第20話「過去編」
今から話す話は、わらわの大切な人とのこと。いや、わらわ達と言った方がいいかもしれない。
そのくらいあの人は皆から好かれ、憧れられ、敬われ、わらわも好き『だった』。
『だった』。過去の話。今はもういない弥勒様との話。わらわが殺した愛する人との話。
今から500年前、後に『魔女狩り』と呼ばれていたことが起きていた時代。
わらわはイギリスへ来ていた。正確に言えばわらわだけではない。
「うわー、イギリスってこんな感じなんですね~。」
にこやかに笑っているのはアイシャ。この時は『七柱』の一人だったけど、リーダーでは無かった。
「アイシャ様、そんなに浮かれていては転んでしまいます。」
「ガハハ、お嬢が楽しんでおられるんだ。良いではないか。」
英国紳士のような格好にステッキを持った細身の男性が慌てる。そんな様子を楽しそうに見ているタンクトップの大男がいた。筋骨隆々のその体は自己主張が激しい。
細身の男性はチャールズさん。アイシャ様の懐刀にして、稀代の策略家。
大男はガルム。アイシャ様の懐刀にして、将軍。団体を率いれば、右へ出るものはいない。“轟音”の通り名を持っている。
「で、ですが...。」
「まぁ、いいじゃん。なぁ、アイシャ?」
尚も食い下がろうとするチャールズに、別の人が話しかけた。それにアイシャは、「はい、大丈夫です。」って満面の笑顔で答える。
可愛い笑顔だった。わらわが男なら惚れちゃいそう。チラリと彼を見ると、ニヤついてたから、ほっぺたを引っ張った。
わらわと同じように反対側の頬を、トスカナが引っ張っていた。いつも、分厚い聖書を抱え、真面目な印象の彼女にしては、ほっぺたまで膨らましていたので、以外だった。
「痛い、痛いよぉ!!楓、トスカナ。」
彼の声が聞こえる。苛ついて、もっと強く抓ってしまった。デレデレしちゃって...
「もうやめてあげましょうよ。彼、涙目よ。」
おっとりした妙齢の女性が言った。志穂さん。長い黒髪とこれでもかという大きさの二つのメロンを持った人だ。う、羨ましい。
仕方なく手を離すと、彼に抱きつく人影があった。
「みー様、大丈夫?」
ショッキングピンクの髪をポニーテールにした女性だ。垂れ目なその目は心配しているせいかより、垂れて見える。
「大丈夫、ありがとな、クリスは心配してくれて。」
彼はクリスの頭を撫でている。クリスは嬉しそうに目を細めていた。
「わ、私も心配しましたわ。」
金髪ツインテールの少女もおずおずと出て来た。確かアリスと言っていた。つい最近、スイスで出会った少女だ。
若干、頬が赤くなっているが気のせいだろう。
「そっか、アリスもありがとな。ほら、おいで。」
彼はアリスに手招きし、同じように頭を撫でる。
「ねえ、いいの?ローラは行かなくて?彼にローラもなでなでしてもらいたいんでしょ?」
「...わ、私は、いいの。迷惑、に、なるから。」
インディアンのような格好のおさげの女性、ルシファはアリス達を少し離れところから見ている隣の女の子に声を掛けた。
終始、俯いており、薄水色の前髪は垂れて顔を隠している。そんな、暗いという印象を与える少女は、“絶対領域”と呼ばれている。
そんな二人の様子にどうやら彼は気づいた様で、後でしてあげよう、とか考えてる顔をしている。
「楓も拗ねてないで、こっちに来い。」
彼の呼ぶ声が聞こえる。拗ねてないけど。
「ほら見てご覧。西九条君。真昼間から往来の真ん中でいちゃついてるエロ男がいるよ。」
「...。」
黒服の少女、“怠惰の黒姫”は彼を指差して、面白そうに言う。隣に立つ西九条さんは、無言で表情一つ変わらない。
「明、お前も撫でて欲しいのか?」
「冗談はやめたまえ。ボクは君に撫でてもらっても嬉しくないよ。それに、西九条君が怒ってしまう。」
彼の言葉を受け、明は何故か挑発的な眼差しを西九条さんに向ける。西九条さんは「うるせー。」とボソっと呟いた。
「じゃあ、私が明さんの代わりに撫でられたい~。」
アイシャも彼に突っ込む。2人の懐刀は、どちらも穏やかな眼差しで見つめていた。
「分かったから。押すなって。」
そんなわらわたちの中心で、揉みくちゃにされている彼は笑っている。
「そういえば、リリスちゃんとルードディスワーカー君は、来ないのかしら?」
志穂さんは、自分と同じ様に外野から見ているルシファに声をかける。
「うん、2人は遅れて合流するんだって。ドイツでなんかしてる見たい。」
「そう。」
「なぁ、そろそろ移動しよう。早いとこ、『緋色の旅団』と話し合わないと。」
彼はそう言って、立ち上がった。黒髪が風でさらりと揺れる。
「「「はい、弥勒様。」」」
わらわたちのリーダー。七柱の代表。そして、ここにいる誰もが好意なり、尊敬なり、友情なり、愛情を抱いている主様は今日も笑顔だった。
いかがでしたか?
感想、アドバイスお待ちしております。
次回もお楽しみに。