第3話 欲望に負けた結末は、猫の獣化と神鼠の変化
が、その瞬間…
爪の先まで凍り付くような、強烈な恐怖が沸き上がり、
僕はリヒトさんから跳ね退いた。
…ああ、これは、この恐怖は…
間違いない…
真っ黒い、禍々しい空気がリヒトさんから立ち上っている。
もう、僕は硬直して動けない。
リヒトさんは、黒曜石の瞳孔を広げ、ゆっくりと四つん這いで近付いてくる。
僕は、13歳から三年間、身体の鍛錬を必死に積んだ。
もちろん、最小化や封殺といった神通力の訓練のためでもあるが、
いざ、襲い掛かられたときでも、
恐怖の中で対抗できる心身を養うことが目的だった。
しかし、リヒトさんは、あの時のように飛び掛かって来ない。
僕の恐怖をあおるように、
動けない僕を味わうように、
ゆっくりと近づいて、
猫が匂いを嗅ぐように鼻をスンスンといわせ、
僕の足先から這い上がり、
さあ、どこを食べようかと身体をくねらせている。
僕は、激しい恐怖と後悔で、
心臓が千切れそうだった。
僕が、我慢できなかったから!
僕が、止めなかったから!
僕が、止められなかったから!
僕が、自分に負けたから!
あんなに会いたいと思っていたのに、
会うだけでは足りず、
笑い合うだけでは足りず、
手を握るだけでは足りず、
抱き締めても足りず、
口づけすれば、もっと欲望を掻き立てられ…
僕は弱すぎる!!!!!
※※※※※※※※※
でも、我慢できるのか?
僕は、ずっと、ずっと、
彼女に欲望を抱いている。
僕の彼女への「恋」は、
透明なガラスなんかじゃない。
彼女が聞いたら、きっと逃げ出すほどの、
旺盛な欲望にまみれている。
今、獣化したリヒトさんは.
僕を食べようとしている。
が、実際、いつも、いつも、
彼女を食らい尽くそうとしているのは、
この僕だ!
リヒトさんは四つん這いのまま、
僕の身体の匂いを、
ゆっくりと身体をくねらせながら嗅いで、
股間のところまで到着している。
恐怖で硬直した僕の身体は容易に動かない。
これが、一緒にいられないことが運命づけられた、神鼠と猫の属性なのだ。
黒いワンピースに身を包んだリヒトさんは、
月夜の黒猫のようにしなやかに、
瞳を爛々とさせながら、
僕の上半身を嗅ぎ回っている。
僕の素肌にかかる、彼女の吐息、かする唇や髪の毛…
硬直した僕の身体に、
恐怖と共に、
激しい欲情が沸き上がる。
貴女が獣化したままでもいい。
殺されてもいい。
殺される前に、一度でいい。
人生の、最後のページで、
僕は…貴女と…
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突如、心臓が切り裂かれたような鋭い痛みに、
ガッと叫んで、身体を硬直させたままもんどり打った。
女は飛びずさって、私の様子を窺ったが、
私が動かないのを見ると、
猛然と襲い掛かってきた。
私は身をかわすと、片足で女の首元を踏みつける。
女は激しく身をよじる。
「調子に乗るな、雌猫」
しかし、雌猫は、私の足から抜け出して、
狂暴な瞳で威嚇し、私に襲い掛かる機会を窺う。
さすが、野蛮な猫族だ。
「無駄だ。
貴様に、私は襲えない。」




