第25話 削れない空の下で
それから、半年が過ぎた。
世界は、壊れていない。
だが、平和でもない。
七大国は軍縮を一部見直した。
完全な戦争は起きていない。
小競り合いはある。
遠均は、縮んだまま残った。
市場は以前より静かだ。
だが消えていない。
ガルドは建設隊の長になった。
兵ではなく、土を運んでいる。
「戦争より腰が痛い」
そう言って笑う。
リーネは学校に通っている。
文字を覚えた。
ときどき畑を手伝う。
「削れないの?」
ある日、聞かれた。
「削れない」
俺は答える。
手を上げても、何も起きない。
空は静かだ。
星は、相変わらず多い。
ユリアンは観測塔にこもっている。
「星は安定しています」
そう報告するが、
完全な規則性はないらしい。
揺れている。
それでいい。
エリシアは帳簿を抱えながら言う。
「遠均は、もう中心ではありません」
「知ってる」
各地に小さな中立地帯が生まれた。
遠均の思想が広がったのか、
ただの偶然か。
どちらでもいい。
カリオスとは、あれ以来会っていない。
だが噂は聞く。
「均衡は自律すべきだ」と
各国を回っているらしい。
俺がいなくても、
思想は続く。
世界意志の声は、もう聞こえない。
たぶん、最初から
聞こえていたのかどうかも怪しい。
ただ。
星を見ると、思い出す。
削れば、減っていた。
いまは減らない。
減らせない。
夕暮れ。
畑の土をいじりながら、
俺は空を見上げる。
面倒だ。
天候は読めない。
作物は病気になる。
人は争う。
削れたら楽だった。
一瞬で整えられた。
でも。
整いすぎた世界は、
きっと息苦しい。
リーネが隣に座る。
「いまのほうが好き」
「何が」
「空」
俺は笑う。
「多すぎるだろ」
「それがいい」
星は、ばらばらだ。
規則もあるが、
完璧ではない。
未来もきっとそうだ。
一本道ではない。
だから迷う。
だから間違える。
だから戻れる。
削れない。
でも選べる。
風が吹く。
遠均の灯りがともる。
小さな火だ。
世界を照らすほどではない。
だが消えない。
俺は立ち上がる。
「明日も働くか」
リーネが頷く。
遠くで、鍛冶の音が響く。
戦争ではない。
生活の音だ。
星は減らない。
未来は、多いままだ。
面倒なくらい。
それでいい。
ここまで読んでくださって、本当にありがとうございます。
この物語は、
「最強能力をどう使うか」ではなく、
「最強能力を持ってしまったらどうなるか」から始まりました。
削れば救える。
削れば終わる。
削れば楽になる。
でも、その“楽”は本当に正しいのか。
レイは正しい人ではありません。
英雄でもありません。
ただ、面倒くさがりで、怖がりで、迷う人間です。
それでも最後に選んだのは、
「未来を一つにしない」という不便な道でした。
この世界は、きっとこれからも揺れます。
戦争も起きるかもしれません。
間違いもあるでしょう。
でも、星は減らない。
選択肢が残る限り、
やり直す余地はある。
そんな物語を書きたくて、この作品を完結させました。
ここまで追いかけてくださった皆さま、本当にありがとうございました。
もしこの世界の続きを、
あるいは別の物語を読んでみたいと思っていただけたなら、
それ以上に嬉しいことはありません。
未来は、多いままで。
それでは、またどこかで。




