第16話
機内は重苦しい雰囲気に包まれていた。
ミスティさんの死。それはあまりにも皆の心を締め付けていた。
クリスは機内の奥の部屋に一人閉じこもっている。
皆は彼女なりの心の整理をするのだろうと言っていた。
だが、俺はどうにも腹の虫がおさまらない。
こいつらはミスティさんを見捨てた。その事実だげが頭の中を征服していく。
「ミスティのことは今は忘れるんだよー。」
ルシファさんの言葉が思い出させる。あの後、支部から離れてすぐ彼女は俺たちにそういった。
これが最善の結末だったと。彼女は皆の前でそう説明した。
攻めてきた二人のうち、男の能力から逃れるにはだれか一人の犠牲が必要だったと。
その犠牲になったミスティさんはまだ傷が治っておらず戦うには不向きだったこと。
これから行う本部へ向かう作戦には、彼女は足手纏いになる可能性があること。
そして、犠牲となって足止め役に徹するものは、生きて帰ってくることは無い。
そう、彼女は俺に言い聞かせるように言った。
つまりは、ミスティさんは捨て駒を演じきった、と。
俺は思わず彼女に掴みかかりそうになったが、寸でのところで風香から羽交い絞めにされ、睨み付けることしか出来なかった。
そんな俺を見下ろして、アリスが言葉を続ける。
「悠斗、あんたは何にも分かっていないようだけど、これが一番最善の選択なのよ。あんたのことだから自分がミスティさんの代わりに残ったって言うでしょうけどね、あんたはもう少し自分の価値に気づくべきよ。今のあんたは本部から上級保護対象に置かれているクリスと同格かそれ以上の価値があると思われているのですわよ。」
「本来ならこの任務にも着かせず、『七柱』達で保護っていうのが普通なくらいね。ただ、私達の間でも、悠斗を信用できないっていう考えの者もいるのですわ。『七柱』の何名かも含めてね。だから、本部長のアイシャ様が信頼を与えるために、この任務を与えた。そのために、私と風香やアメリカ支部のルシファ、そして本部からの信頼が厚いミスティも付けたのよ。」
彼女はそう言って、座席へ戻っていく。その後をルシファが「まぁ、そういうことー。」と俺に一言言って、アリスに付いていく。
最後に俺を羽交い絞めにしていた、風香がごめん、と小さな声で言って、立ち去って行った。
俺は何にもできなかった。
『ルシファ様、間もなくイギリスへ入ります。』
アナウンスが機内に響き、今まで休んでいた皆が、戦闘準備を始める。
寝ていた者は起こされ各自、自分の武器などの手入れをし始めた。
『降下作戦』
それが今回の作戦名だ。
現在イギリスは、守護者との戦争の真っただ中になっており、もちろんその中には、俺たちを恐怖に陥れた『堕天使』達も参戦しているという。
もちろんそんな中をジェット機が着陸なんて真似は出来るわけがない。
下手したら俺たちみんな爆発して、即死コースだそうだ。それに、機内という密閉された空間に置いての戦闘はあまりにもこちらに分が悪すぎる。
そこで考えられたのが、空中からの入場だ。
イギリス本部上空で、ジェット機から出て降下し、本部に張られている結界内へ入る。ただし、パラシュートなしでだ。
着地の際には本部にいる異能者がダメージ軽減をやってくれるそうだが、それはあくまで結界内へ着地できた場合のみだそうだ。
全滅というリスクは下がるが、それでも数多くのリスクが纏わりついてくる。
空中というのは、敵からしてみれば狙いやすい、俺たちは格好の的というわけだ。それに何より、空中では本来の戦闘能力を発揮できない。例えば、風香の鎌なんかは近接戦闘の際に役に立つが、遠距離からの攻撃には防戦一方となる。
そして何より足場がないということだ。足が宙に浮いている。それだけのことで衝撃は全て自分に跳ね返ってくる。敵の攻撃でも地上では難なく受け止められていても、空中ではそうはいかない。そもそも地上では足を伝って地面に衝撃の何割かは流される。だが、空中に置いては流れることなく残り、少しの攻撃で大幅な隙が生まれる。
それが、小さな衝撃で在ればいいが、仮に大きなものであれば落下コースを大きく逸れ、そのまま結界の外で地面とキスならぬ、地面で柘榴が潰れた状態になること間違いなしだ。
そんなわけで、俺は降下作戦に反対だったのだが、
「ほれ、速く行って!!」
ポンと可愛らしい効果音が着くような蹴りで、俺の体は空中に投げ出された。
「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「ふふふ、女みたいな声出して、面白いねー!!」
叫び声をあげる俺の隣を、俺を突き落した張本人が笑いながら楽しそうに並んで落ちていく。
後方からは他の異能者たちも降下してきていた。
「おっ、敵さんも気づいてるみたいだねー。悠斗、ちょーとぉ、気を付けたほうがいいかもねー。」
にははーと笑い、ルシファさんは手を振り上げたが、落下している状態ではバタバタ動かしているようにしか見えない。だが、次の瞬間、俺は自分の目を疑った。
俺の真横を何かが掠めたと思ったら、丸い岩状の物体が下に次々と落ちていくではないか。
そして、スピードが上がりに上がりまくったそれは、『守護者』たちのいる地面に落下すると、どデカイクレーターができあがっていた。そして、そのクレータの端には守護者と思われる残骸が転がっている。
「にははー。」
その驚異の殺人兵器を次々に投下しながら、隣のお子様にしか見えないルシファさんは笑っている。それはもう心底楽しそうに。
怖い。この人怖いよー。
俺は怯えながら落下していると、真横でドンというか、ガッというか、とんでもない音がして隣を見てみると、
「...。」
白目をむいて、口を大きく開けて後頭部に恐怖の隕石もどきを喰らったルシファさんがいた。
そのまま、音も立てずにすごい勢いで結界内へ落下していく。
えぇー、自滅!?
だが、この後から俺たちは窮地に陥ることとなる。ルシファさんが気絶したせいで隕石という弾幕が消えたため、『守護者』からの攻撃が俺たちに襲い掛かることになったのだ。
そして、その魔の手は、後方にいた、風香やアリス、クリスたちの元へも迫ってきていた。
いかがでしたか?
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次回もお楽しみに。