部活動
5月の放課後は、学園全体がお祭り騒ぎになる。
部活動勧誘期間。
新入生の才能を取り込もうと、上級生たちが必死になる季節だ。
「空を飛びたい奴は『航空魔導部』へ! 自力飛行のノウハウ教えるぞ!」
「『ゴーレム研究会』! パワー自慢集まれ! 資材運搬のバイト斡旋あり!」
「『錬金術同好会』、ポーション飲み放題だぞー!」
中庭では、魔法が花火のように飛び交っている。
私はその喧騒の中を、少し身を縮めて歩いていた。
(……私が入れる部活なんて、あるわけない)
私のギフトは『バニーガール』。
運動系に入れば「ふざけてるのか」と怒られ、文化系に入れば「露出狂」と通報されるのがオチだ。
キラキラした勧誘の声が、今の私には皮肉にしか聞こえない。
私は逃げるように人混みを抜け、いつもの旧校舎へと急いだ。
◇
「……98、99、100!」
静寂に包まれた道場。
私は素振りの回数を数え終え、大きく息を吐いた。
汗が滴る。
今の格好は、例によって「バニーガール+ジャージ」という不審者スタイルだ。
ジャージのジッパーを少し下ろしているおかげで、以前よりは「運」の通りが良い気がする。
「ふあぁ……。終わったか?」
道場の隅で、タイラ先生が昼寝から目覚めたように身を起こした。
今日も気配が希薄だ。そこにいるのに、風景の一部になっている。
「終わりました。……あの、先生」
「ん?」
私はタオルで汗を拭きながら、気になっていたことを聞いた。
外の勧誘合戦の音が、ここまで微かに聞こえてくるからだ。
「先生は、顧問とかやらないんですか? 何か部活を持ってるとか」
先生ほどの達人なら、剣道部や魔導戦闘部から引く手数多のはずだ。
けれど、先生がどこかの部活を指導しているという話は聞いたことがない。
「いや」
先生は即答し、あくびをした。
「俺のやってるこれは、部活向きじゃない」
「どういうことですか?」
「『消える動き』だの『思考を捨てる』だの、現代の魔法戦闘セオリーとは真逆だろ。
これは特殊な、遠い昔の武術だ。
合理性よりも感覚、出力よりも脱力を重んじる。
……今の時代、こんな地味で難解なもんをやりたがる物好きは、ほとんどいない」
先生は自嘲するように笑い、木刀を天井に向けた。
「時代遅れの遺物だよ。俺の代で終わりでもいいと思ってる」
その言葉を聞いて、私はムッとした。
時代遅れ? 物好きがいない?
じゃあ、毎日こうして必死に汗を流している私は何だというのだ。
「……ここに、いますけど」
私は、先生の足元を指差した。
「物好き」
「……あ?」
「私がやってます。先生のその、変な武術」
先生が目を丸くした。
いつもの眠たげな目が、少しだけ開かれる。
「……そういえば、そうだったな」
先生は頭をポリポリとかき、道場の棚からクシャクシャになった紙を取り出した。
埃を被ったその紙には、『部活動設立届』と書かれている。
「学校側からどこか顧問をやれとか言われてうるさかったんだ。
東雲、お前、まだどこにも入ってないんだろ?」
「ええ、まあ……」
「なら、ちょうどいい。名前書け」
ペラッ、と紙が私の前に投げられる。
顧問の欄には、すでに『平』と雑なサインがあった。
部活名の欄は空白だ。
「部活名、どうします?」
「んー……『剣術部』でいいだろ。シンプルで」
「地味ですね」
「地味でいいんだよ。目立つと疲れる」
私は呆れながらも、ペンを取り出した。
部員名簿の欄。
一番上の行に、私の名前を書き込む。
『東雲 葵』
たった一行。
部員数一名。
「これで成立だ。今日からお前が部長で、ヒラ部員だ」
「……私一人だけの部活ですか」
普通なら寂しいと思うかもしれない。
けれど、なぜだろう。
あの喧騒の中で感じた「居場所のなさ」が、嘘のように消えていた。
時代遅れの武術と、時代錯誤なバニーガール。
世間からズレた者同士が集まるこの場所は、私にとって妙に居心地が良かった。
「よろしくお願いします、先生」
「おう。とりあえず部長の初仕事として、道場の雑巾掛けやっとけ」
「……入部初日からブラックですね」
私は文句を言いながらも、口元が緩むのを止められなかった。
夕日が差し込む道場。
ここが、私の、私による、私のための「剣術部」になった。
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