私の世界
世界はあまりにも残酷で、そしてシンプルだ。
「何ができるか」が、その人間の価値のすべてを決める。
魔法技術が体系化された近未来。人々は生まれ持った魔力を触媒に、《ギフト》と呼ばれる才能を開花させる。
火を操るギフトがあればエネルギー産業へ、水を浄化するギフトがあればインフラ管理へ。
15歳。義務教育の終了と共に、私たちは自身のギフトを申告し、それに見合った進路を選択しなければならない。
「東雲さん、進路調査票、まだ白紙だぞ」
担任の無機質な声が、放課後の教室に響いた。
私は顔を上げ、教卓に立つ教師を真っ直ぐに見つめ返す。
「申し訳ありません。まだ、迷っていて」
「迷うも何も、君は座学の成績は学年トップだ。魔力制御の基礎値も高い。……ただ、肝心の『発現系』が決まらないことには、推薦も書きようがないんだよ」
教師の呆れたような視線が、私の胸を鋭く刺す。
クラスメイトたちの「またか」という空気。
優等生である東雲葵。黒髪ロングの清楚な容姿、常に学年一位の座学成績。
けれど、実技だけは常に「測定不能」。
それが、今の私の評価だ。
「……明日までには、必ず」
私は小さく頭を下げ、逃げるように教室を後にした。
廊下を歩きながら、悔しさで唇を噛む。
私には「成長欲求」がある。誰よりも社会の役に立ちたい。自分の能力を最大限に発揮して、周りの人を豊かにしたいという明確なビジョンもある。そのために人の倍、勉強もしてきた。魔力理論だって完璧に頭に入っている。
けれど、世界はそれを評価しない。
求められるのは「具体的な結果」だけ。
(言えるわけがない……私のギフトが、あんな……)
校舎裏の、人目のつかない旧体育館の裏手。
そこが私の、唯一の息抜きの場所であり、地獄の実験場だった。
誰にも見られていないことを確認し、私は大きく深呼吸をする。
「……やるしかない。今日こそ、何か違う変化が起きるかもしれない」
私は目を閉じ、丹田に魔力を練り上げる。
イメージするのは「戦闘用装備」。強固な鎧、あるいは鋭利な武器。
社会に貢献できる、強く、美しい力。
「っ……、展開!」
カッと熱い光が私の体を包み込む。
制服の繊維が魔力に分解され、再構築される感覚。
光が収束し、私の体には「それ」が纏わされていた。
艶やかなエナメル質の黒いレオタード。
網目の荒いフィッシュネットタイツ。
頭上には、ふざけたようにピンと立った長い耳。
そして、お尻には丸い尻尾。
「……なんで、これなのよッ!!」
誰もいない路地裏で、私は絶叫した。
鏡を見なくてもわかる。今の私は、どこからどう見ても**「バニーガール」**だ。
これが私のギフト。
魔力で衣装を生成する能力……らしいのだが、何度やっても、どんなに高尚なイメージを念じても、出力されるのは決まってこの「扇情的な衣装」なのだ。
しかも、最悪なのはここからだ。
このギフトは魔力消費が激しい。そして、魔力が切れるか、あるいは自身の意志でギフトを解除すると――
「あ……」
プツン、と魔力の供給が途切れる音がした。
次の瞬間、バニーガールの衣装は光の粒子となって霧散する。
後に残されたのは、衣服を失い、一糸纏わぬ姿で立ち尽くす私だけ。
制服ごと再構築してしまったため、解除されれば当然、全裸になる。
「……ううっ」
私は慌てて、あらかじめ用意しておいた予備のジャージを鞄から引っ張り出し、震える体で袖を通した。
情けない。恥ずかしい。
こんな能力、履歴書に書けるわけがない。
『特技:一瞬でバニーガールになれます(その後、裸になります)』
そんなものを書けば、社会的な死だ。私は冷遇される「無能」の烙印を押される方がまだマシだと思っていた。
けれど、本当は分かっている。
このバニーガールの姿になった時だけ、体の奥底から湧き上がる「異常な身体能力」の胎動を。
まるで別の生物になったかのような、爆発的なエネルギー。
私がまだ理解していないだけで、このふざけた格好には、何か意味があるのかもしれない。
(でも、認められない。こんなの、私の理想とする「社会貢献」じゃない……!)
15歳の冬。
私のプライドと、あまりにふしだらな才能との戦いは、まだ始まったばかりだった。
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