第22話 正義の定義
公開討論は、七大国共同主催で開かれた。
場所は、遠均と帝国の境界。
中立の草原。
兵は立たない。
だが。
観衆は多い。
商人、兵、亡命民、巡礼者。
そして七大国の代表。
壇上には二人。
俺と。
カリオス・ヴァル=ゼイン。
風が吹く。
空は曇り。
星は見えない。
カリオスが口を開く。
「都市は消えました」
静かな声。
よく通る。
「遠均の干渉が均衡を歪めた」
ざわめき。
俺は黙る。
カリオスは続ける。
「彼は止められた」
視線が刺さる。
「だが止めなかった」
沈黙。
俺は言う。
「削れば止められた」
どよめき。
「削らなかった」
カリオスが問う。
「なぜ」
俺は空を見る。
「削ると未来が減る」
カリオスは首を傾げる。
「未来とは何か」
「可能性だ」
「抽象的だ」
「具体的だ」
俺は言う。
「選べなくなる」
カリオスが歩く。
観衆を見渡す。
「では問おう」
声が強くなる。
「都市一つと、選択肢の多さ」
「どちらが重い」
沈黙。
観衆が揺れる。
感情は都市側だ。
当然だ。
カリオスは続ける。
「彼は選ばなかった」
「逃げた」
その言葉が刺さる。
俺は否定しない。
「逃げた」
ざわめき。
エリシアが目を見開く。
ハルトが拳を握る。
カリオスの目がわずかに細まる。
予想外。
俺は続ける。
「全部守れない」
「だから逃げた」
観衆が揺れる。
怒りも、戸惑いも。
俺は言う。
「俺は神じゃない」
カリオスが問う。
「では何だ」
「面倒くさがりだ」
小さな笑いが漏れる。
空気が少しだけ緩む。
俺は続ける。
「削るのは楽だ」
「一瞬で終わる」
「でも後で困る」
観衆が静まる。
「削ると未来が固定される」
ユリアンが後方で頷く。
俺は言う。
「固定された未来は、間違えたとき戻れない」
カリオスが反論する。
「進化は不可逆だ」
「だから慎重にやれ」
俺は言う。
「都市は消えた」
「俺の遠回りのせいかもしれない」
観衆がざわつく。
「でも削ったら」
「もっとでかいのが消えるかもしれない」
カリオスが問う。
「証明は」
「ない」
正直に言う。
「だから怖い」
沈黙。
風が吹く。
俺は観衆を見る。
「怖いから削らない」
「怖いから考える」
「怖いから選ばせる」
カリオスが静かに言う。
「恐怖は決断を鈍らせる」
「決断は間違える」
俺は言う。
「だから急がない」
沈黙。
長い。
カリオスが問う。
「ではあなたの正義は何だ」
核心。
俺は考える。
ずっと避けてきた言葉。
正義。
俺は言う。
「固定しないこと」
カリオスの眉がわずかに動く。
「未来を一つにしない」
「戦争もゼロにしない」
「でも削らない」
観衆が静まる。
俺は続ける。
「選べる状態を残す」
カリオスが問う。
「それで犠牲が出る」
「出る」
「責任は」
「俺が持つ」
沈黙。
カリオスが俺を見る。
長く。
やがて。
「甘い」
そう言う。
だが。
否定しない。
カリオスは観衆に向き直る。
「彼は逃げたと認めた」
「だが削らないと言う」
「あなた方はどちらを選ぶ」
観衆が揺れる。
完全な賛同はない。
完全な否定もない。
分かれる。
半分。
それでいい。
未来は固定されない。
《剪定者》
声が低く響く。
《選択は分岐を生む》
「そうだ」
カリオスが最後に言う。
「私は淘汰を恐れない」
「彼は淘汰を恐れる」
「どちらが世界を導くか」
討論は終わる。
勝敗はない。
だが。
遠均は“思想”になった。
俺は壇上を降りる。
エリシアが言う。
「あなたは正直すぎます」
「知ってる」
ハルトが笑う。
「それで半分残った」
空を見上げる。
雲の隙間から、星が一つ見える。
減っていない。
固定もされていない。
カリオスは去る前に一言。
「次は、幹だ」
宣言。
思想戦は終わらない。
削らない未来は。
今、初めて人に委ねられた。
だが。
幹が揺れるとき。
言葉では止まらない。




