第14話 削らない戦争
遠均ができてから、一ヶ月。
小競り合いは減った。
交易量は増えた。
南方の兵も、半数は工事に定着した。
遠回りは、確かに効果を出している。
だが。
大きな戦争は、別だ。
「帝国と西の連合が、国境で睨み合っています」
ハルトの報告は、重い。
「理由は」
「資源地帯の帰属」
エリシアが地図を広げる。
遠均の外。
だが影響は大きい。
帝国が動けば、連鎖する。
削らずに止められる規模か。
俺は空を見る。
星は減っていない。
まだ。
「代表を呼べ」
◇
数日後。
遠均の議場に、帝国と連合の代表が並ぶ。
両者とも強い。
言葉も、軍も。
「資源地帯は歴史的に帝国のものだ」
「証拠は曖昧だ」
エリシアが仲裁に入る。
俺は黙って聞く。
最短なら。
両軍の武器を消す。
削る。
終わる。
遠回りなら。
利権を分ける。
時間がかかる。
代表が怒鳴る。
「遠均は口を出すな!」
俺は初めて口を開く。
「戦争したら、遠均の交易停止」
静まり返る。
商業国家の代表が目を細める。
帝国の代表が冷たく言う。
「脅しか」
「事実だ」
遠均を通らない交易は高コスト。
戦争すれば、遠均は停止。
双方が損をする。
帝国の代表が言う。
「それでも譲れぬ」
最短の誘惑が胸をかすめる。
削れば終わる。
帝国の軍備を一瞬で無力化できる。
星は減る。
でも終わる。
俺は目を閉じる。
《剪定者》
声。
《削れば止まる》
「知ってる」
《多くを救える》
「知ってる」
エリシアの声が遠くに聞こえる。
「分割統治はどうですか」
代表が反発する。
議場は混乱。
最短は簡単だ。
削るだけ。
遠回りは、泥だ。
俺は目を開ける。
「資源地帯を遠均管理にする」
沈黙。
全員が俺を見る。
「共同管理」
帝国代表が鼻で笑う。
「中立に任せると?」
「戦争するよりマシ」
連合代表が低く言う。
「利益配分は」
エリシアが即座に答える。
「両国に均等」
帝国代表が言う。
「遠均は何を得る」
俺は肩をすくめる。
「維持費」
最低限。
利益を独占しない。
代表たちは沈黙する。
戦争すれば大きな利益。
だが大きな損失。
遠回りは、利益を減らすが、損失も減らす。
帝国代表が言う。
「……検討する」
完全合意ではない。
だが軍は動かない。
削っていない。
星は減っていない。
◇
夜。
空は静かだ。
俺は一人で座る。
《剪定者》
声。
《削らなかったな》
「削らない」
《遠回りは摩擦を生む》
「知ってる」
《だが削らぬ限り、世界は薄くならぬ》
俺は空を睨む。
「理解したか」
沈黙。
《観察は続く》
「勝手にしろ」
星が、わずかに強く光る。
消えない。
減らない。
遠均はまだ小さい。
戦争はゼロじゃない。
だが。
大戦は起きていない。
削らない戦争。
それは、戦わずに削らないという意味だ。
遠回りは、泥臭い。
だが。
星は守られている。
俺は空を見上げる。
「……面倒だな」
でも。
まだ笑える。
遠回りは続く。
削らない限り。




