第2年生編・最終話:約束の旋律(ギア・オブ・ユニオン)
[10:00 ― 全国大会会場]
会場は地鳴りのような歓声に包まれていた。全国から集まったメディアと技術者たちの視線が、馬力と安定性を競うテストコースに注がれる。表彰台の上には、二つのエンジンが鎮座していた。
左側: 「プロジェクトX」 威圧感を放つ漆黒のエンジン。
右側: 「ギア・オブ・ユニオン」 サンとフェースが共に作り上げ、小さな太陽の紋章が刻まれたエンジン。
[スタンバイエリア]
エンジンの前に立つサン。今日の彼はメガネを外している。ゴンの勧めで少しセットされた髪が、彼を「冷静沈着な天才」に見せ、会場中の女子たちが思わず見惚れていた。
「準備はいい、サンくん?」
フェースが最終チェックに現れる。白いチームウェアに身を包んだ彼女は、凛としていて美しかった。
「はい、先輩……。僕の心臓とこのエンジンは、今、同じリズムを刻んでいます」
サンは彼女の目を見つめて答えた。
[競技開始]
「エンジンテスト開始! 10,000……15,000……そして 18,000 RPM!」 アナウンスが響き渡る。
アキラのエンジンが魔物のように咆哮を上げた。特殊燃料の力で回転計の針が急速に跳ね上がる。対するサンのエンジンは、不気味なほどに静かに回っていた。
「ふん! 静かすぎれば無意味だ。パワーが伴わなければな!」
アキラが燃料ブーストボタンを叩く。「行け、プロジェクトX! 叩き潰せ!」
アキラのエンジンルームで爆発的な音が響き、黒い機体が火花を散らしながら震える。針は 19,500 RPM を指した。人間の制御を超えた領域だ。
[危急の瞬間]
過激すぎる燃料の影響で、「ギア・オブ・ユニオン」が異音を上げ始める。合金製のギヤに小さな亀裂が走り出した。
「サン! 回転が上がりすぎだ! 金属が持たねえぞ!」 ゴンがピットから叫ぶ。
サンは目を閉じた。計器を見るのではない。熱を帯びた機体にそっと手を添える。
(音を聴け……内に隠れたリズムを……)
サンの脳裏に、**「S & F」**の名が刻まれたギヤが回る光景が浮かぶ。おじさんから授かった「ナノインジェクター」を使い、燃料供給を「心臓の鼓動」のリズムへと同調させ、一瞬で熱を逃がした。
「僕と一緒に回ってください……フェース先輩!」
サンが目を見開く。その瞳は、極限の集中状態で黄金色に輝いているように見えた。
[決着]
ヴィィィィィン! サンのエンジンの音が、咆哮から透き通った音楽へと変わった。針はなめらかに 20,000 RPM の大台を突破する!
耐えきれなくなったアキラのエンジンは…… ボゴォッ! 黒いギヤが粉々に砕け散った。黒煙を上げ、沈黙する。
「勝者……技術専門学校、サン!」
[競技終了後]
アキラは己の鉄屑を見つめ、膝をついた。「馬鹿な……なぜ俺が負けた……」
サンは彼に近づき、短く告げた。「あなたは壊すためにエンジンを使った。でも僕は、大切な人と繋がるためにこれを作った。それが差です」
フェースが数多のカメラの前でサンに抱きついた。「サンくん! やったね! これで……一緒に行けるわね!」
サンは満面の笑みを浮かべた。逆光に照らされたその素顔は、まるでエンジニアの貴公子のようだった。「はい……どこへだって、先輩と一緒に行きます」
[18:00 ― 表彰式後のリバーサイド公園]
夕日がサンの首にかけられた金メダルを照らしていた。二人の思い出のベンチ。サンは太陽のキーホルダーを固く握りしめている。
「サンくん……お父さんが、奨学金の件はもう大丈夫だって」
白いワンピースに着替えたフェースが隣に座る。「でも……私、来週には準備のためにドイツへ行かなきゃいけないの」
サンは一瞬、胸が締め付けられる思いがした。「来週……そんなに早いんですか?」
「ええ。でもね、サン……父さんから最後の条件があるの。3年生のこの1年、あなたは『部長』として、私の代わりにこの学校を完璧に守ること。……できるわね?」
サンはフェースを見つめた。レンズのないその瞳は、かつてないほど力強かった。「はい、約束します。自分を超えて、最高のエンジニアとして先輩の元へ行きます」
フェースは涙を浮かべて微笑み、サンの唇にそっとキスをした。夕闇の中、二人は誓い合った。「待ってるわ……私の『サン』」
[1週間後 ― スワンナプーム国際空港]
搭乗案内のアナウンス。フェースはゴンや友人たちに最後の手を振り、飛行機は空へと消えていった。
「行っちゃったな……」 ゴンがサンの肩を叩く。「おいサン! 湿っぽい顔すんなよ。来年からは俺たちも3年生だ。お前が部を仕切るんだぞ」
サンは深く息を吸い込み、持っていたメガネを躊躇なくゴミ箱へと捨てた。「このメガネは……もう自分を隠すためには必要ない」
[タイムスキップ ― 1年後:技術専門学校(3年生・新学期)]
校内の活気は相変わらずだが、通学バスから降りてきた一人の男に全員の視線が釘付けになる。
かつての冴えないメガネ少年はもういない。3年生になったサンは、完全にメガネを外し、整えられた黒髪に精悍な顔立ち。部長の作業着を纏ったその姿は、あまりにもクールで、女子たちが一斉に振り返るほどだった。
「おい、あれサン部長だろ! 今年はさらに凄みが増したな」 後輩たちが興奮気味に囁き合う。
サンは廊下を抜け、部室へと向かった。手帳を開くと、ドイツにいるフェースからの写真とメッセージが。
『最後の課題が待ってるわよ。「ユニバーサル・ギヤ」を完成させなきゃ、こっちに来るのは禁止! 頑張ってね、部長さん』
サンは不敵に微笑む。
「待っていてください、先輩。この3年生……すべてを完璧に終わらせてみせます」
彼は部室のドアを開ける。その「超絶イケメンな先輩」としての最後の一年が、どれほどの騒動を巻き起こすかも知らずに――。




