第22話
『緋色の旅団』はオリョウ様を中心に出来た組織だ。主にヨーロッパを中心に活動しているが、それには理由がある。
『魔術師』とのいざこざが原因だ。当時、イギリス、イタリアを中心に魔術師はヨーロッパ各地で見られていた。
彼らはその力を用い、国を裏で動かし、実質的な支配者になっていた。
魔術師の中には権力などに興味は無く、人々の幸せの為に行使するものもいたが、極少数の話だ。
そんな時にだ。わらわ達のような『異能者』と魔術師が出会ったのは。どういう理屈かは分からないが、魔術師は何故かわらわ達を見れていた。勿論、わらわ達の力も。
最初は魔術師達は、自分達と同じ魔術師と勘違いをし、仲間に引き込もうとした。
それに対し、異能者の多くは支配や権力に興味の無いものが殆どなため、断った。
だが、これが争いの原因となる。
魔術師達は、自分達以外の派閥ができることを嫌う。権力を手にしていた彼らにとって、自分達の誘いを断った者達は自分を脅かす脅威にしか見えなかったのだろう。
力あるものは、人の上に立つものは、一人いれば充分ってこと。
初めは、裏での暗殺が行われていた。
闇夜に紛れて、スパッと行われるあれだ。概ね、そのやり方は正しかった。
対異能者を考えても、一般人達への影響を含めてだ。
そんな中、1人の異能者が殺された。
いつも通りに何のドラマも無く、喉を裂かれて殺されていた。
ただし、その異能者が『緋色の旅団』団長、オリョウ様の孫娘である点を除けばだ。
『異能者』とは言っても、元は人間だ。平穏か騒乱かはさて置き、悲劇を体験して異能者になったとしても、元は人間だ。
家族や親友、師弟など、人間らしさを持った異能者もいる。
そして、それは歴戦の闘いを潜り抜けてきたオリョウ様も例外ではなかった。
孫娘の仇をとるため、『緋色の旅団』という強大な力を用い、魔術師を殲滅する為に今でも戦い続けていた。
そんな経緯のある『緋色の旅団』に、オリョウ様に弥勒様は、こう告げられた。
「魔術師との戦いから、手を引け。」
その場の空気が一気に凍りつくのが分かります。そんな中、
「カカッ、それを承諾すると思っておるのか?」
老婆の皺がれた声だけが響きます。
「勿論、ただでとは言わない。」
そう言って、弥勒様は志穂さんに合図を送ると瞬間移動で弥勒様の手元に箱を出現させました。
弥勒様は、それをオリョウの前に差し出し、蓋を開ける。
そこには、紅いペンダントが一つと、青い指輪が二つ入っていた。
「宝具、『紅蓮』と『ロードリング』2つだ。知り合いの宝具士が作ったものだ。と言っても、宝具を作れる人間何て一人しかいないがな。」
宝具とは、それ単体で『異能』を発動出来るものだ。
『紅蓮』は、火を操ることが出来、『ロードリング』は、一つ発動すればどんな場所にでも道を作ることが出来、二つ同時に発動すれば、どんな足場も一瞬で消せる宝具なのです。
「ほう。」
オリョウは暫し考えた後、
「なぜ、弥勒殿は手を引けと申す?」
と口にした。
「お前らの争いが目立ち過ぎている。そのせいで魔術師以外の人間達も俺達の存在に気づき始めている。あぁ、なんだ。あれだ。」
面倒くさそうに弥勒様は頭を掻いた。
「お前らのゴタゴタで、こっちにまで被害が広がる恐れがある。迷惑だ。それに、」
弥勒様は一呼吸置いて、次の言葉を発した。
「大天使が現れる可能性がある。」
『緋色の旅団』のメンバーの顔色が変わった。
「かつて、原初の戦いでただ一度現れた大天使。『守護者』にも『異能者』にも属さない、中立者。世界のバランスを保つ為ならば、国の一つや二つ平気で消す。これぐらいなら聞いたことがあるだろ?」
静寂が再び訪れるなか、オリョウ様だけは笑っていた。
「それだけか?なら、返答は断るじゃ。本当にやめて欲しいなら、宝具の数をもっと用意するんじゃな。」
オリョウ様は、床を杖の先で叩く。
カッカンと、音が響いた。
「その程度のことでやめられるなら、既に手を引いておる。孫の声が、声がな聞こえるんじゃ。苦しそうな、な。」
それっきりオリョウ様は喋らなくなった。
「そうか、だが忠告はした。もし、大天使が現れたのが確認出来たら、酷くなる前に、俺達が、『緋色の旅団』を潰す。徹底的に、な。」
弥勒様はそう言って、出口へ向かわれる。
弥勒様が、ここまで脅迫まがいの忠告をするなんて珍しい。以前にも、他の集団相手に忠告をすることはあっても、ここまでの脅迫的物腰は初だ。
弥勒様はこんな冷徹なことを言うのかと、心の何処かで思っているわらわがいるのかもしれない。裏切られた気分になっているのかもしれない。
優しい弥勒様と思っていたのに。
弥勒様がわらわの横を通る時にチラリと目が合った。
楓はこちら側だろ?と、催促されているようだ。いや、念押しされているようだ。
わらわは、弥勒様の後を追う。少し早歩きで。
そんなこと、当たり前です。わらわの思考は直ぐに答えを出した。
いかがでしたか?
感想、アドバイスお待ちしています、
次回もお楽しみに。