第9話:深夜のミッションと、稲妻の報酬
「先輩……本当にここまでやるんですか?」
僕はハシゴを支えながら、ひそひそ声で尋ねた。窓の向こうは、鍵のかかったスポーツ部の部室だ。そこにフェース先輩が登っていく。
「当然よ。あいつが盗撮なんて真似をしたんだから、こっちはあいつが県代表選抜で不正をした『証拠』をいただくまでよ」
フェース先輩は自信に満ちた声で答え、しなやかな動きで部室の中へと侵入した。
僕も急いで後を追った。部室の中は静まり返り、外灯のわずかな光だけが差し込む薄暗い空間だった。
「サン君……ここよ。この部活の金庫、開けられる?」
フェース先輩が大きな鉄製の金庫を指さした。「君が機械科で習ってる技術なら、これくらい朝飯前でしょ?」
僕は冷や汗をかきながらも、持参した工具を取り出した。「……やってみます」
実習で学んだ解錠の技術に全神経を集中させる。見つかる恐怖よりも、すぐ隣で身を乗り出している先輩の吐息と、彼女から漂うかすかな香りが僕の集中力をかき乱した。
カチッ!
「開きました!」僕は歓喜して声を上げた。
フェース先輩はすぐに中の書類をあさり、そしてついに見つけ出した……。ケン先輩が隠していた裏帳簿と、禁止薬物使用の報告書だ。
「いいものが手に入ったわ。これで、もうあいつは私たちに手出しできない」フェース先輩は勝利の笑みを浮かべた。
しかし、逃げ出そうとしたその時、廊下から警備員の足音が近づいてきた!
「まずい、誰か来る!」
僕は咄嗟に先輩の手を引き、大きな事務机の下へと潜り込んだ。
狭い空間で、僕たちは密着するしかなかった。先輩の顔が数センチ先にある。自分の心臓の音が、まるで軍鼓のように激しく鳴り響いているのがわかった。
暗闇の中、先輩は怯えるどころか、今までになく深い眼差しで僕を見つめていた。
「サン君……私のために、ここまで危険を冒してくれてありがとう」
彼女は微かに震える声で、ささやくように言った。
僕が返事をする間もなく、先輩はさらに顔を近づけ、僕の頬にそっと唇を寄せた。それはまるで、高圧電流が全身を駆け抜けたかのような衝撃だった。
「これは今夜の勇気への『ご褒美』。……関係の名前については、明日ゆっくり話しましょうか」
彼女は暗闇で悪戯っぽくウインクした。足音が遠ざかる中、僕は机の下で、ショックと高揚感に包まれたまま立ち尽くしていた。




