第17話
「風香、クリスを。」
「うん、分かったよ!!」
風香はクリスを抱きしめ、片腕で鎌を握り締める。対して、一緒に下降していたアリスは、腰のホルスターから二つの拳銃を取り出した。
一般的なリボルバー式のタイプと、もう片方はごつい機関銃タイプだ。
そして、それらの引き金を引いた。
ドドドドドドッっと重低音な音が空気を震わせる。
地上から飛んでくる、矢や針、弾丸が次々に撃ち落とされていく。だが、その弾幕は風香たちの周りにだけしか張られておらず、他に降下している面々はそれぞれに能力を発動していくが、全員が無傷というわけにはいかないようだった。
あるものは弾丸を肩に受けバランスを崩し、あるものは矢の嵐に晒され、あるものは衝撃を受け止めきれずにコースから外れ、結界の外の地面に激突する。
そんな中、この俺は先に落ちたからかすでに結界内に着地していた。
着地の瞬間はどんな原理か知らないが体がふわっと浮き上がる浮遊感の後に、地面にたたきつけられた。
叩きつけられたといっても、椅子から転げ落ちたぐらいの痛みだ。
落ちた先には数人の修道服に包まれた女性たちが、何やら聖書のような分厚い本を読み続けていた。
どうやら彼女たちがダメージ軽減をやっているようだ。
空中では、アリスが両手に持った銃で張り合っているが、見ている限りそろそろ弾切れの頃合いだと思う。だが一向に弾がなくなる様子がない。
「心配しなくてもいいですよ。アリスさんは弾丸を使っているわけではなく、自身の気弾を使っているのです。拳銃は、威力、速度、命中精度を上げる為に使っている中継武器みたいなものです。」
隣にやってきた黒縁眼鏡をかけた修道女は俺の考えを見透かしたかのように言った。首から下げた銀の十字架が光に当てられ反射している。
「あなたは?」
「申し遅れました。私は『七柱』の一人、トスカナ=メディスと申します。」
目の前の女性は分厚い聖書を持ったまま行儀よくお辞儀した。
「俺は実神楽です。実神楽悠斗。」
俺もそれに習うように、とっさにお辞儀した。
「存じています。貴方が、件の...。やはり、聞いてはいましたが、弥勒さんに似ていらっしゃる。」
彼女は、俺の顔をまじまじと見つめ、やがてその顔が苦痛に歪んだように見えた。
どこか悲しそうな、悔しそうなそんな顔。
「それはそうと...。」
彼女は視線を俺から上空へと目を向ける。俺も釣られるように、彼女の視線を追った。
「流石にあれは難しいのではないですか?」
そこには、空中で戦っている3人へ向けて、一筋の太いレーザー砲が発射されていた。
アリスの弾幕も虚しく貫通され、風香が鎌で軌道を何とか逸らしたが、その弾みで近くにいたクリスがバランスを崩し、落下コースを大きく外れて行くのが分かった。
「嘘、だろ。」
俺は何も考えることが出来ないまま、その光景を見ていた。
「おい、あんた『七柱』なんだろ。何とか出来ないのかよ!?」
「何とかしたいのですか?なら、貴方様が助けなさい。大丈夫です、神は見ています。神を信じれば、助けられますわ。」
彼女は、トスカナは教会で祈りを捧げるように、両手を胸の前で握り、目を閉じた。すると、聖書は宙に浮き、光り輝き出した。
何語か分からないが、外国語で唱え始める。
それに比例する様に輝きが強まっていく。
「さあ、お行きなさい。」
彼女がそう言った時には、聖書の輝きは人型になっていた。
巨大な十字架を手に持つ神父さんの姿に。
その神父は真っ白の髭に隠された口元に笑みを浮かべ、
俺も笑みを浮かべ返し、
奴は、俺の尻目掛けて、十字架を振り上げた。
「痛ってえぇぇ!!」
激痛に顔をしかめながら、俺は空中に飛び上げられるのを確かに感じていた。
それも、風圧で顔が変形するんじゃないかと思うほどの速さでだ。
「もうちょっと他のやり方があるだろう!!」
悪態をつくが、もちろんそんな叫びなどトスカナには聞こえない。
後で聞いたのだが、彼女の能力は『祈り』らしい。願いを祈り、それを実現させる能力。
神への信仰心の強さによって効果、叶えるまでの過程が変わるらしい。
例えば、ある人がこう願ったとする。
世界が平和になってほしい、と。
その人間の信仰心が強ければ、誰もが手を取り合って助け合える世界に改変される。
だが、信仰心が無ければ世界を平和にしない害、つまりは殺人者、悪人、兵士と言った者達を一人残らず消す。あらゆる、乱れの原因をしつこいほどに消していく。
それもある意味では、争いが無い平和な世界に当てはまる。
その様に願った者の信仰心に左右されるこの能力において、俺がこんな感じに飛ばされるのは自業自得らしい。信じる思いの結果であると。
それでも、最終的には願いが叶うので、俺はクリスの元には辿り着けたのだが、
「これはマズイんじゃないか!?」
速過ぎる速度で飛ぶ俺は、空中で俺の胸と腹にクリスが落下してきて、ほぼ全体重を一手に担った。勿論、彼女は軽かったです、はい。
だが、余りにも俺の飛ばされている勢いが強いため、更に結界から離れていく。おまけに先程の砲撃でクリスは、気を失っている。
あれ、このままだと地面に激突、即死じゃね?
俺はクリスを抱きとめる手に力を込め、自分の下唇を噛んだ。
そこから滲んだ血が、生き物の様に蠢く。俺はその血を操作し、針状に効果したもので、自分の体に切り傷をつける。極力、クリスには当たらない様に最新の注意を払いながらだ。
傷口からは血が流れ、それらを一点に纏め濃縮し、一本の棒を形成する、それを結構な高さが出来ている地面に刺す。
ガガガガガガガ...と、地面が抉れ、線が描かれていく。クリスを抱えているため両手は使え無いので、背中から生やしている血の棒から伝わる衝撃が、骨を内臓を震わせる。
それでも確実に、速度が遅くなっていることに安堵していた。
しかし、
「うおっ!?」
体が一瞬止まったかのような気がして、頭が逆さまの位置になった。
そして、視界の端に赤色の棒が見えた。
折れた。そう悟った時には、すでに地面は目前に迫っていた。
死ぬ。せめてクリスだけでも守らなくてはと、重心をずらし俺の背中から地面に落ちるように動く。
そして、死ぬと覚悟を決めた寸前、
「物質生成。」
激突したと思っていたが、体が柔らかなクッションのような肌触りに包まれ、衝撃が無くなっていた。
「大丈夫ですか?悠斗様。」
頭上から聞こえた聞いたことのある声に、俺は首だけ動かした。
視界に映るのは鮮やかな黒。そして、桜の花びら。
「...楓?」
はい、と少女は笑顔を見せた。
更新遅れてごめんなさい。
引っ越しがあったもので、まだPCのネット回線が繋がってなく、iphoneからの投稿です。
iphoneだと書くスピードがどうしても遅くなりますね。
次回更新も少し遅れるかもしれませんが、これからもよろしくお願いします。