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【最強能力】未来を削れる俺は、世界を救わないことにした ―星が減るたび、未来が消える―  作者: 天城ユウ


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第11話 面倒回避区域、正式発足

 世界と“交渉”した翌朝。


 空は、やけに澄んでいた。


 黒い塊もない。


 亀裂もない。


 星も減っていない。


 代わりに——


 畑の端に、人が増えていた。


 亡命民だけではない。


 商人、職人、傭兵崩れ、行き場をなくした家族。


 噂は広がるのが早い。


 「戦争にならない場所がある」


 「最強がいるが、属さない」


 「削らない男がいる」


 ……最後のは誰が言い出した。


 エリシアが地図を広げ、簡易の机に向かっている。


 ハルトは即席の門を立てていた。


 木材の柱に、簡単な旗。


 旗にはまだ紋章がない。


 俺はそれを見て言う。


 「名前、いるのか」


 エリシアが顔を上げる。


 「必要です」


 「面倒回避区域でいいだろ」


 ハルトが吹き出す。


 「さすがにそれは」


 エリシアは真面目な顔で言う。


 「名称は、理念です」


 重いな。


 俺は空を見る。


 星は変わらない。


 削っていない証拠。


 「……中立緩衝区」


 エリシアが考える。


 「硬いですね」


 「交易自治領」


 「商業国家寄りです」


 「戦争延期地」


 「不吉です」


 うるさい。


 俺は麦をいじる。


 「畑でいい」


 エリシアが笑う。


 「国名にしますか」


 冗談だろ。


 ハルトが言う。


 「理念は“削らない均衡”」


 ……それだな。


 エリシアが静かに言う。


 「均衡は壊さない。でも、戦争は減らす」


 俺は肩をすくめる。


 「遠回り均衡」


 エリシアが目を細める。


 「……遠均えんきん


 ハルトが頷く。


 「悪くない」


 遠回りの均衡。


 削らない均衡。


 俺はため息をつく。


 「好きにしろ」


 エリシアは旗に印を書き始めた。


 丸の中に、細い枝が伸びる紋章。


 剪定ではなく、伸ばす枝。


 悪くない。


 ◇


 午後。


 商業国家ミレイアの商人が、荷車を引いて入ってくる。


 続いて、帝国の技術者。


 連合の書記官。


 宗教国家の巡礼者。


 七大国の人間が、同じ場所に立つ。


 武器は持たない。


 持ち込めない。


 ハルトが門の前で宣言する。


 「ここは遠均。戦場にしない」


 俺は横で見ているだけ。


 削らない。


 枠だけ作る。


 商人が俺を見る。


 「本当に戦争にならないのか」


 「なったら困る」


 「なったら?」


 俺は空を指す。


 「延期する」


 商人が苦笑する。


 「それが一番怖い」


 だろうな。


 ◇


 夕方。


 市場ができる。


 簡易の屋台が並ぶ。


 子どもが走る。


 笑い声。


 エリシアが忙しく動き回る。


 王族の顔から、指導者の顔へ。


 ハルトは警備を整える。


 俺は畑で座っている。


 「……増えたな」


 人も。


 面倒も。


 でも。


 削っていない。


 星は減っていない。


 遠回りは、今のところ成功。


 そのとき。


 空の奥で、わずかに揺らぎ。


 俺は目を細める。


 《観察中》


 声。


 感情はない。


 でも敵意もない。


 俺は小さく返す。


 「好きにしろ」


 《循環は変化する》


 「壊さない」


 《削るな》


 「わかってる」


 沈黙。


 声は消える。


 エリシアが隣に座る。


 「また来ましたか」


 「様子見」


 エリシアは空を見る。


 「世界も、様子見なのですね」


 「七大国もな」


 ハルトが近づく。


 「軍勢はほぼ撤退しました」


 「完全じゃないだろ」


 「ええ。遠くで監視しています」


 当然だ。


 俺は立ち上がる。


 「監視されるのは嫌いだ」


 エリシアが笑う。


 「あなたは見られる側です」


 俺は空を見る。


 星。


 まだ多い。


 削らない限り、続く。


 だが。


 遠回りは長い。


 利害は絡む。


 人が増えれば、欲も増える。


 削らずに、どこまで行けるか。


 俺は畑の土を踏む。


 柔らかい。


 まだ守れる。


 《剪定者》


 再び声。


 《遠回りは遅い》


 「知ってる」


 《遅い変化は、摩擦を生む》


 「それも知ってる」


 エリシアが俺を見る。


 「何と話しているのですか」


 「面倒の元」


 ハルトが苦笑する。


 俺は空に向かって言う。


 「摩擦は削らない」


 《削らなければ、壊れる》


 「壊れないようにする」


 沈黙。


 世界は答えない。


 だが拒絶もしない。


 遠均は、正式に動き始めた。


 戦争をゼロにはしない。


 でも。


 削らずに、減らす。


 それが俺の宣言。


 空の星が、静かに瞬く。


 まだ多い。


 だから。


 まだ、続けられる。


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