表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

2/3

第2話 神鼠は 猫へのディープキスを 止められない

修正ver.

後片付けが終わると、

ステファニーや従者たちが、執務室を退室した。


「明日は、図書館で大きい作業があるから…」


とモゴモゴ呟きながら、

彼らに続いて、リヒトさんも執務室を退室する。


ツヴェルフェト大学を休学したリヒトさんは、

事件の調査…

そして、獣化防止などの研究をしながら、

3年前のように、大神殿併設の国立図書館の司書として働いている。


身の安全からしても、

…ああ、はっきり言おう、

僕の希望からすると、

大神殿の敷地内にいて欲しいし、

実際、図書館での調べ物も多いから都合がよい。


「寝るときは…燭台で合図します。」


「私も…」


おやすみなさい、と歩き出したリヒトさんは、

急に憤然と振り向いて、


「今日は早く寝てね!

ちゃんと寝ないと病気になるんだから!」


と肩を怒らせて歩き出す。


角を曲がる姿を名残惜しく見送ると、

急に角からリヒトさんの顔がニュッと出て、


「早く寝てね?」


と夕日色の瞳を煌めかせて、

僕に念を押す。


僕は思わず微笑むと、

口だけ(分かりました)と動かして、

大きく頷いて見せる。


リヒトさんは、(絶対ね)というように、

威嚇するように、目に力を込めると、

壁の向こうに消えて行った。


僕は、彼女の面影を追うように、

廊下の角に目を凝らした…


**********


が、僕は走り出した。


リヒトさんは、もう一つの角を曲がるところで、

官吏の地味な黒い服が、フワリと壁に纏わりつく。


「リヒトさん!」


僕は、振り返るリヒトさんの腕を掴んだ。


「ど、どうしたの?何かあった?」


「部屋まで、送ります。」


僕は腕を差し出した。

リヒトさんは、黙って、そっと僕の腕に手を置く。


どんなにゆっくり歩いても、リヒトさんの部屋にはすぐに着いてしまった。

僕が扉を開けると、リヒトさんは部屋に入る。


これ以上、引き止める理由はない。


僕は、苦し紛れに言った。


「リヒトさん、握手をしていいですか?」


リヒトさんは、うつむいて、自分の手のひらを見比べていたが、

僕はパッと右手を出して、彼女の右手を握った。


少しだけ力を込めると、

リヒトさんも指に力を入れてくれる。


少し指を動かすと、

リヒトさんも指を動かす。


少しだけ力を込めて、

少し指を動かして、


少しだけ力を込めて、

少し指を動かして



薄暗い廊下にいる僕と、


燭台がついた薄明かりの部屋にいるリヒトさんと…


その境目はひどく遠くて、

驚くほど近かった。


猫の天神から帰って来てから、手を握ることもしていなかった。


…自分が変化して、リヒトさんを襲うことが怖くなってきたのだ。


でも、今、この瞬間、

この手を離すことなど、僕には到底できない。


「僕自身が変化して、

リヒトさんを殺すかもしれない立場になって…

ようやく、分かったんです。

貴女が、僕から離れようとしたのが…」


その瞬間、

リヒトさんは、僕の手から自分の手を勢いよく引き抜き、

口を戦慄(わなな)かせて僕を見た。


「分かった…ということは、

今度は君が、私から離れるってこと?」


「まさか!!!」


僕は飛び上がって、その勢いで、リヒトさんの部屋の中に入る。

後ろで扉が静かに閉まる。


「僕が少しでもおかしくなったら、

人を呼んでください。」


早口で言うなり、

僕は、思い切って彼女を抱きしめた。


「僕から…離れるわけない…」


リヒトさんは、僕の耳元で、暗い声で呟く。


「次の瞬間に、

君が見る画は、

君が殺した、

私の姿かもしれない」


リヒトさんは、そっと僕を離すと、

灯りの影の中、

鈍く輝く夕日色の瞳で、僕を見つめた。


「そう思う…でしょ?」


「僕は…殺さない確率が9割…8割…くらいならいいんだと思っていました。

…貴女が隣にいるなら、最悪、僕は、殺されてもいいと…

でも、殺す側になってはじめて…

リヒトさんの…行動が痛いほど分かります。」


僕は、リヒトさんの背を壁に押し付けて、腕で囲い込み、覗き込んだ。


「三年前、貴女が、大神殿から去ってくれなかったら…

神通力の最小化も封殺もない僕は、

貴女に殺されていたかもしれない。

だから…」


リヒトさんは、自分が僕を殺す画を想像したのか、

目を固くつぶった。


「…ありがとう、リヒトさん。

僕を守ってくれて。」


「エッ…」


リヒトさんは一瞬、意表を突かれたような顔をしたが、

次の瞬間「フ…」と笑顔になった。


今度は、僕が意表を突かれる。


「…おかしいですか?」


僕の腕と壁に囲まれた空間の中で、リヒトさんの笑顔の波は広がって、

嬉しそうに僕を見上げた。


「私…よく思ってた。

大神殿を出て、コルデールにいた3年間…

本当は無駄だったんじゃないかって。

少なくとも、シリウスはそう思っているんじゃないかって。

私は、あんなにしんどかったのに…


今、君から『ありがとう』って言われて、

変な話だけど、スッキリした!

なんだか、報われたなって…」


痛々しく喜ぶ、リヒトさんの柔らかそうな唇。

…下からゾゾゾと何かに突き上げられる。


もう、僕は、我慢できずに、

彼女の唇に、僕の唇を押し付けた。


燭台の薄明かりだけの部屋。


顔中上気したリヒトさんの顔。


僕の身体中の興奮が、否応なく揺さぶられる。


(ああ、僕は…

今、リヒトさんを「殺す側になった」と言わなかったか?

この口づけを…

止めなくては…)


その気持ちとは裏腹に、

僕の手は、彼女のローブのボタンを外し、

簡素な黒いワンピースの上から強く抱き締める。


(ここまでだ…

ここで止めるんだ…)


ローブはズルズルと落ちていく。


乱れた黒髪の間から彼女の白い首が見えると、

僕は目もくらむ思いで、それに吸い付いた。


と、リヒトさんが、思いがけないほど大きな喘ぎ声を上げる。


「…我慢できない。」


僕は彼女を抱き上げ、大股で寝台に行き、

投げるように横たえると、その両手を押さえつけて、夢中で首を吸った。


両手を押さえつけられたリヒトさんは、激しく身悶えをして、

狂おしそうに喘ぎ続ける。


ああ、リヒトさんは…

こんなに…こんなにも…艶っぽいのか…


(僕が変化するかもしれない!

すぐに止めろ!!)


「シリウス…」


リヒトさんの、僕を呼ぶ声。

止めろ?

…続けろ?


僕はその声に押されるように、

自分の上着を脱ぎ捨てた。


(彼女が獣化するかもしれない!)


僕は再び、彼女の唇に口づけをして、

今度は、唇の間に舌を差し込もうとする。


「リヒトさん、口を開けて…」


(殺すかもしれないのに、

なぜやめない!!!)


リヒトさんは、口を固く閉じたまま、

いやいやをするように左右に首を振る。


(殺されるかもしれないから、

やめろ!!!)


しかし、僕が口にしたのは、

愛撫を止める勇気ある宣言ではなく、

実に卑怯なお願いだった。


「僕は…2年間誘拐されていた間…

気色の悪いキスを強要された…

上書きしたいんだ…リヒトさんと…」


リヒトさんは、僕を見た。


僕もリヒトさんを見る。


「そのキスをしたい…リヒトさんと…」


リヒトさんは、小さく口を開けた。


これが、止める最後のチャンスだ…


(止まれ!)


止まらない!


(止めろ!)


止められない!!


(止めろ止めろ止めろ止めろ…!!!!!)


止められるわけがない!!!


こんな…こんなこと…!!!


止められるわけがない!!!!

…止められるわけが!!!!!


僕は、吐息が漏れる、リヒトさんの小さな唇の隙間に舌を差し込むと、

深く深く、

彼女を壊しそうなほどに、

無我夢中で、蕩けそうな接吻を始めた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ