第3年生編 第27話:静かなる拳(空手の理由)
[08:00 ― 技術専門学校の駐車場]
サンは愛車のバイクを停め、ヘルメットを脱いだ。メガネのない精悍な顔立ちは、以前よりもさらに落ち着きを増している。校舎へ向かおうとしたその時、他校の制服を着た十数人の不良たちが彼を取り囲んだ。
「お前が……あの『サン部長』か?」首に刺青のあるリーダーが、バットを弄りながら凄む。「お前の腕を一本叩き折れって依頼があってな。二度と整備ができねえ体にしてやるよ!」
サンは怯むことなく、深くため息をついた。「1限の授業があるんだ……。どいてくれ」
「抜かしやがれ!」リーダーがバットをフルスイングする!
(シュッ!)
サンは紙一重でかわすと、手刀を相手の手首に叩き込みバットを落とした。間髪入れず、鋭く正確な**「回し蹴り」**が脇腹を捉え、相手は地面に転がった。
「……空手か! 野郎ども、全員で掛かれ!」
サンは構えをとる。その瞳はエンジンのセッティングを変える時のように、静寂かつ冷徹だった。
[回想 ― 幼少期の記憶]
サンが強い理由。それは格闘家を目指したからではなく、元工場のエンジニアであり、空手黒帯でもあった**「父親」の教えだった。
父は幼いサンにこう説いた。
『サン……人間の体はエンジンと同じだ。感情を制御できなければ、力は分散する。空手は倒すためではなく、自らを制御するために学べ。自分を操れる者は、他者より一歩先を行く』
サンは7歳から「極真空手」**を学び、黒帯を授かっていた。だが、不必要な争いを避けるため、地味なメガネ姿でその牙を隠し続けていたのだ。
[10:00 ― 教室前]
「サン! 駐車場で暴走族を全滅させたってマジかよ!」ゴンが興奮して駆け寄る。
「ただのゴミ拾いだよ、ゴン」サンは淡々と答えた。
だがその時、重々しい足音が響く。銀髪で狂気を孕んだ瞳を持つ大柄な男、レンが、サンの写真が載った掲示物にナイフを突き立てた。
「久しぶりだな……『同門』の舎弟よ」
[10:30 ― 部室前の廊下]
レンの放つ殺気に、周囲の生徒たちは避けるように道を空ける。ラダーが険しい表情で彼に近づいた。
「やりすぎよ、レン。目立ちすぎてるわ」
「いいじゃねえか……本物の『王』が帰ってきたことを教えてやるんだ」レンは喉を鳴らして笑った。彼はかつて暴力沙汰で破門された兄弟子だった。「サンは、エンジニアとしても空手家としても、ぬくぬくと座りすぎた。あいつからすべてを奪ってやるよ」
[機械部・部室]
予算書類を確認していたサンの手が止まった。ゴンの報告を聞き、その静かな瞳がわずかに揺れる。「……レンか」
サンは作業着を脱ぎ、黒のTシャツ姿になった。鍛え上げられた肉体が露わになる。彼は数百人の視線を浴びながら中庭へと向かった。
[対峙]
「久しぶりだな……メガネを外して、随分と色男になったじゃねえか」レンがナイフを放り投げた。
「何の用だ、レン」
「ドイツから聞いたぜ。お前が『永劫の歯車』の継承者候補だってな。工学も、空手も……。俺は認めねえ!」
レンが猛烈なスピードで踏み込み、サンの顔面に拳を叩き込む!
ドゴォッ!!
サンは腕一本でその拳を完璧に受け止めた。「門派の技は創るためのものだ、壊すためじゃない。……それが分からない限り、お前に勝機はない」
「なら、これならどうだ!」レンの蹴りを、サンは「下段払い」で冷静に捌く。
「やめろ、レン。ここは学校だ。……放課後、道場に来い」
「ふん……いいだろう。だが負けたらドイツの奨学金も、あのフェースって女も諦めてもらうぜ!」
[22:00 ― 夜の自室]
サンはベッドに座り、腕のあざを見つめていた。そこへフェースからのビデオ通話が入る。
Face: 「サンくん……。レンのこと、聞いたわ。心配よ……」
Sun: 「大丈夫です、先輩。決着をつけなきゃいけないだけです」
Face: 「レンはアキラよりもずっと危険よ。頭も力も使う男だから……約束して、無茶はしないで」
Sun: 「はい。必ず乗り越えます。先輩の元へ行くために」
サンは通話を切り、父の言葉を反芻する。『第三のリズムは、歯車のためだけにあるのではない』。
彼の瞳が開く。そこには静かなる怒りと、すべてを終わらせる「捕食者」の意志が宿っていた。




