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ギフテッド ハイスクール ~優等生の私のギフトはバニーガール、、、落ちこぼれから始まる少女の成長譚~  作者: アキラ


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9/13

炎の魔女の休日

夜明け前。

空と海の境界線が、群青色から徐々に茜色へと滲んでいく時間。

人気のない岩場に、カミムラ ジュンは一人で立っていた。

学校で見せる、あのはち切れんばかりの笑顔はない。

サイドテールに結った金髪が、潮風に煽られて揺れる。

その瞳は、凪いだ水面のように静まり返り、それでいて深海の捕食者のような鋭さを秘めていた。

「……潮が、変わった」

独り言は、風にかき消されるほどの小声。

彼女の手には、使い込まれたルアーロッド。

魔法の杖ではない。カーボンとグラスファイバーで作られた、ただの道具だ。

彼女のギフトは『炎熱支配』。

常に溢れ出そうとする熱エネルギーは、彼女の心身を常に興奮状態に置く。

だからこそ、彼女はここに通う。

すべてを燃やし尽くす「火」とは対極にある、冷たく、広く、すべてを飲み込む「海」へ。

シュッ。

鋭いキャスト音。

ルアーが放物線を描き、40メートル沖の潮目に吸い込まれる。

着水音は最小限。

彼女はリールを巻き始める。

いつもの「感覚でドカーン!」という大雑把な魔力操作とは違う。

指先の神経を、数万本の糸のように海中へ伸ばす。

ルアーが受ける水流の抵抗、岩の感触、そして――そこに潜む生命の気配。

(熱くなるな。冷やせ。気配を消せ)

彼女は自分に言い聞かせる。

興奮すれば、無意識に体温が上がり、魔力が漏れる。

そんなことをすれば、敏感な魚たちは一瞬で散ってしまう。

ここでは、彼女は「炎の魔女」であってはいけない。

ただの「釣り人」として、自然と対峙しなければならない。

グンッ。

竿先が、不自然に引き込まれた。

来た。

「……ふっ!」

ジュンは鋭く、短く竿をあおる。フッキング。

その瞬間、ロッドが満月のようにしなった。

ドラグがジジジジッ!と悲鳴を上げる。

重い。そして速い。青物だ。

「やらせない」

彼女の表情が引き締まる。

魔力を使えば、海水を蒸発させて一撃で仕留めることもできるだろう。

だが、それは「釣り」ではない。殺戮だ。

彼女が求めているのは、命と命の、純粋な駆け引き。

糸が切れるか、魚が観念するか。

己の肉体と技術だけで、見えない相手と対話する。

魚が沖へ走る。

ジュンはロッドを寝かせ、耐える。

腕の筋肉が軋む。汗が頬を伝う。

体内の「炎」が、興奮で暴れ出しそうになるのを、精神力でねじ伏せる。

(まだ。まだ早い。……今だ!)

魚が反転した一瞬の隙を見逃さず、リールを巻く。

寄せる。暴れる。また寄せる。

数分間の、濃密な格闘。

やがて、水面に銀色の魚体が割って出た。

ブリだ。70センチはある大物。

彼女は波のタイミングに合わせて、岩場へと抜き上げた。

バタン、バタンと跳ねる魚体。

美しい青緑色の背中と、生命力に満ちた瞳。

ジュンはロッドを置き、魚の前に膝をついた。

ナイフを取り出し、手早く締める。

残酷な作業ではない。命をいただくことへの、彼女なりの礼儀。

「……ありがと。いい勝負だった」

動かなくなった魚に、彼女は短く声をかけた。

その声は、学校で友達と騒ぐ時の甲高い声ではなく、低く、落ち着いた大人の響きだった。

彼女は水平線を見る。

太陽が顔を出し、海面が黄金色に輝き始めていた。

体の中に溜まっていた「熱」が、潮風に冷やされて心地よい。

「さて、と」

クーラーボックスに獲物を収めると、彼女はようやく小さく息を吐いた。

パチン、と頬を叩く。

「よーし! 帰って刺身だー! アオイも呼んじゃおっかな!」

いつもの「底抜けに明るいカミムラ・ジュン」の顔に戻る。

けれど、その瞳の奥には、海と向き合った者だけが持つ、深い静寂が残されていた。

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