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第14話

「アリス。クリスの居場所は分かってるか?」

「えぇ、多分。ミスティさんの病室だと思いますわ。」

俺たちが今いる場所は、3階。ミスティさんの病室は2階だ。おそらく奴らと鉢合わせする可能性もある。


「了解。」

俺たちは階段を駆け下り、2階の廊下に出た。幸い、あの二人組の姿は見当たらない。

ミスティさんの病室は一番奥だ。


病室には起き上がろうとしているミスティさんとそれを支えているクリスの姿があった。


「大丈夫!?」

クリス一人で支えていて頼りなかったが、風香がもう片方の肩をとる。

「よし、行こう。」

俺が廊下へ出ようとするが、出口側にいたアリスが手で制す。


「駄目ですわ。あの二人がもう来てます。」

アリスが冷や汗を額に滲ませながら言う。どうやら、ここからは離れているようだが廊下にはいるようだ。


「仕方ありませんわね。悠斗、少し痛いかもしれませんが歯を食いしばりなさい。」

そう言って、アリスは防音対策をした拳銃を俺の腕、目掛けて、一発発砲した。


「ッ!!」

声が出そうになるが、風香が空いた片方の手で口を塞いでくる。


「ゆー君、我慢して。」


バチバチバチ、と電撃が弾けるほどがして、後ろを振り返ると、ミスティさんが天井に丸い穴をあけていた。崩れた瓦礫まで、空中で粉のように砕いたため、ほとんど無音だ。


「悠斗、苦しんでるとこ悪いですが、上まで道を作ってくださりません?」

アリスが廊下の様子を物陰からチラチラと窺いながら言う。お前は鬼か!!

内心毒づきながらも、俺は流れ出る血を操作して、滑り台のような道を作る。


「じゃあ、先に悠斗、あんたが行きなさい。次にミスティ達、最後に私が行きますわ。」

アリスが、病室の入り口に何かしらの仕掛けをセットしながら言う。


俺は助走をつけ、滑り台を駆け上がる。次にミスティさん達が登り始め、風香の空いた手を掴み、上に引き上げる。


その後、すぐ仕掛けを終えたアリスが、駆けあがってきた。

「行きますわよ。」


俺たちは、その場を後にした、それから数十秒後、後方からの爆発音が、建物を震わせた。









「やぁ、西九条君。君はどうしてボクに覆いかぶさっているのかなぁ?」

「...。」

西九条と呼ばれた男は女の問いに対して一切表情を変えずに、両腕を地面に着け体一つ分、間を開けると女の髪を優しくかきあげた。


「これではまるで、ドラマのキスシーンのやりとりのようではないかな。君がボクにそういう気持ちを持っていても、ボクは全く持ってそういう気持ちは抱いていないんだ。」

女は面白そうに口元に弧を描いた。その笑顔は猫のようだ。


「...馬鹿が。」

西九条はどこか安心したように、それだけ言って、立ち上がった。

パンパンと、スーツについたほこりを払うと、倒れたままの女の手のひらに自分の手のひらを重ね、起き上がらせる。


「...どうもありがとう。助かるよ。」

女も同様に軽くほこりを払い、西九条の後方を見る。


「あぁ、これはすごいね。まるで爆発が起こったみたいだ。」

女は笑みを浮かべて言う。西九条の後ろには、瓦礫が崩れており、部屋の扉と思われるものが倒されている。ベットは焼け焦げ、窓ガラスも吹き飛んでいた。


「みたいじゃなくて、爆発があったんだよ。」

西九条は病室に続く瓦礫を足でどかしながら、言う。その後ろを女は付いていく。


「ほぉ、ということは、西九条君が爆発からボクを守ってくれたということか。」

「...。」

西九条は女に背を向けたまま、病室の天井を見上げる。そこにはぽっかりと穴が開いていた。


「ふ~ん。ここから出て行ったということかな。」

「そのようだな。」

女の言葉に、西九条は同意する。


「そういうわけだから、頼んだよ。」

女が西九条の首に細腕をからめる。西九条は文句ひとつ言わず、彼女の体を抱え上げ、いわゆるお姫様抱っこをして、地面をけり上げ穴から上階へ飛び入る。


着地した先、運悪く敵が3名、二人の存在に気付いたようだ。

3人が各々の能力を発動し、戦闘態勢に入る。


「敵に見つかってしまったようだね。西九条君。ボクは闘いには向かないから、君の出番だよ。存分に闘いたまえ。」

女は西九条の腕に抱えられたまま、そう宣言した。西九条は片手で煙草を取り出し、器用に女を抱きかかえたまま、ライターで火をつける。


その煙草の先から出る紫煙に、女は嫌そうに目を細め、眉間にしわを寄せた。


刹那、男の能力が発動した。

数秒後、地面に倒れ伏す3人の死体が出来上がっていた。









「それで、『最高愛組ベストカップル』って何者なんだよ?」

屋上まではあと数階上がれば、辿り着く中を俺たちは駆けあがっていた。

他の『異能者』達はすでに上にいっているのか、姿が見当たらない。


「あれは、まだ『堕天使』になる前の二人の通り名だよ。元七柱の“怠惰の黒姫”と“囚われの従者”、二人の総称だね。」

「“怠惰の黒姫”は聞いたことがあります。えぇと、彼女の前では...『異能』が消えちゃうんですよね?」

風香とクリスが、ミスティさんの肩を支えながら言う。


「そう、あの方の前ではいかなる能力も効かない。つまり、あの人は『異能』では殺せないのよ。」

アリスは早足で階段を駆け上がる。


「ただし、『異能』以外の対応力はほぼ皆無。つまり彼女一人だけなら、能力を持たない一般人でも殺すことは簡単にできますわ。けど...。」

「けど?」

アリスは足を止めることなく、進み続ける。


「殺させないためにあの男がいる。そして何より、あの二人が組んでいる時点で、たとえ現七柱といえども、勝率は3%にも満たない。そう、現本部の長であり、七柱を束ねている実質的私たちのリーダー、アイシャ様が決定付けられましたわ。」

その場が重苦しい雰囲気になるが、それはすぐに払拭された。出口だ。屋上へ出るドアが見えたのだ。


アリス、俺がドアをくぐり、続けて、3人が通る。

屋上にはジェット機が用意されており、その入り口では、ルシファさんが手を振っている。

ようやく、ここから離れられる。


歩き出そうとしたその時、


「あー、ちょっと待ちたまえ。」

階下から、女の声が聞こえてきた。猫なで声のように、妙な甘ったるい声だ。

かつん、かつんと階段を上ってくる音が死へのカウントダウンのようだった。

いかがでしたか?

感想・アドバイスお待ちしております。

次回もお楽しみに。

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