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第5話:猫カフェと雨、そして軒下の告白

図書室の影を追いかけ、僕は裏口から飛び出した。誰かがフェース先輩との関係を言いふらせば、彼女の将来が台無しになる。その恐怖が僕を突き動かした。スポーツ棟へと向かう人影。その背中に見覚えがあった。

「ケン先輩!」

僕の声に、彼は足を止めた。振り返った彼の顔には、いつもの爽やかな笑顔はなく、凍りつくような冷笑が浮かんでいた。彼の手には、録画中のスマホが握られていた。

「なんだ、サン君か。今のビデオ、なかなかいい角度で撮れたよ。優等生のフェースが、裏で後輩と何をしてるか丸わかりだ」

「消してください!先輩の勘違いです!」

「勘違い? 額を合わせて、お揃いのキーホルダーまで持って……。この動画が教師の手に渡ったら、彼女の奨学金の話はどうなるだろうね? 彼女の夢が壊れるのを見たいか?」

ケン先輩の言葉は、鋭いナイフのように僕の胸に刺さった。

「目的は何ですか……?」

「フェースから離れろ。君のような未熟な奴が彼女の隣にいるのは不釣り合いだ。彼女を守りたいなら、今すぐ消えろ」

ケン先輩の脅しに、周囲の空気が凍りついたようだった。彼の手にあるスマートフォンは、僕の愛する人の未来を壊す凶器だ。

「今すぐ手を引け。そうすれば、この動画はなかったことにしてやる」

僕は手の中の**『S』**のキーホルダーを見つめた。フェース先輩の指先の温もりがまだ残っている気がした。『私を守れる大人になって』という彼女の言葉が頭の中で響く。

「……退きません」僕は顔を上げ、彼を真っ直ぐに見据えた。「もし先輩が本当に彼女を想っているなら、こんな汚いやり方で彼女の未来を壊したりしないはずだ。フェース先輩は、誰かを脅して手に入れる『景品』じゃない!」

「生意気なんだよ、サン!なら、あいつが破滅するのを特等席で見ていろ!」

彼が動画を送信しようとした瞬間、僕は無我夢中で彼の腕を掴んだ。毎日実習で機械を扱っている僕の力は、一瞬だけ彼を封じ込めた。

「僕はまだ未熟な1年生かもしれない。でも、彼女を傷つける奴だけは絶対に許さない!」

その時、背後から足音が響いた。

「そこまでよ、二人とも!」

振り返ると、そこにはフェース先輩が立っていた。その瞳は怒りと落胆に震えている。彼女はケン先輩からスマホをひったくると、迷わず動画を削除した。

「最低よ、ケン先輩。後輩を脅して、私を道具にするなんて。……消えて。これ以上私に近づいたら、生徒会とコーチに全て報告するわ!」

ケン先輩は屈辱に顔をゆがめ、逃げるように去っていった。静まり返った場所で、フェース先輩は深くため息をついた。

「先輩……すみません。僕、もっとうまくやれたはずなのに」

僕は彼女に近づいたが、触れることはできなかった。彼女は振り返ると、ふっと力を抜いて笑った。

「ううん、サン君。最高にカッコよかったよ。想像以上だった。……本当はね、まとめのプリントを渡しに追いかけてきたんだけど、まさかヒーローの活躍が見れるなんてね」

彼女は一歩、僕に近づいた。

「ケン先輩は当分、私たちに手出しできないはず。……でも、これで私たちの秘密は、秘密じゃなくなっちゃったかもね」と僕が不安そうに言うと、彼女はいたずらっぽく指を唇に当てた。

「誰がそんなこと決めたの?」

彼女は僕を壁際に追い込み、至近距離で囁く。

「動画には『指導する先輩』しか映ってないし、お揃いのキーホルダーなんて、よくあることじゃない? 二人が黙っていれば、それはずっと秘密のまま。……そうでしょ?」

彼女の手が僕の頬をそっと撫でる。その感触に、僕の心はどんな告白よりも高鳴った。

「サン君……今日の『守護実習』は合格。……でも、私たちの関係に名前をつけるのは、まだお預けかな。その方がドキドキするでしょ?」

彼女は僕の胸にプリントを押し付けると、鼻歌を歌いながら去っていった。僕はまた一人残された。まだ「彼氏」という明確な名前はない。けれど、今の僕たちにとっては、その「秘密」こそが何よりも特別な絆だった。

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