表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/30

第2話「人間を喰う者」

「うぅ・・・。」

目が覚めると、頭がズキズキするが、そんなことより自分の様子を見る。

体のどこにも怪我一つしていない。

周りを見渡すが、一面お花畑が広がっていた。

あぁ、これが天国ってヤツか。よく死んだらお花畑が見えるとか言うが、本当だったとは。


「・・・って俺は死んだんだよな。」

改めて思い出してみる。確か変な女のせいで不良に追いかけられて、挙句の果てに屋上から飛び降りちまって・・・・・・あれ、その後に何かあったような。


「ねぇ、」

何があったんだっけ?思い出せない。


「ねぇってば!」

何か声が聞こえてくるんだけど。女の人の。どこかで聞いたような・・・。


「いい加減、気づいてよ!!」

ドンっと後頭部に激痛が走る。思い出したぞ。この声は確か、落下中に聞こえた声だ。

生きたいのか?とか契約がどうこうって言ってたような気が。


それよりも後ろを振り向かないと。

振り向くとそこには、可愛い女の子がいた。多分、今まで出会った女性の中で一番可愛いと思う。

茶髪のポニーテールは少女が動くたびにゆさゆさと揺れ、整った顔立ちはどこかのお姫様を思わせる。

少女の着ている白いワンピースが背景の花畑と合っていて、凄く良い。

胸も見た感じBぐらいだと思う。


だが、ただ一つこの場に似合わないものが合った。

彼女の握っている物騒な大鎌。それはまるで死神の鎌を連想させるような禍々しい感じだ。


「・・・その鎌は?」

物騒なので聞いてみる。人殺しの道具じゃないよね。

「この鎌はね、『吸人鎌ヒューサイズ』っていうんだよ。」

なんだそりゃ?聞いたことが無い。


困惑している俺を見て、少女は、

「君は・・・いや、君って言うのは言いにくいんだよねぇ。名前、何ていうの?私の名前は花月かげつ風香ふうかだよ。風香って呼んでね。」

と笑みを浮かべ、自己紹介してきた。


「俺は実神楽みかぐら悠斗ゆうとだ。それよりも俺は死んだのか?生きてるのか?」

「実神楽悠斗・・・じゃあ、ゆー君だ。」

変なあだ名をつけられた。

「ゆー君は死んではいないよ。でも人間として生きているわけでもない。」

俺の質問に、意味の分からない答えが返ってくる。俺は死んでいないが生きているわけでもないらしい。


「どういうことだ?」

「ゆー君はね、落下した時に本当は死ぬはずだったの。でも私が助けてあげた。君の人間としての全てを奪う代わりにね。」

「どうやって?」

「この鎌でだよ。」

風香が『吸人鎌』とかいう大鎌を見せてくる。


「この鎌はね、人間にのみ効力を発揮する道具なんだ。その人の記憶、周囲との関係、運動能力、年齢、体重や身長、魂とか、とにかく人間に関することなら奪うことが出来るの。」

「俺は何を奪われたんだ?」

「魂以外の全てだよ。」

風香は隠そうともせずにストレートに言った。

だが俺の身長も体重も無くなっていない。俺の記憶も無くなっていない。


そのことを言うと、風香は、

「ゆー君の体は私が再構成してあげたの。記憶の方は、最低限のこと以外は奪っているよ。そうだねぇ、昨日の晩御飯を思い出してみてよ。学校の先生の名前は?」

と胸を張って言い、その後俺に顔を近づけてきた。

昨日の晩御飯・・・思い出せない。学校の先生の名前・・・思い出せない。


「・・・。」

「思い出せないでしょ?」

コクリと頷く俺。そんな俺の様子を見て、クスクスと笑い始めた風香。

「元に戻すことは出来ないからね。美味しく頂いちゃったし。」

元に戻せないことは受け入れられる。よくアニメとかでもこういうこういうことはあるからな。


「美味しく頂いた・・・?」

「うん、久しぶりに人間のほとんどを食べれてもう満足だよ。」

「食べた?」

「うん、ゆー君、信じてないでしょ。だったら論より証拠。着いて来て。」

そう言うと、風香は俺の手を掴み、引っ張り始めた。


約10分ほど歩き、連れて来られたのは商店街。

意識を失っていたのか、時刻はお昼過ぎになっており、人通りも多い。

今は雨は降っておらず、太陽が輝いていた。


「じゃあ見ててね。」

風子は手に大鎌を持ち、ゆっくりと道の真ん中に行き、立ち止まった。

人混みにぶつかってもおかしくないのだが、風香を避けるように、歩く人々。

チラリと彼女を見る人々だが、すぐに興味を無くしていた。


その光景は俺にとっては理解しがたい物だった。

普通なら叫び声が起こってもおかしくないのだが、何も起こらない。

風香の手に持っている大鎌を見ても。

風香には気づいているが、誰一人として、大鎌の存在には気がついていない様だった。


風香は大鎌を振り上げ、そして、

「やめろっ!!」

俺の制止の言葉を無視し、歩いてくる人混みの中の一人の中年の男目掛け、風香が大鎌を右から、左へ振り、男の体は真っ二つに・・・・・・・・・成らずに擦り抜けていった。


男の体が無事なようで安堵する俺。

その時、異変が起こった。男の体から火の玉のようなものが飛び出したのだ。

それは上空に舞い揺ら揺らと風香の手の上に落ちてきた。

その光景に気づかない人々。またその男も何事も無かったように歩みを進める。


「その火の玉、何なんだ?」

風香の側に行き、尋ねる。すると風香はあまり人のいない裏路地へ入ると、

「これはね、あの人の記憶だよ。」

と、火の玉を前に出し言った。

「記憶?」

「そう。これはあの人が子供の頃の記憶を少し奪ったんだよ。」

勝手に人の記憶を奪う!?そんなこと許されるのか?

だが、風香は悪びれた様子も無く無邪気な笑顔で言う。


「・・・奪ってどうするんだよ?」

「食べるんだよ。」

そう言って、風香は葛餅くずもちを食べるように、火の玉を口に入れて、飲み込んだ。


「これで私の言ったことが本当って分かるでしょ?」

「あぁ、納得した。」

胸を張ってくる風香。


「ゆー君も『こっち側』だから、後々、同じことをやることになるんだよ。」

今なんて?俺も風香側?同じことって火の玉を食べるってことか?

困惑している俺の表情を見ていたのか風香は、

「最初に言ったでしょ。ゆー君は人間としては生きていないって。つまり、私達と同じ『化物』なんだよ。あっ、あの時、屋上から落下してた時に契約完了しちゃってるから、元に戻すことは不可能なんだよ。」

と子供に言い聞かせるように言った。


俺が化物に・・・。元には戻らない・・・。

その言葉が何度も頭の中を駆け巡る。

「そんな証拠でもあるのかよ!?」

俺は咄嗟に目の前の現実から逃げようと言った。


「証拠ねぇ・・・う~ん。まだどうしようもないんだよね。」

風香は困ったような顔をして言う。

証拠なんて無いじゃないか。きっとこれは何かの間違いだ。

早く家に帰ろう。そしたらいつもどおりの生活が待っている筈だ。

家に帰るため足を動かす。背後から「待って。」という風香の声が聞こえたが無視して歩き始めた。





いかがでしたか?

気軽に感想、アドバイスをお書きください。

次回もお楽しみに。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ