第24話 収束する空
異変は、音もなく始まった。
風が止む。
鳥が飛ばない。
遠均の市場から、ざわめきが消える。
静かすぎる。
ユリアンが塔から転げ落ちるように駆けてきた。
「星が……動いていません」
「減ってるか」
「減っていません」
だが。
「すべてが中央に寄っています」
空を見上げる。
昼だというのに、星が見える。
それらが。
一点へ。
収束している。
《剪定者》
声が低い。
《未来が固定される》
「削ってないぞ」
《存在が前提になる》
胸が冷える。
ユリアンが震える声で言う。
「剪定能力がある限り、世界は“剪定可能”として均衡を組みます」
「どういう意味だ」
「最後に誰かが切る、と」
沈黙。
俺がいる限り。
未来は“切られる前提”。
だから収束する。
だから一点に寄る。
削っていないのに。
俺が歪み。
遠くで地面が揺れる。
海鳴りのような低い振動。
ハルトが叫ぶ。
「大地が裂けます!」
遠均の外。
亀裂が走る。
都市消滅とは違う。
世界規模だ。
《幹が震える》
世界意志の声が、はっきり響く。
《例外が収束を生む》
「俺か」
《お前だ》
エリシアが俺を見る。
「止められますか」
削れば止まる。
大規模剪定。
星が五つ消える。
世界は安定する。
だが。
未来も削れる。
俺は空を見る。
星が一点へ集まり、光が強まる。
固定される。
一つの未来へ。
ユリアンが言う。
「このままでは、世界は一本になります」
一本道。
選択のない未来。
それが幹の暴走。
俺は手を上げる。
削る。
終わらせる。
楽だ。
最短だ。
星が五つ消える。
でも止まる。
リーネの顔が浮かぶ。
「次は止めて」
ガルドの声がよぎる。
「戦争があったから俺は生きてこれた」
カリオスの言葉。
「淘汰を恐れるな」
《剪定者》
声が静かに問う。
《削るか》
俺は答えない。
空が裂ける。
光が一本に伸びる。
未来が固定される。
俺は。
削る。
……寸前で。
声が響く。
「削るな」
振り向く。
カリオスが立っている。
「削れば、私の勝ちだ」
低い声。
怒りでも嘲笑でもない。
事実。
「淘汰を選べば、未来は一本になる」
俺は言う。
「削らなきゃ崩れる」
カリオスは首を振る。
「違う」
「能力がある限り、世界は依存する」
依存。
俺が最後に切る。
それを前提に均衡が組まれる。
だから収束する。
カリオスが言う。
「削るな」
思想の敵が。
止める。
俺は空を見る。
星が震えている。
世界意志が低く言う。
《選べ》
大規模剪定。
安定。
だが未来減少。
あるいは。
能力封印。
不可逆。
俺は笑う。
「面倒だな」
削れば楽だ。
だが。
削らないと決めた。
最後まで。
俺は空に向かって言う。
「剪定を、封じる」
《……不可逆だ》
「知ってる」
《二度と削れぬ》
「いい」
未来が固定されないなら。
不便でいい。
俺は幹へ手を伸ばす。
触れる。
熱い。
無数の分岐が見える。
削れば、一本。
封じれば、無数。
俺は。
自分の中の“切る”感覚を。
外へ押し出す。
星が震える。
光が弾ける。
収束が止まる。
一本だった未来が。
再び枝分かれする。
無数に。
《剪定概念、消失》
世界意志が告げる。
手が軽い。
力が、ない。
削れない。
分散もできない。
ただの人間。
空が明るくなる。
亀裂が閉じる。
星が散らばる。
減っていない。
固定されていない。
俺は膝をつく。
息が荒い。
カリオスが近づく。
「ようやく対等だ」
俺は笑う。
「削れなくなったぞ」
「それでいい」
遠均は揺れている。
だが崩れない。
未来は不安定。
だが一本じゃない。
エリシアが言う。
「終わりましたか」
俺は空を見る。
星は多い。
面倒なくらい。
「始まっただけだ」
削れない世界は、不便だ。
戦争も起きる。
犠牲も出る。
だが。
固定はされない。
俺は立ち上がる。
畑に戻る。
カリオスが去る。
世界意志は沈黙する。
星は減らない。
未来は、多いままだ。
面倒なくらい。
次で完結となります。
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