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【最強能力】未来を削れる俺は、世界を救わないことにした ―星が減るたび、未来が消える―  作者: 天城ユウ


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第7話 延期された空の下で

 空に黒い塊が浮かんだまま、一日が過ぎた。


 落ちない。


 消えない。


 ただ、そこにある。


 七大国の軍勢は一定の距離を保ち、野営を始めている。完全撤退ではない。様子見。牽制。均衡のにらみ合い。


 俺はというと——


 「……水やり」


 畑に水を撒いていた。


 エリシアが呆れ半分、感心半分の目で言う。


 「この状況で、農作業ですか」


 「麦は待たない」


 戦争も均衡も世界意志も、麦の成長は考慮してくれない。


 優先順位は俺が決める。


 ハルトが空を見上げる。


 「本当に落ちないのですね」


 「いまのところは」


 俺は水桶を置き、空を見た。


 黒い塊は、わずかに揺らいでいる。完全停止ではない。あくまで“延期”。


 永遠ではない。


 たぶん。


 エリシアが言う。


 「レイ。昨日、あなたは“削らなかった”のですね」


 俺は一瞬だけ目を細める。


 気づいたか。


 「少しは削った」


 「……やはり」


 エリシアの表情が曇る。


 「星、ですか」


 俺は手を止める。


 「見えたか」


 「一瞬だけ」


 やっぱりか。


 昨日、三つ消えたときは気づかなかったが、今回ははっきりしていた。


 ハルトが戸惑う。


 「星とは……?」


 エリシアが説明する。


 「レイが力を使うと、空の星が減る」


 ハルトは笑いかけて、笑えなくなる。


 「……冗談、ではなさそうですね」


 俺は空を見る。


 昼間でも、よく見れば薄い点がある。


 減っている。


 確実に。


 「削ると楽だ」


 俺は正直に言う。


 「全部消せば、一瞬で終わる」


 エリシアが息を呑む。


 「でも」


 「でも削るほど、世界が薄くなる気がする」


 言ってしまった。


 ハルトが真剣な顔になる。


 「世界が……薄く」


 「たぶん」


 確証はない。


 でも感覚がある。


 可能性を消している。


 世界の枝を切っている。


 エリシアが静かに言う。


 「だから、延期したのですね」


 「最短じゃない方法」


 俺は頷く。


 「遠回り」


 ハルトが苦笑する。


 「あなたが遠回りを選ぶとは」


 「面倒だからな」


 エリシアが笑う。


 その笑いは、昨日より少し柔らかい。


 ◇


 午後。


 商業国家ミレイアから、再び使者が来た。


 今度は少人数。


 ルーカスが一人で歩いてくる。


 護衛は遠くで止まっている。


 「お時間を」


 「早いな」


 「昨日の件で、我が国は会議を開きました」


 俺は畑の端に座り、麦をいじる。


 「結論は?」


 ルーカスは空を見上げる。


 黒い塊。


 「あなたは“消さなかった”」


 「消せなかったとは思わないのか」


 ルーカスは首を振る。


 「消せたでしょう」


 断言。


 賢いな。


 「なぜ消さないのですか」


 「削れるから」


 ルーカスの目が細まる。


 「削れる?」


 俺は空を指す。


 「星」


 ルーカスは目を凝らす。


 「……見えません」


 「見えるやつもいる」


 エリシアが静かに立つ。


 ルーカスは彼女を見る。


 「なるほど」


 すぐに理解する。


 商人は情報を嗅ぐのが早い。


 「あなたの力は、有限だと」


 「そういうことにしとけ」


 ルーカスは少し考え、言った。


 「我が国は、あなたを敵視しません」


 「ほう」


 「ただし」


 やっぱり来るな。


 「ここを“交易特区”と認める代わりに、我が国の商人を優先的に受け入れていただきたい」


 俺は笑う。


 「ちゃっかりしてるな」


 「商売ですので」


 悪くない。


 壊せない場所にするには、利益が必要だ。


 ハルトが小声で言う。


 「レイ殿、これは好機かと」


 エリシアも頷く。


 「流通を握れば、戦争は減ります」


 俺は考える。


 最短は、七大国を叩き潰すこと。


 でも削る。


 遠回りは、利害を絡めること。


 面倒だが、削らない。


 「条件がある」


 俺は言う。


 ルーカスが微笑む。


 「お聞きしましょう」


 「ここを戦場にしたら、全国家と取引停止」


 ルーカスの目が一瞬だけ真剣になる。


 「……大きく出ましたね」


 「面倒だから」


 ルーカスは数秒考え、頷く。


 「我が国は、その条件を飲みましょう」


 ハルトが息を吐く。


 エリシアの目が輝く。


 第一歩だ。


 ルーカスが去ると、ハルトが言う。


 「一国は取り込みました」


 「取り込んでない」


 俺は否定する。


 「利害が一致しただけ」


 エリシアが静かに言う。


 「それが政治です」


 政治。


 嫌いだ。


 でも。


 削らないで済むなら、やる。


 ◇


 夕暮れ。


 軍事国家ガルディアの将軍が一人で来た。


 鎧を脱ぎ、軽装だ。


 「話がある」


 「短く」


 将軍は空を見上げる。


 「消さないのは、なぜだ」


 「消すと削れる」


 「削れる?」


 また同じ説明。


 将軍は黙る。


 やがて言う。


 「戦争は進歩を生む」


 「知ってる」


 「だが昨日のような暴走は望んでいない」


 なるほど。


 将軍も困っている。


 均衡が大きく動きすぎると、制御不能になる。


 「お前は、均衡を壊すのではないのか」


 「形を変える」


 将軍は俺を見る。


 「戦争を減らすと言ったな」


 「言った」


 「ゼロにはしない?」


 俺は首を振る。


 「循環は止めない」


 将軍は深く息を吐く。


 「ならば我が国は様子を見る」


 完全敵対はしない、ということか。


 悪くない。


 将軍は去り際に言う。


 「だが一つだけ覚えておけ」


 「何」


 「力は、持っているだけで戦争を呼ぶ」


 残酷な真実。


 俺は空を見上げる。


 黒い塊は、まだ浮いている。


 延期は続いている。


 夜。


 星空が広がる。


 俺は小屋の前に座り、空を見る。


 エリシアが隣に座る。


 「減っていますか」


 「少し」


 「怖いですか」


 俺は少し考える。


 「面倒だ」


 エリシアが小さく笑う。


 「本音は?」


 俺は空を見たまま言う。


 「もし全部消えたら、どうなるかがわからない」


 沈黙。


 遠くで軍勢の焚き火が揺れる。


 エリシアが静かに言う。


 「レイ」


 「ん」


 「あなたがいなくても動く世界に、したいです」


 俺は横目で彼女を見る。


 真剣な顔。


 覚悟の目。


 俺は息を吐く。


 「俺もだ」


 それが一番、楽だ。


 星空は、まだ十分に多い。


 だが確実に、減っている。


 遠回りは、長い。


 でも。


 削らない道は、たぶん。


 まだ、続けられる。


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