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【最強能力】未来を削れる俺は、世界を救わないことにした ―星が減るたび、未来が消える―  作者: 天城ユウ


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第5話 畑を守るという宣戦布告

 ルーカスが帰ったあと、しばらく小屋の中は静まり返っていた。


 鍋の中のスープは空になり、火は消え、外では風が麦を揺らしている。


 平和だ。


 見た目だけは。


 ハルトが最初に口を開いた。


 「……断って、よろしかったのですか」


 「何が」


 「商業国家ミレイアの提案です」


 俺は椅子に座り直す。


 「属したら楽になると思うか?」


 ハルトは迷う。


 「少なくとも、正面から敵対されることは減るかと」


 「その代わり、裏から増える」


 俺は指を一本立てる。


 「属したら、他国は俺を“ミレイアの武器”と見る」


 エリシアが頷く。


 「均衡がさらに歪みます」


 「だろ」


 俺は肩を回す。


 「俺は畑を守りたいだけだ」


 ハルトがぼそりと呟く。


 「その畑が、いまや七大国の均衡を揺らしているのですが」


 知らん。


 俺は立ち上がり、外に出た。


 空気は冷え始めている。夕方だ。


 麦畑は静かに波打っている。


 これを焼かれるのは、嫌だ。


 単純な理由だ。


 エリシアが後ろからついてくる。


 「レイ」


 「ん」


 「あなたは、なぜ戦争を嫌うのですか」


 嫌う。


 嫌いというより、面倒だ。


 でもそれだけじゃない。


 「戦争があると、復興がいるだろ」


 「……はい」


 「復興は長い。長いと、俺が巻き込まれる」


 エリシアが小さく笑う。


 「それだけですか」


 俺は畑を見渡す。


 「戦争は、最短じゃない」


 エリシアが黙る。


 俺は続ける。


 「壊してから直すのは、二度手間だ」


 最初から壊さなければいい。


 それが一番楽だ。


 ハルトが小屋から出てくる。


 「しかし、レイ殿。七大国が連合を組めば、この地も安全ではありません」


 「来るなら来ればいい」


 ハルトが目を見開く。


 「正面から?」


 「畑に入る前に止める」


 俺は空を見上げる。


 青は、夕焼けに変わりつつある。


 「七大国が動くなら、理由がいる」


 「理由?」


 エリシアが問う。


 「俺が危険だから動く」


 「はい」


 「なら危険じゃないと示せばいい」


 ハルトが首をかしげる。


 「どうやって」


 俺は考える。


 最短は、圧倒すること。


 でもそれは星を削る。


 だから。


 「戦争を起こさない仕組みを作る」


 沈黙。


 エリシアがゆっくり言う。


 「……国を?」


 俺は顔をしかめる。


 国。


 その単語、重い。


 「いや」


 俺は首を振る。


 「国は面倒だ」


 税とか法律とか、絶対やりたくない。


 「じゃあ何を」


 ハルトが迫る。


 俺は畑の端にしゃがみ、土を掴む。


 「畑を守る仕組み」


 「それは……」


 エリシアが戸惑う。


 俺は土を握りしめる。


 「七大国が直接殴れない場所を作る」


 「緩衝地帯……?」


 ハルトが呟く。


 「違う」


 俺は立ち上がる。


 「七大国全部が、“ここを潰すと損する”場所」


 エリシアの目が見開かれる。


 「中立地帯」


 「それに近い」


 でもただの中立じゃ弱い。


 中立は、力がなければ踏み潰される。


 俺は空を見る。


 また、あの違和感。


 星が。


 いや、まだだ。


 まだ削らなくていい。


 「七大国が、ここを通してしか取引できないようにする」


 ハルトが息を呑む。


 「流通の要所に?」


 「そう」


 俺は頷く。


 「戦争しても、ここがないと損する」


 エリシアがゆっくり言う。


 「商業国家も、軍事国家も、宗教国家も……」


 「全員、困る」


 困るなら壊せない。


 壊せないなら、戦場にならない。


 単純だ。


 ハルトが笑う。


 「……面倒を、もっと大きな面倒で包むわけですか」


 「そう」


 小さい面倒は、大きい面倒に飲み込ませる。


 俺のやり方だ。


 エリシアが真剣な目で言う。


 「それは、国を作るのと同じです」


 「だから違う」


 俺は即答する。


 「国は統治がいる。俺は統治しない」


 「では誰が」


 エリシアと目が合う。


 数秒。


 彼女は視線を逸らさない。


 なるほど。


 そういう目か。


 俺はため息をつく。


 「俺は枠を作る」


 「枠?」


 「その中身は、やりたい奴がやれ」


 エリシアがゆっくり息を吐く。


 「……私に、やれと?」


 「やりたいんだろ」


 国を取り戻す。


 戦争を終わらせる。


 そう言った。


 俺は続ける。


 「俺は最短を選ぶ」


 エリシアが小さく笑う。


 「面倒だから」


 「そう」


 ハルトが腕を組む。


 「ですがレイ殿。それは七大国に対する宣戦布告に等しい」


 宣戦布告。


 俺は空を見上げる。


 夕焼けが広がっている。


 赤い。


 血みたいだ。


 「宣戦布告はしない」


 俺は言う。


 「畑を守るだけだ」


 エリシアが呟く。


 「それが、戦争を止めることになる」


 俺は肩をすくめる。


 「結果的にそうなるなら、楽だ」


 そのとき。


 空の端が、わずかに歪んだ。


 ハルトが身構える。


 「またですか?」


 俺は目を細める。


 さっき勇者を消したときの残滓か。


 小さな黒点が、空に浮かぶ。


 隕石ほどじゃない。


 でも放置すると落ちる。


 畑に。


 俺は手を挙げる。


 「落ちない」


 コトン。


 黒点が消える。


 静寂。


 その瞬間。


 夕焼けの空に、ほんの一瞬だけ、星が三つ消えた。


 昼よりはっきりと。


 俺は固まる。


 エリシアが気づく。


 「……レイ?」


 ハルトは何も見ていない。


 俺だけが、見た。


 三つ。


 増えている。


 削れる数が。


 俺は拳を握る。


 最短は、削れる。


 さっきの黒点は小さかった。


 でも三つ消えた。


 「……回数、増えてるな」


 小さく呟く。


 「何がです?」


 ハルトが問う。


 「いや」


 俺は首を振る。


 まだ言うな。


 確証がない。


 でも。


 もしこのまま削り続けたら。


 世界はどうなる?


 俺は夕焼けを睨む。


 面倒だ。


 本当に面倒だ。


 でも。


 放置はもっと面倒だ。


 俺は決める。


 「エリシア」


 「はい」


 「ここを、七大国が手出しできない場所にする」


 彼女の目が燃える。


 「はい」


 「ただし」


 俺は釘を刺す。


 「俺は王にならない」


 エリシアが静かに頷く。


 「あなたが王でなくても、構いません」


 ハルトが笑う。


 「では、これは何になるのですか」


 俺は少し考え、言った。


 「面倒回避区域」


 沈黙。


 そして。


 エリシアが吹き出す。


 ハルトも笑いを堪える。


 俺は真顔だ。


 本気だ。


 でも。


 その笑い声が、少しだけ救いだった。


 空は赤く染まる。


 消えた星のことを、俺はまだ誰にも言わない。


 言ったら、もっと面倒になるから。


 でも。


 この面倒は、きっと。


 世界規模だ。


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