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ギフテッド ハイスクール ~優等生の私のギフトはバニーガール、、、落ちこぼれから始まる少女の成長譚~  作者: アキラ


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6/13

力み

放課後。

私は意を決して、旧校舎の裏にある道場へと足を運んだ。

最新鋭の設備が整う本校舎とは対照的に、そこは時が止まったような木造平屋建てだ。

タイラ先生は、職員室にはいない。

「用があるなら道場に来い。気が向けばいる」と言っていたのを頼りに来たのだ。

ガララ……と乾いた音を立てて引き戸を開ける。

夕日が差し込む板張りの床。

その中央に、先生は立っていた。

ただ、立っていた。

木刀をダラリと下げ、棒立ちのように見える。

けれど、その姿は奇妙だった。

床板の継ぎ目に溶け込んでいるというか、そこにあるのに「質量」を感じない。

「……失礼します」

「ん、来たか」

先生は振り返りもせず、私の気配だけで答えた。

「顔に書いてあるぞ、『私のふざけたギフトをどう扱えばいいか分かりません』と」

「……全部分かっているんですね」

私は悔しさを噛み殺しながら、靴を脱いで道場に上がった。

先生はゆっくりと向き直る。その動作も、コマ送りが抜けたように滑らかで、目で追うと少し気持ち悪い。

「先生は言いました。『認めろ』と。でも、認められません」

私は一歩踏み出し、自分の掌を見つめた。

「私のギフトは『強運』です。バニーガールの姿になることで、確率に干渉する。……それだけです。

身体能力が上がるわけでも、魔法が撃てるわけでもない。

ただの運任せです。そんな不確定なものを、どうやって戦力にすればいいんですか?

私は……確実な強さが欲しいんです」

ジムで体を鍛えているのも、勉強をしているのも、すべては「運」という不確定要素を排除するためだ。

それなのに、先生は「認めろ」と言う。それは私に、サイコロの出目に命を懸けろと言うのと同じだ。

先生は、ほう、と息を吐いた。

「確実な強さ、か。……なら、試してみるか?」

先生は足元に転がっていたもう一本の木刀を、爪先でひょいと跳ね上げた。

木刀は空中で回転し、私の手の中に収まる。

「打ってこい」

「え?」

「お前がジムで鍛えた筋肉と、計算し尽くした身体操作で、俺を叩いてみろ」

先生は構えもしない。

完全に無防備だ。

「……怪我をしても知りませんよ」

私はカチンときた。

私は座学トップだ。剣道の授業だってA評価を取っている。

相手が武器を持っていないなら、当てて止める(寸止め)くらいは造作もない。

私は床を蹴った。

最短距離、最高速度の踏み込み。

教科書通りの鋭い面打ち。

間違いなく、先生の額を捉える軌道――

「――ッ!?」

カッ、と乾いた音がした。

私の木刀は空を切り、床を叩いていた。

先生は、いない。

「遅い」

声は、私の真後ろからした。

振り返ると、先生はあくびを噛み殺している。

「な……!」

もう一度。今度は横薙ぎ。

当たらない。

突き。

当たらない。

当たると思った瞬間、先生の体が蜃気楼のように揺らぎ、刃筋から消えている。

避けているのではない。「そこにいない」のだ。

「はぁ、はぁ……っ! なんで……!」

息が上がる。

先生は一歩も動いていないように見えるのに、私の攻撃はすべてすり抜けていく。

「お前は、『当てよう』としすぎだ」

先生の声が、静かに響いた。

「床を蹴り、筋肉を固め、『今から打ちますよ』と看板を掲げて突っ込んでくる。

だから、未来が見えているかのように読みやすい」

「じゃあ、どうすれば……!」

「捨てろ」

先生は私の手から木刀を取り上げ、ふらりと立った。

「筋肉も、思考も、意図も。すべて捨てて、ただ落ちるように動くんだ」

先生が動いた。

予備動作がない。

私の目が「動いた」と認識した瞬間には、もう先生の木刀の切っ先が、私の喉元にピタリと止まっていた。

殺気さえなかった。

風が吹くように自然で、だからこそ回避不可能な一撃。

「これが『居着かない』ということだ」

先生は木刀を下げた。

「お前は運を嫌っているがな、東雲。

『運』ってのは、隙間に宿るもんだ」

「隙間……?」

「ガチガチに固まった器には、新しい水は入らん。

お前が『自分でなんとかしよう』と力めば力むほど、世界(運)はお前に味方できない」

先生は私の肩を、トンと指先でつついた。

それだけで、私の膝がカクンと折れそうになる。

「力を抜け。体を液体にしろ。

『私がやる』という自我を薄めれば薄めるほど、お前のギフト――『強運』は、その空白に入り込んでくる」

「自我を……薄める」

「そうだ。それが古流武術の極意であり、お前がそのふざけたギフトと付き合うための唯一の道だ」

「今日から放課後はここに来い。

「……武術を、教えてくれるんですか?」

「武術じゃない。『在り方』だ。

運を呼び込むための、器の作り方だ」

私は、ジンジンと痺れる手を見つめた。

確実な強さを求めていた私に示されたのは、「力を捨てる」という逆説的な道。

けれど、先生のあの「消える動き」を見た後では、それがデタラメだとは言えなかった。

私のバニーガールの能力は、きっと、私が考えているよりもずっと奥が深いものなのかもしれない。

「……よろしくお願いします、師匠せんせい

私は初めて、心からの敬意を込めて頭を下げた。

夕日の差し込む道場で、奇妙な師弟関係が始まった。

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