第3年生編 第26話:歪んだ歯車
[19:00 ― 灯りの消えた実習室]
サンはわずかな手元の明かりだけで作業を続けていた。ゴンが指示通りに液体窒素のタンクを持って現れるが、サンが単なる修理以上の「何か」を組み込んでいるのを見て、驚きを隠せない。
「サン……。それ、電子科の自動遮断システムじゃないか? 何に使うんだよ?」
サンは口角を上げ、鋭い眼光を放った。「ゴン……。ラダーはただのドジじゃない。彼女はわざと腐食剤を塗り込み、高熱でエンジンを自壊させようとした。だが、これほどのサボタージュは、ラダー一人の独断じゃ不可能だ」
サンはエンジンの底から密かに取り出した小さなチップをゴンに見せた。「これは『クロスシステム・コントローラー』だ。明日、エンジンが始動すれば、こいつが燃料バルブを暴走させて焼き付かせる手はずだったんだろう。僕に大恥をかかせるためにね」
「なんて野郎だ……。で、どうするんだ?」
「書き換えたのさ」サンの瞳が輝く。「遮断する代わりに、新設した液体窒素の冷却系にリンクさせた。明日、ラダーが遠隔操作で『破壊ボタン』を押した瞬間……。それは僕のエンジンを通常の2倍加速させる『スーパー・クーラント』のスイッチに切り替わる!」
[翌朝 ― 審査員視察の日]
校内には緊張感が漂っていた。ドイツからの奨学金審査員たちが実習室へ入ってくる。ラダーは理事長の隣で余裕の笑みを浮かべ、作業着のポケットの中に隠した小型リモコンを握りしめていた。
「テストを開始してください、サン部長」年配の審査員が促す。
完璧に着こなした作業着姿のサンが、エンジンの前に立つ。ラダーの方など一瞥もくれない。
「始動します」
エンジンは静寂を保ったまま回転を始めた。針が徐々に 10,000 RPM へと上がっていく。ラダーは好機と見て、ポケットの中で密かにスイッチを入れた。
(ピッ!)
その瞬間、爆発や黒煙が上がる代わりに、排気ダクトから真っ白な冷気が一気に吹き出した! エンジンの音は重低音から、かつてないほど力強く澄んだ高周波へと変貌する。
「ヴィィィィィィィィィッ!!」
回転計の針は瞬く間に 25,000 RPM を突き抜けた!
審査員たちが驚愕して立ち上がる。「何だと!? この超高回転で振動が全くない……。航空機に使われる極低温冷却技術か! 君が一人でこれを?」
サンは顔を青ざめさせて立ち尽くすラダーを、冷ややかに見据えた。「いえ……。『親切な後輩』が、予定より早くシステムをブーストしてくれたおかげですよ。彼女には感謝しています」
ラダーはショックのあまり、リモコンを床に落とした。彼を破滅させるはずのボタンが、皮肉にもサンの天才性を証明する舞台装置になってしまったのだ。
[視察終了後]
審査員たちが承認書類にサインする中、サンはラダーに近づき、冷徹な声で耳元に囁いた。「ありがとな、ラダー。……だが、身の程知らずな真似はやめておけ。お前のギヤは、僕のとは『層』が違う」
サンは震えるラダーを置き去りにして、その場を去った。
[校舎裏の暗がり]
ラダーは震える声で謎の男に電話をかける。「……失敗しました。彼に……裏をかかれたんです」
「ふん……。流石はサンだな」受話器越しの男は冷酷に笑った。「だが、これは序の口だ。エンジンを壊せないなら、奴の『周り』を壊してやればいい。準備しろ。次の学期……。俺が直接乗り込んでやる」
サンは屋上から空を見上げ、フェースにメッセージを送った。
Sun: 「第一の課題、クリアです。ネズミの罠は逆手に取りました」




