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【最強能力】未来を削れる俺は、世界を救わないことにした ―星が減るたび、未来が消える―  作者: 天城ユウ


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第13話 最短の誘惑

 停戦合意から二週間。


 遠均は拡大を続けていた。


 交易路は整備され、宿舎は石造りに変わり、簡易とはいえ議場までできた。


 七大国の代表が同じ屋根の下で言葉を交わす。


 かつてなら考えられなかった光景だ。


 削っていない。


 星は減っていない。


 だが。


 問題は消えない。


 「南方の停戦が破られました」


 エリシアの声は静かだが、硬い。


 俺は机に突っ伏していた顔を上げる。


 「早いな」


 「兵の一部が命令に従わず、略奪を」


 ハルトが低く言う。


 「兵は食えぬと暴れる」


 遠回りの摩擦だ。


 税率を下げ、兵を減らせば、職を失う。


 その受け皿が足りない。


 俺は目を閉じる。


 最短なら。


 兵を強制的に解散させる。


 武器を消す。


 削る。


 終わる。


 遠回りなら。


 雇用を作る。


 時間がかかる。


 その間に死者が出る。


 エリシアが言う。


 「今回は、子どもが二人」


 言葉が重い。


 削れば、止められた。


 その事実が、胸を刺す。


 ハルトが問う。


 「レイ殿、どうされますか」


 俺は立ち上がる。


 「代表を呼べ」


 ◇


 遠均の議場。


 南方小国家の代表が青ざめている。


 「制御できなかった」


 「できなかったで済むか」


 エリシアの声は冷たい。


 俺は黙っている。


 削るか。


 やめろ。


 「兵を遠均で雇う」


 俺は言う。


 代表が目を見開く。


 「雇う?」


 「街道整備、倉庫建設、警備」


 「それでは国の威信が」


 「威信で腹は膨れない」


 沈黙。


 ハルトが補足する。


 「兵は食えねば暴れる」


 代表は歯を食いしばる。


 「……三割受け入れてほしい」


 「二割」


 「三割だ!」


 エリシアが静かに言う。


 「暴走した兵の責任です」


 代表は崩れ落ちるように頷く。


 遠回り。


 遅い。


 だが削らない。


 ◇


 夜。


 俺は一人で空を見上げる。


 星は減っていない。


 だが心は削れている。


 《剪定者》


 声。


 《苦しんでいるな》


 「うるさい」


 《最短なら救えた》


 「知ってる」


 《なぜ削らぬ》


 俺は空を睨む。


 「削ると、次が来る」


 《何が》


 「もっとでかい反動」


 沈黙。


 《恐れているのか》


 「当然だ」


 俺は正直に言う。


 「全部消えたら、どうなるかわからん」


 星が。


 可能性が。


 世界が。


 《循環は壊れぬ》


 「保証は?」


 沈黙。


 保証はない。


 だから削らない。


 《遠回りは、不完全だ》


 「最短も不完全だ」


 俺は言う。


 「削れば、別のどこかが歪む」


 星が減る。


 世界が薄くなる。


 《それでも多くは救える》


 その言葉は、刃のようだ。


 多くは。


 全部ではない。


 遠回りも、全部ではない。


 俺は息を吐く。


 「俺は神じゃない」


 《違う》


 「だから全部は救えない」


 沈黙。


 長い。


 《では何を守る》


 俺は畑を見る。


 市場を見る。


 エリシアを見る。


 遠均を見る。


 「削らない未来」


 《……》


 「時間がかかっても、自分たちで回る世界」


 《それは理想だ》


 「理想でいい」


 削らない限り、理想は残る。


 星はまだ多い。


 《遠回りは試す》


 「勝手にしろ」


 ◇


 翌朝。


 南方から来た兵たちが、遠均の工事に加わる。


 不満顔だが、働く。


 賃金は少ない。


 だが食える。


 子どもたちが市場で走る。


 昨日より笑い声が増えた。


 削っていない。


 星は減っていない。


 だが。


 俺は知っている。


 最短の誘惑は、常にある。


 大きな戦争が起きれば。


 一瞬で終わらせられる。


 削れば。


 でも削らない。


 エリシアが隣に立つ。


 「迷っていますか」


 「少し」


 「それでも削らない?」


 「削らない」


 エリシアは静かに頷く。


 「なら、私が急ぎます」


 「何を」


 「遠回りを、少しでも早く」


 俺は苦笑する。


 「頼む」


 俺一人では遅い。


 だから分ける。


 責任も、重さも。


 遠回りは、仲間がいるほど早い。


 星が静かに瞬く。


 消えない。


 まだ、減らない。


 最短の誘惑は消えない。


 でも。


 遠回りは、確実に形になっている。


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