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推しがわからない

作者: KOKUREI
掲載日:2026/03/29

初投稿です。

「推しがある人」と「推しがよく分からない人」、どちらにも届いたらいいなと思って書きました。


短い話なので、気軽に読んでもらえたら嬉しいです。

――クラスの後ろの席で、会話が飛び交っている。


「今期のアニメさ、あの作画ヤバくない?」

「わかる!あのシーン神すぎてさ〜」


……楽しそうだな、と思う。


でも、その中に入ろうとは思わない。



スマホの画面をなんとなくスクロールする。


流れてくるのは、誰かの推しのイラストや、

並べられたアクスタ、イベントの写真。


……すごいな、って思う。


でも、どこか遠い。



俺も一応、嫌いじゃない。


アニメも見るし、

キャラだって、好きになることはある。


――でも。


「推しは?」って聞かれると、

いつも、ちょっと困る。



昼休み。


「ねえ、浅倉」


顔を上げると、瀬戸ひまりが立っている。



「浅倉ってさ、推しとかいるの?」



……来た。



「……まあ、一応」



「なにその感じ」

「“いるけど言いたくない”みたいなやつ?」


軽く覗き込むように、ひまりが笑う。



「いや、別にそういうわけじゃ……」



少し迷ってから、カバンの中に手を入れる。


キーホルダーに付けた、アクリルスタンド。


二つだけ。



「……これ」



ひまりは受け取って、じっと見る。


「へえ、いいじゃん」



「この子、好きなの?」



「……まあ」



「“まあ”ってなに」


くすっと笑う。



「好きなら好きって言えばいいのに」



……それが、うまく言えない。



「だってさ」

「みんなみたいに詳しくないし」


「グッズも、これくらいしかないし」



ひまりは少し首を傾げる。



「それってさ」



「“好きじゃない理由”になってる?」



……言葉が止まる。



ひまりはそれ以上は踏み込まず、

アクスタをそっと返してきた。



「放課後さ」


「ちょっと寄ってかない?」



■放課後


駅前のアニメグッズショップ。


ドアが開いた瞬間、独特の空気が流れてくる。



「うわ〜、やっぱテンション上がる!」

ひまりが真っ先に中へ入る。



「新作グッズ、今日からだったはずだよ」

スマホを確認しながら、神崎が淡々と言う。



「マジか!?じゃあ急がないと売り切れるやつじゃん!」

少し息を弾ませながら、熊谷が前に出る。



「……人、多いね」

周りを気にするように、彩葉が小さく言う。



「……」

栞は何も言わず、棚の前で足を止める。



俺は、その後ろをついていく。



「これ見て!この衣装のやつ、めっちゃ可愛くない?」

ひまりがアクスタを掲げる。



「そのシリーズ、作画かなり安定してるよね」

神崎がすぐに反応する。



「しかもこのキャラ、後半でめっちゃ株上がるんだよな〜!」

熊谷が楽しそうに笑う。



「……この表情、いい」

少しだけ目を細めて、栞が呟く。



「わかる、それ人気あるやつだよね」

彩葉が自然にうなずく。



会話が、自然に回っている。



俺は棚の前で立ち止まる。



(……みんな、ちゃんと“選んでる”)



手を伸ばしかけて、やめる。



「浅倉、なんか探してるの?」

ひまりが気づいて声をかけてくる。



「いや……別に」



「無理に知らなくてもいいじゃんね」

彩葉の一言が、やけに残る。



(……やっぱり、違うな)



手元のキーホルダーを、軽く握る。



「……ねえ」



ひまりの声。



「それさ」


「さっきからずっと見てたじゃん」



同じ棚の前。



「――好きなんでしょ?」



言葉が、刺さる。



「……別に、そんな」



「ほんとに?」



ひまりは少し笑う。



「いっぱい知らなくてもさ」


「グッズたくさん持ってなくてもさ」



一歩、近づく。



「好きって言っていいんじゃない?」



……沈黙。



手の中のアクスタを見る。



(……俺)



(ちゃんと、見てたんだな)



小さく、息を吐く。



「……好き、かも」



ひまりは肩をすくめる。



「じゃん」



何も、特別なことは起きない。



ただ。



少しだけ、気が楽になった。



■数日後


朝。


カバンを肩にかける。



キーホルダーに付いたアクスタ。


前と同じ、二つ。



「浅倉、それ好きなの?」



少しだけ間を置いて。



「……まあ、ちょっとな」



歩き出す。



朝の光の中で、

アクスタが小さく揺れる。



そして、ふと思う。



――推しがわからないままでも、


それでも、いいのかもしれない。

ここまで読んでいただき、ありがとうございました。


「推しがはっきりしていなくてもいい」という感覚を、少しでも感じてもらえていたら嬉しいです。


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