第12話
「手応えはあり、...と。」
手をグー、パーしながらミスティさんは呟く。
その体からはバチバチと電撃のようなものが迸っている。
「にははー、今のはちょーと驚いちゃったなぁ...。」
ミスティさんに殴られたルードディスワーカーは倒れた姿勢のまま、喋る。
「いきなり顔殴るんだもん。もう、びっくりだよ。」
ゆっくりとふらふらっと起き上がる。顔を上げて、少し長い前髪から除いたその眼は、冷たかった。
「びっくりしすぎて、制御が外れちゃいそう。」
ニコリと笑みを浮かべ、ピッと指を動かすと、
ミスティさんの左腕が切り落とされた。
「...!!」
「お、おえぇ...。」
ミスティさんはやや反応が遅れて後ろに飛びのき、俺はその光景に胃から込み上げてくるものは吐き出した。あんなにも...簡単に腕が...。
なんだ、あいつは。あんなの次元が違いすぎる。
「おい、お前。立てるか?」
ミスティさんは視線をルードディスワーカーに向けたまま、俺に向けて言う。
「悪いが、この場から早く抜け出したい。動けるようなら逃げなさい。その間の時間ぐらいは稼ぎます。動けないようなら、ここへ置いていく。」
そう言って、ミスティさんは、迫りくる糸に、電撃をまとった拳をぶつける。当たるたびに、糸に電流が流れて、あいつの指先を焦がすが、興奮しているのかダメージが見受けられない。
逃げないと...。
あいつはとにかくヤバい。これ以上この場にいたら気が狂いそうだ。
立ち上がり、支部へ撤退していく。
幸い他の『守護者』たちはアリスたちが倒したのか見当たらない。
何とか、結界の張られている支部へ、駆けこんで、振り返ったとき、
「はい、おーわり。」
ミスティさんの腹を数十の糸が貫いていた。
ピッと糸が抜けた弾みで、ミスティさんの体が結界の内部に転がるように入る。更に俺を狙って糸が迫りくるが、結界により弾き返される。
「ちぇ...。」
おもちゃを取り上げられたような拗ねた子供の表情をしたルードディスワーカーが、結界の外から俺らを見ていた。
「それで、ミスティさんは!?」
「何とか一命は取り留めましたが、傷が深く、重傷なことには変わりありません。もちろん、戦闘行為はほぼ不可能と思ってください。」
治療を終えた衛生兵へ駆け寄ると、彼は辛そうに言った。
クリスがそれを聞いて、力が抜けたように座り込む。安心したのかそのまま眠ってしまった。
治療を待つ間、ずっと心配していて、疲れ切ってしまっていたクリスを、風香が抱えて部屋へ連れて行く。
それと入れ替わるように、アリスともう一人、インディアンのような恰好をしたおさげの女の子がやってきた。
「ミスティは無事だったみたいで良かったわ。あぁ、紹介するわね。こちらはアメリカ支部長の、ルシファさん。」
「どもどもでーす。いやぁ、助かりましたよ。本当、死ぬかと思いましたし。まさか、あんな『堕天使』が戦争中のイギリスにいなくて、こっちに来るとは予想できませんでしたしね。あぁ、良かった、良かった。これで、私の首も安心ですかねー。」
支部長って言ってたから咲さんみたいに堅苦しいと思ってたら、偉くフレンドリーな人だと思った。
「さっきのやつは一体、何なんだ?普通の『守護者』とは比べ物にならないくらい強かったし、何より気配がヤバかった。」
あんな物とこれからも戦わないといけないと思うと萎えてくる。
「あれは、『堕天使』って呼ばれてる。元々は、私達と同じ同胞だったけど、500年前の『ある事件』が原因で、『守護者』になってしまったんだよねー。うんうん、あの事件は悲惨だったよぉ。」
ルシファは、はぁー、とまるで、500年前の事件とやらに立ち会っていたかのように、話す。
「それでですね、その『堕天使』は、守護者を率いる、日本で言うと将軍的な役割を担っているのですわ。それに見合うだけの力もありますしね。そして、今日、戦ったルードディスワーカーはかつて、同胞だった頃、かの七柱、リリスと共に活躍され、“閃光の遊撃者”の二つ名を持って、第一線で活躍されていた方ですわ。」
アリスは腕を組みながら言う。
「でも、あれは不味いよねー。下手に攻撃して殺しでもしたらさぁー、リリスちゃんに殺されちゃうよぉ。」
ルシファは困った、困ったと対して困ってなさそうに、笑いながら言う。
『守護者』って殺せないんじゃないのか?そんな疑問を頭に思い浮かべたとき、
「あぁ、実神楽君は知らないんだよねー。『堕天使』は一回死んだら蘇らないよ。って言っても、簡単に殺せる相手じゃないんだけどね。七柱がやっと互角に渡り合えるんだから、私やアリスちゃんじゃ、束になっても勝算は薄いと思うけどなー。」
俺の心を見透かしたように、ルシファが言った。アリスも前に一度だけ、『堕天使』を倒した人がいるって付け加えた。
「ともかく、クリスを早くイギリスに届けないといけないですわね。ここは安全とは言い切れませんし。ここの結界が壊されれば、すぐに結界は張れないと思ってください、ルシファ。クリスが本部の結界を張ることを優先順位とさせて頂きます。なので、彼女にはあまり負荷をかけるのは得策ではないですわ。」
アリスの意見に、分かってるってとルシファは言い、支部を見てこことはもうすぐおさらばかーと感慨にふけっている。
「とにかく、ミスティが動けるようになったらすぐにイギリスへ向かいます。ジェット機と『運転者』の準備をお願いします。」
「あいあいさー。」
アリスの指示にミスティは手を挙げて賛同を示すのだった。
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次回もお楽しみに。