第2話「人間を喰う者」
「うぅ・・・。」
目が覚めると、頭がズキズキするが、そんなことより自分の様子を見る。
体のどこにも怪我一つしていない。
周りを見渡すが、一面お花畑が広がっていた。
あぁ、これが天国ってヤツか。よく死んだらお花畑が見えるとか言うが、本当だったとは。
「・・・って俺は死んだんだよな。」
改めて思い出してみる。確か変な女のせいで不良に追いかけられて、挙句の果てに屋上から飛び降りちまって・・・・・・あれ、その後に何かあったような。
「ねぇ、」
何があったんだっけ?思い出せない。
「ねぇってば!」
何か声が聞こえてくるんだけど。女の人の。どこかで聞いたような・・・。
「いい加減、気づいてよ!!」
ドンっと後頭部に激痛が走る。思い出したぞ。この声は確か、落下中に聞こえた声だ。
生きたいのか?とか契約がどうこうって言ってたような気が。
それよりも後ろを振り向かないと。
振り向くとそこには、可愛い女の子がいた。多分、今まで出会った女性の中で一番可愛いと思う。
茶髪のポニーテールは少女が動くたびにゆさゆさと揺れ、整った顔立ちはどこかのお姫様を思わせる。
少女の着ている白いワンピースが背景の花畑と合っていて、凄く良い。
胸も見た感じBぐらいだと思う。
だが、ただ一つこの場に似合わないものが合った。
彼女の握っている物騒な大鎌。それはまるで死神の鎌を連想させるような禍々しい感じだ。
「・・・その鎌は?」
物騒なので聞いてみる。人殺しの道具じゃないよね。
「この鎌はね、『吸人鎌』っていうんだよ。」
なんだそりゃ?聞いたことが無い。
困惑している俺を見て、少女は、
「君は・・・いや、君って言うのは言いにくいんだよねぇ。名前、何ていうの?私の名前は花月風香だよ。風香って呼んでね。」
と笑みを浮かべ、自己紹介してきた。
「俺は実神楽悠斗だ。それよりも俺は死んだのか?生きてるのか?」
「実神楽悠斗・・・じゃあ、ゆー君だ。」
変なあだ名をつけられた。
「ゆー君は死んではいないよ。でも人間として生きているわけでもない。」
俺の質問に、意味の分からない答えが返ってくる。俺は死んでいないが生きているわけでもないらしい。
「どういうことだ?」
「ゆー君はね、落下した時に本当は死ぬはずだったの。でも私が助けてあげた。君の人間としての全てを奪う代わりにね。」
「どうやって?」
「この鎌でだよ。」
風香が『吸人鎌』とかいう大鎌を見せてくる。
「この鎌はね、人間にのみ効力を発揮する道具なんだ。その人の記憶、周囲との関係、運動能力、年齢、体重や身長、魂とか、とにかく人間に関することなら奪うことが出来るの。」
「俺は何を奪われたんだ?」
「魂以外の全てだよ。」
風香は隠そうともせずにストレートに言った。
だが俺の身長も体重も無くなっていない。俺の記憶も無くなっていない。
そのことを言うと、風香は、
「ゆー君の体は私が再構成してあげたの。記憶の方は、最低限のこと以外は奪っているよ。そうだねぇ、昨日の晩御飯を思い出してみてよ。学校の先生の名前は?」
と胸を張って言い、その後俺に顔を近づけてきた。
昨日の晩御飯・・・思い出せない。学校の先生の名前・・・思い出せない。
「・・・。」
「思い出せないでしょ?」
コクリと頷く俺。そんな俺の様子を見て、クスクスと笑い始めた風香。
「元に戻すことは出来ないからね。美味しく頂いちゃったし。」
元に戻せないことは受け入れられる。よくアニメとかでもこういうこういうことはあるからな。
「美味しく頂いた・・・?」
「うん、久しぶりに人間のほとんどを食べれてもう満足だよ。」
「食べた?」
「うん、ゆー君、信じてないでしょ。だったら論より証拠。着いて来て。」
そう言うと、風香は俺の手を掴み、引っ張り始めた。
約10分ほど歩き、連れて来られたのは商店街。
意識を失っていたのか、時刻はお昼過ぎになっており、人通りも多い。
今は雨は降っておらず、太陽が輝いていた。
「じゃあ見ててね。」
風子は手に大鎌を持ち、ゆっくりと道の真ん中に行き、立ち止まった。
人混みにぶつかってもおかしくないのだが、風香を避けるように、歩く人々。
チラリと彼女を見る人々だが、すぐに興味を無くしていた。
その光景は俺にとっては理解しがたい物だった。
普通なら叫び声が起こってもおかしくないのだが、何も起こらない。
風香の手に持っている大鎌を見ても。
風香には気づいているが、誰一人として、大鎌の存在には気がついていない様だった。
風香は大鎌を振り上げ、そして、
「やめろっ!!」
俺の制止の言葉を無視し、歩いてくる人混みの中の一人の中年の男目掛け、風香が大鎌を右から、左へ振り、男の体は真っ二つに・・・・・・・・・成らずに擦り抜けていった。
男の体が無事なようで安堵する俺。
その時、異変が起こった。男の体から火の玉のようなものが飛び出したのだ。
それは上空に舞い揺ら揺らと風香の手の上に落ちてきた。
その光景に気づかない人々。またその男も何事も無かったように歩みを進める。
「その火の玉、何なんだ?」
風香の側に行き、尋ねる。すると風香はあまり人のいない裏路地へ入ると、
「これはね、あの人の記憶だよ。」
と、火の玉を前に出し言った。
「記憶?」
「そう。これはあの人が子供の頃の記憶を少し奪ったんだよ。」
勝手に人の記憶を奪う!?そんなこと許されるのか?
だが、風香は悪びれた様子も無く無邪気な笑顔で言う。
「・・・奪ってどうするんだよ?」
「食べるんだよ。」
そう言って、風香は葛餅を食べるように、火の玉を口に入れて、飲み込んだ。
「これで私の言ったことが本当って分かるでしょ?」
「あぁ、納得した。」
胸を張ってくる風香。
「ゆー君も『こっち側』だから、後々、同じことをやることになるんだよ。」
今なんて?俺も風香側?同じことって火の玉を食べるってことか?
困惑している俺の表情を見ていたのか風香は、
「最初に言ったでしょ。ゆー君は人間としては生きていないって。つまり、私達と同じ『化物』なんだよ。あっ、あの時、屋上から落下してた時に契約完了しちゃってるから、元に戻すことは不可能なんだよ。」
と子供に言い聞かせるように言った。
俺が化物に・・・。元には戻らない・・・。
その言葉が何度も頭の中を駆け巡る。
「そんな証拠でもあるのかよ!?」
俺は咄嗟に目の前の現実から逃げようと言った。
「証拠ねぇ・・・う~ん。まだどうしようもないんだよね。」
風香は困ったような顔をして言う。
証拠なんて無いじゃないか。きっとこれは何かの間違いだ。
早く家に帰ろう。そしたらいつもどおりの生活が待っている筈だ。
家に帰るため足を動かす。背後から「待って。」という風香の声が聞こえたが無視して歩き始めた。
いかがでしたか?
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次回もお楽しみに。