第1話「天使か、それとも死神か」
昼だというのに外は暗い。
明かりをもたらすはずの太陽は、黒い雲に覆われ、地面へと大量の雨粒が叩きつけられている。
時折聞こえる、ゴロゴロという音と共に、雨は一掃激しさを増す。
遠くからは蛙のゲコ、ゲコという鳴き声が聞こえてきていた。
そんな中、ある廃ビルの屋上に、傘もささず、全身ずぶ濡れの少年がいた。
漆黒の髪の毛先には雨粒が出来ていた。その少年はこの近くにある高校の制服を着ている。
だがその少年はある一点を見ていた。見ていたというよりも睨みつけていた。そこから声がした。
「チョロチョロと逃げやがって・・・。」
少年の睨みつける先には、不良たちがいた。その数5人。
「・・・くそっ。」
後ろへ後ずさる少年。だが、後、数歩下がれば屋上から落ちてしまうという危機的状況である。
どんどん近づいてくる不良達。
そもそもこうなった理由は10分前に遡る。
いつものように学校の授業も終わり、少年が帰っていたときのことだ。
この辺では、有名な不良グループに1人の金髪ツインテールの少女が絡まれていた。
だが、ここで自分から助けるなんてことはしないと少年は思っていた。
自分の身が危険に晒されるなんて御免だと思い、正義の味方ではないのだからと、言い訳を並べている少年の耳にとんでもない一言が入ってきた。
「あそこにいるヤツが、君達の悪口を言っていましたよ。」
その少女は少年を指差し、何の違和感も無く言い放ったのだ。
もちろん絡まれていた少女と少年には何の関係も無く、まして少年はそんなことなど言っていない。
つまり、少女による嘘なのだが、その言葉に単細胞な不良たちの敵意が少年に移っていく。
案の定、少年は不良たちに追いかけられ、廃ビルに逃げ込み、今に至るのだった。
ついに追い詰められた少年と、その少年を囲むように不良たちが距離を詰めてくる。
不良が少年を殴ろうとしたその時、
「あっ・・・。」
反射的にかわそうと身を引いたのがいけなかった。
足を一歩後ろにずらしたその時、もうすでに、足場が無い状況にまで追い込まれていたことに気づいていなかったのが運のつきだった。
体が後ろに傾いて、そのまま少年は屋上から落ちた。
「やっと見つけた。」
その光景を近くの民家の屋根の上から見ている少女がいた。
茶髪のポニーテールで、その整った顔を見れば誰もが虜になると思われる美少女がそこにいた。
だが、その少女は異質だった。
その異質たる原因は、その手が握っている物にあった。
死神の鎌を連想するような大鎌が握られていたのだ。
「今こそ、約束を守るとき、だよね?」
少女は何も無い虚空に向かって、確かめるように呟く。
「助けてあげないと。」
少女は一言そう言って、その場から姿を消した。
少年は落下していた。下はコンクリート。
確実に死ぬな、少年は絶対に揺るがないであろう未来に絶望するでもなく、自分の運命を呪うでもなく、淡々と死を受け入れようとしていた・・・その時、
『おーい、大丈夫?』
どこからか明るい女の声がした。
落下しながらあたりを見渡すがどこにも姿が見えない。
『ねぇ、君。生きたい?』
女が言ってくる。
『私は君を生かすことが出来るんだよ。ただし、君が持つ『全て』を奪うことになるけど、それでも良い?』
しばしの沈黙。
だが、少年は力強く言った。
「生きたい。」
『契約完了♪』
女の楽しげな声と共に、視界には大鎌が現れ、それが自分の体をすり抜けるのと同時に、少年の意識が無くなった。
その少年の名は実神楽悠斗という極普通の高校生・・・であったが、今この瞬間から、彼は人の世から完全に逸脱してしまった『人間だった何か』、言い換えるなら『化物』へと変わった。
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次回もお楽しみに。