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第2年生編 第23話:素顔の旋風(アンマスクド・モーメント)

[08:15 ― 技術専門学校の廊下]

今朝の校内の空気は、いつもと違っていた。サンが校門をくぐった瞬間から、あちこちでヒソヒソ話が聞こえてくる。だが今回の話題はレースの噂ではない……彼の「顔」だ。

「ねぇ……あの人誰? 新入生かな?」1年生の女子たちが顔を見合わせる。

「バカ言わないで! 機械科のサンくんでしょ! 今日はメガネをかけてないけど……あんなにイケメンだったの!?」

サンは少し不機嫌そうに目をこすりながら歩いていた。近視のせいで、目を細めなければ前がよく見えないのだ。「ったく……メガネをおじさんの工場に忘れてくるなんて。不便でしょうがない」

だが、目を細めたその表情と整った顔立ちは、本人の無自覚とは裏腹に、まるで「クールなバッドボーイ」のような色気を放っていた。

[08:30 ― 教室前]

友人たちと駄弁っていたゴンは、サンが教室に入ってきた瞬間、手に持っていたスパナを落として口をあんぐりと開けた。

「サ……サン! お前、一晩で整形でもしてきたのか!? それとも、ウォラジャック工場の修行は顔の骨格まで変えるのかよ!」

「大げさだな、ゴン。メガネを忘れただけだよ」サンは呆れたように答え、席に着いた。

[12:00 ― 食堂]

サンの「脱メガネ」のニュースは瞬く間に広まった。中学時代の元カノ、リンまでもが友人と共にドアの隙間から覗きに来ている。

「あれが本当にサン……? 付き合ってた頃は、あんなにカッコよくなかったのに」リンの心に、言いようのない複雑な感情が渦巻く。

しかし、誰よりも動揺していたのはフェース先輩だった。食堂に入った瞬間、女子たちに囲まれているサンを見て、持っていたトレイを落としそうになる。

「ちょっと、どきなさいよ1年生ども!」フェースは迷わず輪の中に割って入った。「サンくん! なんでメガネをしてないの! 外していいのは作業中だけだって言ったでしょ!」

「忘れちゃったんですよ、先輩。……それより先輩、なんでそんなに顔が赤いんですか?」サンが不思議そうに尋ねる。

「そ、それは……私の心臓に毒だからよ! ほら、今すぐ部室でお昼にするわよ!」フェースはサンの襟元を掴んで引きずり出した。食堂中の嫉妬の視線を浴びながら。

[15:00 ― アキラの登場]

二人が部室へ向かう途中、アキラの漆黒のスポーツカーが目の前に立ちはだかった。

グレーのスーツを着こなしたアキラが車から降り、メガネのないサンの顔を見て一瞬怯んだが、すぐに冷笑を浮かべた。

「ふん……敗北を前にイメチェンか? 滑稽だな」アキラは黒い封筒をサンの胸に叩きつけた。「決勝のスペック表だ。協会公認だぞ……。それと、サプライズがある」

「サプライズ……?」

「今回のレースは『ダブルノックアウト』方式で行う……。途中でエンジンが破損、あるいは規定の回転数を下回った者は、3年間の『見習い技術者免許』剥奪処分だ!」

フェースの顔が青ざめた。「未来を潰す気!? 正気なの、アキラ!」

アキラは答えず、サンを睨みつけた。「怖ければ棄権しろ。その代わり、フェースは俺が面倒を見てやる」

サンは封筒を握りしめ、その手が静かに震えた。恐怖ではなく、沸き上がる昂ぶりのせいだ。メガネという遮蔽物のないその眼光は鋭く、アキラでさえ思わず一歩後ずさった。

「免許剥奪か……面白そうですね。受けて立ちますよ。でも、後で泣き言は言わないでくださいね。あなたの『プロジェクトX』が、僕の『Gear of Union』の前でただの鉄屑になっても!」

[15:15 ― 校舎前]

周囲は静まり返り、時が止まったかのようだった。アキラは屈辱に震え、吐き捨てるように言い放った。

「口先だけは達者だな……。明日、現実と空想の差を教えてやる」アキラは車に乗り込み、煙を上げて去っていった。

「サンくん……大丈夫なの?」フェースがサンの手を強く握る。「剥奪されたら、この道で生きていくのは難しくなるわ……」

サンはフェースを振り返った。その眼差しは、先ほどとは打って変わって穏やかだった。「この程度守れなくて……先輩と一緒に海外へ行く資格なんてありませんから」

フェースは言葉を失い、ただ彼の腕を強く抱きしめた。「バカ……自信満々なんだから」

[18:00 ― 機械部部室]

ゴンとマインドが深刻な顔で設計図を囲んでいた。「アキラの野郎、卑怯だぜ! 爆発力の強い特殊燃料を強制指定してきやがった。繊細な『Gear of Union』を内部から破壊する気だ!」

「合金の弱点である高周波振動を狙ってるんだわ……。サン、今夜中にセッティングをやり直さないと、完走すら無理よ」

サンは、二人の名前が刻まれたギヤを見つめた。「分かってる……策はあるよ」

[23:00 ― 工場の灯りの下]

誰もいなくなった実習室で、サンはエンジンの前に座っていた。メガネはしていないが、作業帽を深く被り、顔を隠している。油にまみれた手で、最後のパーツを慎重に組み上げていく。

そこへ、静かにドアが開いた。フェースの父親だ。

「……『贈り物』だ」父親は木箱を机に置いた。中には、ウォラジャック社の極秘技術である『ナノレベル燃料噴射ノズル』が入っていた。

「アキラが『悪魔』のエンジンを使うなら、お前は『神の心臓』でそれを制御しろ」父親がサンの肩を叩いた。「明日……私の『義理の息子』が、ただの近所の車好きではないことを証明してみせろ」

サンは「義理の息子」という言葉に顔を赤くしたが、力強く頷いた。「はい……勝ってみせます!」

[午前0時 ― エンディング]

校舎の外に出たサンは、星空を見上げた。太陽のキーホルダーを握りしめる。

「明日か……。因縁に終止符を打ち、未来を始める日だ」

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