第8話:放課後の処罰と、裏切りに隠された真実
ポワチョー校の火曜日は、いつも以上に僕にとって重苦しい朝だった。金髪の親友「コウ」が、しつこくキーホルダーのことを聞き出そうと追い回してくるのを必死にかわしていた。だが、それ以上に恐ろしかったのは、廊下ですれ違うフェース先輩の視線だ。微笑んではいるが、その瞳の奥には何か計り知れない策略が潜んでいる……そんな目だった。
「サン! 放課後、4階の電気実習室に行けよ。フェース先輩から『至急の手伝い』があるってさ」
コウが不思議そうな顔で、僕に言伝を届けに来た。
嫌な予感しかしない。先輩の言う「至急」は、いつも僕の心臓を止まりそうにさせる。
【放課後:電気実習室】
静まり返った実習室。換気扇の低い回転音だけが響く中、僕はドアを押し開けた。フェース先輩は作業台の上に腰掛け、長い足を機嫌よさそうに揺らしている。手の中にはニッパーがあり、それで遊びながら僕を待っていた。
「遅かったね……私のヒーロー君」
彼女は僕を見ようともせずに言った。「昨夜、私……ちっとも眠れなかったんだ。誰かさんの『元カノ』のことが気になっちゃってね」
僕は直立不動で答えた。「先輩……リンのことは、本当に過去のことなんです」
「過去、ねぇ?」
彼女は台から飛び降り、ゆっくりと歩み寄ってきた。僕の背中が備品棚に当たるまで追い詰める。「でも、その過去は簡単には終わってくれないみたいだよ。……だって今、彼女が校門の前で君を待っていたんだから」
絶句した。「リンが、ここに来たんですか?」
「そう。だから私、ここできちんと話し合おうって『招待』したの」
フェース先輩はいたずらっぽく笑い、部屋の隅の暗がりを指さした。
影からリンが姿を現した。昨夜のような強気な態度は消え、その顔には深い罪悪感が浮かんでいた。
「サン……ごめんなさい。こんな大ごとにするつもりじゃなかったの」
リンは拳を握りしめ、消え入りそうな声で言った。
「リン……一体どういうことなんだ? それにこの封筒は……」
混乱する僕に、リンは深く息を吸って語り始めた。
「実はね……。サンと別れた後も、私、ずっとサンのことが気になってて。そんな時、ケン先輩に声をかけられたの。私がサンを見ているのに気づいたみたいで……『二人をヨリ戻させてやる』って持ちかけられたわ」
「ケン先輩が……?」僕は耳を疑った。
「そうよ……。彼にも好きな人がいて、それがフェース先輩だって。サンを排除すれば、自分はフェース先輩を手に入れられるし、私はサンを取り戻せる。だから、二人がどこで密会しているか探ってほしいって言われて……この写真を撮る手伝いをしたの」
聞いていたフェース先輩の目が、鋭く細められた。「なるほどね。ケンは女の子の純粋な好意を道具にしたわけか」
「でも、ケン先輩の本当の狙いが分かったの。彼は私を助けるんじゃなくて、この写真を使ってサンとフェース先輩の未来を潰そうとしてる。振られた腹いせにね」リンの声が震える。「それは許せなかった……。だから、部活中に彼のロッカーからこの写真を盗み出して、サンに届けに来たのよ」
フェース先輩はリンに近づき、封筒を受け取って中身を確認した。図書室で額を合わせていた時の写真や、下校中の二人の姿が何枚も入っていた。
「ケン……本当にしつこい男ね」先輩は呟くと、リンを穏やかな目で見つめた。「ありがとう、リンさん。最後に正しい選択をしてくれて」
リンは名残惜しそうに、最後にもう一度僕を見つめた。「サン……フェース先輩といる時のサンが、どれだけ幸せそうか分かったわ。もう邪魔はしない。……元気でね」
リンが去った後、再び沈黙が訪れた。フェース先輩は手元にある写真を、僕の目の前でライターで焼き払った。
「サン君……ケンがここまで卑怯な手を使うなら、もう容赦はしないよ」
彼女は、背筋が凍るような冷ややかな笑みを浮かべた。
「今夜……準備しておいてね。あのスポーツ部長に、きっちり落とし前をつけさせてあげるから」
彼女の挑戦的な笑みに、僕はこの秘密が学校中を巻き込む戦争になることを悟った。今夜、静かなポワチョー校で何かが起きようとしていた。




