第10話「クリス」
「アイシャ様!!お待ちしてたっす。」
ジュンが満面の笑みを浮かべ、アイシャに近づいていく。
「お久しぶりですね〜。ジュンさん〜。」
ぺこりとお辞儀をするアイシャ。その後、室内を見渡し、
「みなさんもお久しぶりですね〜。トスカナさん、リリスさん。あらあら、ローラさんの姿が見えませんわねぇ〜。」
再びお辞儀をした後、部屋の四隅を見て、困った顔になり言った。
「ローラのヤツならきてないっす。まぁ、話し合いにおいては、いてもいなくても変わらないっすよ。部屋の隅に言って死にたい、死にたい言ってる根暗さんっすからね。」
肩をすくめて言い放つジュン。
「そういう言い方はあまりよくないよ。ローラは私達にとって重要な戦力なんだから。」
「それに、ローラさんにはローラさんなりの事情があるのでしょう。そんな彼女を神は許してくれるでしょう。それに彼女の言動にはそれなりの理由があるのですし・・・。」
そんなジュンの言葉を聞き、ルチアとトスカナの2人がローラを弁護していた。
そんな様子を見ていたリリスはクスクスと笑いながら、
「ジュンが怒られたぁー♪怒られたぁー♪クスクス。」
と言い、ジュンの顔がみるみる怒りの形相になっていく。
「てめぇ、リリス。ブチ殺されてぇんすか!?てか、ブチ殺されたいようっすね。」
「リリスと戦うっていうのぉ?ジュン負けちゃうよぉ。だってリリスとポンちゃんの方が強いからねぇ。」
「は~い、落ちついてぇ~。喧嘩は駄目ですよぉ~。」
ヒートアップするジュンを落ち着かせようとアイシャが2人の間に入り、制止する。
「アイシャ様がそう言うなら・・・。」
「はーい。分かりました。」
渋々といった感じのジュンとニコニコ笑顔で右手を上げて答えるリリス。
「そろそろ本題に入るべきだと思うんだけど・・・。」
そんな様子を遠めで見ていたルチアがアイシャに耳打ちした。
「そうでした~。そうでした~。」
そういいながら、席に着くアイシャと共にルチアや立ち上がっていたジュンも席についていく。
「今回は皆さんもご存知の~悠斗さんについてです~。一応悠斗さんは、ローラさんや風香さん達によって、無事保護されたようですけど~、楓さんが・・・。」
「楓が重症を負ったのよ。」
アイシャの説明にルチアが付け加える。そのことを聞いても特に3人の表情に変化は無かった。
「・・・で、今回の件で悠斗とかいうやつの処分を決めると言うことっすよね、アイシャ様?」
「その通りです~。まぁ、処分というか、信頼を取り戻してもらうための一仕事というかぁ~、とにかく何かしてもらわないとぉ~。」
のほほんとした声を出しながら皆の顔色を伺うアイシャ。
「一仕事っすか・・・。」
腕を組んで考えるジュン。
「特に意見は無いです。」
分厚い聖書に目を通しながら無愛想に答えるトスカナ。
「リリスもぉ。悠斗って人には興味ないし。」
「・・・。」
ポンちゃんと遊びながら興味なさげに言うリリス。
そんな3人の顔色が一気に青ざめた。
彼女らの喉もとにはのこぎりやらナイフやら、クナイやらがギリギリのところまで近づいていた。
少しでも動けば喉を裂いてしまうだろう。
だが、その光景は少し異様だった。それらの武器は宙に浮いていたのだ。
「さっさと考えなさい。じゃないと、喉を引き裂くわよ。」
席に座っているルチアが、キッと3人を睨みつけながら、怒気を含んだ声を静かに言った。
アイシャは苦笑いを浮かべながらその光景を見ている。
「・・・な、ならクリスの護衛なんてどう?」
やっとの思いで振り絞ったのであろうリリスが必死に喉の奥から声を出した。
「それは良い提案ね。アイシャ、それでいい?」
「良いですよ〜。丁度、『七柱』が本部に集まっていたので、クリスさんを迎えにいけなかったのですよ〜。これから『守護者』の迎撃もありますし〜。ここは悠斗さんに任せましょうか〜。」
アイシャの言葉にその場の全員が納得した。
「・・・という訳なので、クリスさんを本部に連れてきてくださいね〜。」
風香達の基本的な能力の一つである連絡方法でアイシャという女性から仕事を任された俺。
「そんで、クリスってのはどんな奴なんだ?」
「クリスさんは結界士なんだよ。本部や支部に張ってある結界を唯一、作れる人だよ。」
そんなクリスについての話を聞きながら、俺達はクリスがいるというカリフォルニアへ向かった。
カリフォルニア州に着き、クリスがいるという家を目指し、歩いていく。すれ違うのは人ばかりで、さすがは合衆国の州のうちでは最大の人口を誇っているだけのことはある。
空にはまばゆい太陽が輝いており、非常に乾燥している。
歩き続けると人通りの少ない場所に一つ、テントが張ってあった。
そのテントにアリスが入っていき、5分ほどするとアリスと髪をまぁなんというか、アニメのキャラクターにいそうなショッキングピンクに染めている女性が出てきた。
髪を風香と同じポニーテールにしており、少し垂れ目な感じから大人しそうに見える。
「クリスさん、あちらにいるのが貴方の護衛をする風香と悠斗ですわ。」
少女の隣に立ち、アリスが紹介している。
彼女が俺たちの護衛の相手か。改めて見ていると俺の視線に気づいたのか、キッと睨まれた。全然、怖くないのだが。
「もう一人、連れが来るそうなので、その方が来しだいここを出発しますわよ。」
アリスがそう告げた。暫くすると、一人の女性が現れた。
褐色の肌に金髪の30代ぐらいの女性である。
執事服を着ており、スレンダーなモデル体型である。左手首には銀の腕輪をつけている。
「遅れて申し訳ありません。私はクリスさんのボディーガードをしております、ミスティ・フリューゲルと申します。以後、お見知りおきを。」
彼女はそう言って、お辞儀をした。
いかがでしたか?
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次回もお楽しみに。