!!」

グルンと腰を捻り、勢いをつけた女の足が、チャールズの頬を掠めた。

ツーと地が垂れてくる。


司法院は続けざま、先ほどの足を反転させ、返す容量で再びチャールズに襲い掛かる。

が、チャールズも女の足を避けられる間合いを測り、後ろに下がるが、


「!!」

避けたと思った足は、チャールズの頬に今度こそ当たった。


だが、女の足技は止まらない。続けてカポエラの要領で、片足を地面につけては、もう片足で、顔面、腹、足元をランダムに狙う。


チャールズも、腕でガードするがそれも追いつかなくなる。終いには、されるがままに蹴られ続けていた。


ただし、ステッキを持っている右腕だけは動かし、クルクルとステッキを回す。その空洞は毎回、司法院の左胸を向いていた。


「これで終わりや。」

飛び切り力のこもったかかと落としが、チャールズの左肩にクリーンヒットした。


チャールズは膝から崩れ落ちる。

左腕は力なく垂れ下がり、脱臼している。


「...今のはマズイですね。ただ、今までの戦いで貴方の能力は解析しました。」

チャールズは左肩を抑えること無く、右手でステッキを回転させながら立ち上がる。


「足踏みでの脚力向上。貴方はそう言いましたが、それは違う。貴方のような足技を主として戦う方は、ハイヒールなんて動きにくい物を履くはずが無いのです。足踏みならば、他の靴底が平らなものを履けばいい。」

チャールズは、口の中に溜まった血をペッと吐き出す。


「では何故ハイヒールなのか?それは至極単純な話です。背を高く見せることなのですから。地面に接する面積が少ないと言うのもありますが、今回においては背を高く、と言うのが鍵と言っていいでしょう。」

チャールズはクルクルとステッキを尚も回し続ける。


「つまり、貴方の能力は『背の高さによる威圧感』を原動力としたもの。人は自分よりデカイ物を見ると、無意識に委縮してしまう。それに漬け込み、相手が心の奥底で委縮した分、『相手との物理的距離を縮める能力』。なので、二発目の貴方の攻撃を避けられなかったというわけです。」


「だから、なんやいうねん。うちは、最初に地割れを起こしてんねん。これはどう説明するん言うんか?」

司法院は表情を歪めて、問いかける。


「もともと貴方の脚力は強かった。でも、地割れを引き起こすほどではないでしょう。仮にそんな威力なら、貴方の攻撃で私の骨はへし折れていた。だからこそのハイヒールなのです。ヒールは地面に接する面積が少ない。故に力が一点に集まると言うこと。それにハイヒールは音が響きやすいので、最初の足踏みという印象付けには最高のパフォーマンスになるでしょう。」

チャールズは恭しく自分の推理の終わりを告げる様に礼をする。


「それがどないしたっていうねん。確かにうちの能力は『急がば回れ』やあらへん。あんさんの推測通りや。だけど、それがどないやねん。人間が一度抱いた印象は、中々変われへん。うちの優勢は変わらへんねん。」

開き直る司法院。


「では、これならどうでしょう。」

そう言って、何やら帽子を被る動作をする。動作をしただけで、実際手にはなにも持っていない。


「なんの真似や?」

「今、私は馬鹿には見えないシルクハットを被りました。故に、私は貴方より背が高い!!」

自信満々に言うチャールズを見て、忌々しく司法院は顔を歪める。


「存在しない。妄想。空想。そやから、それを否定することは不可能ってわけか。」

「そういうことです。そして、貴方の能力は封じました。次は私の番です。」


チャールズはステッキをくるりと回す。

突然、血飛沫が上がった。

血はドロリと司法院の胸元を汚していく。


「なっ...なにを...。」

「『千発の弾丸は一発の軽み』これが私の能力です。弾を千発同じ場所に当てたらようやく一発分の威力を発揮する使い勝手の悪い能力。弾の速さは速すぎ、大きさは小さ過ぎて、気付かれる心配はないですがね。そして、もう一つ。」


バババンと、花火が弾ける様な音がした。

司法院は体から止めど無く溢れ出る血、骨を貫通して穴だらけになった身体を見て、悟った。


「『一発の弾丸は千発の重み』。最初に撃った弾がようやく貴方に当たりました。一発で千発の威力を与えるものですが、遅過ぎて使い辛いことこの上ないのですがね。ともかく、私の勝ちです。」

バタリと司法院は崩れ落ちた。その目は濁っており、すでに息をしていなかった。

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