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第2年生編 第22話:絆の設計図(プロジェクト・ユニオン)

[08:00 ― 工場内の特別ラボ]

日曜の朝、本来なら休日だが、サンはフェースの父親からの緊急招集で工場にいた。最新のPCモニターと金属3Dプリンターが並ぶラボで、父親は巨大なプロジェクターの前に立っていた。

「来たか……。これを見ろ」

画面には、サンが今まで見たこともないほど複雑なエンジン構造が映し出されていた。ただの内燃機関ではない。ウォラジャック社独自の特許技術であるハイブリッド駆動システムが組み込まれている。

「これが『Gear of Unionギヤ・オブ・ユニオン』。決勝戦でお前に託す課題だ。だが、一つ問題がある」父親は言葉を切った。「メインギヤの素材は最新の合金で、耐熱性は凄まじいが、極めて『脆い(もろい)』。機械加工ではすぐに割れてしまうんだ」

「……つまり、手作業で研磨しろということですか?」サンは驚きを隠せずに尋ねた。

「そうだ。金属の『リズム』を最も深く理解している者……その手でなければ完成は不可能だ」

[12:00 ― 工場の屋上、昼休み]

サンは食事も忘れ、タブレットの設計図を凝視していた。そこへ、冷たい焼きそばパンが彼の頬に押し当てられた。

「根を詰めすぎよ、サンくん」

フェース先輩だ。彼女も今日は事務の手伝いに来ている。「父さんも意地が悪いわね……会社で一番の難題をサンくんに押し付けるなんて」

「いいえ、嬉しいです。難しければ難しいほど、先輩が目指す『世界』に一歩近づける気がするんです」

フェースは一瞬黙り込み、それからサンの腕をぎゅっと抱きしめた。「海外留学……私、一人で行きたいわけじゃないのよ。もしこのプロジェクトが成功すれば、父さんがサンの推薦状を書いてくれるかもしれない。そうすれば……一緒に行ける」

「本当ですか!?」サンの瞳が輝く。

「ええ! だから……アキラには絶対に負けないで」

彼女はサンの肩に頭を預けた。屋上を吹き抜ける冬の風が、一瞬だけ温かく感じられた。

[15:00 ― 最初のテスト]

サンは試作合金の研磨に取り掛かった。工具が金属を叩く音が響く。周囲には工場のエンジニアたちが野次馬として集まってきた。

「あのガキ、正気か? その合金は微かな振動でヒビが入るんだぞ!」職長が吐き捨てる。

サンは目を閉じ、再びメガネを外した。全神経を耳に集中させる。目で見るのではなく、鉄の「反響音」を聴くのだ。

パキッ! 最初の破片が砕け散った。

「ははっ! 見ろ、やっぱり無理なんだよ!」周囲から嘲笑が漏れる。

だがサンは動じない。すぐに二つ目の破片を手に取った。メガネを外した彼の眼差しは冷徹で、もはや誰も笑い飛ばすことはできなかった。

[20:00 ― 暗闇の中の光]

消灯した工場の中で、サンの作業机だけが明るく照らされていた。フェースがおしぼりを持って近づくと、サンは机に突っ伏して眠っていた。その手には、一つの金属片が握りしめられている。

彼女はそっとその手を開き、中身を確認した。そして、思わず息を呑んだ。

その金属片は、鏡のように滑らかに研磨され、隅には小さな文字が刻まれていた。

”S & F”

「サンくん……バカね。頑張りすぎよ……」

フェースは目に涙を浮かべ、自分の上着を彼にかけ、静かに囁いた。「待ってるわ……私たちの歯車が、本当に共に回り始める日を」

[21:00 ― 静まり返った工場内]

フェースは眠るサンを見つめていた。金属片をライトにかざすと、精巧に刻まれた「S & F」の文字が浮かび上がる。それは言葉以上の「約束」だった。

「……頑張ってくれて、ありがとう」

彼女はサンを起こさないよう、その額にそっとキスをした。

その瞬間、背後の闇から重い足音が響いた。「……まだ帰っていなかったのか、フェース」

父親だった。サンを見つめるその目は、相変わらず厳格だ。

「お父さん! これは……サンくんが疲れて寝ちゃっただけで……」

父親は娘の手から金属片をひったくるように受け取った。しばしの沈黙の後、その瞳が微かに揺れた。手作業で成し遂げられたマイクロ単位の精度。

「最も『脆い』金属を芸術品に変えるとは……この少年、本当に『神の手』を持っているのかもしれん」父親は金属片を娘に返した。「起こしてやれ。今日はここまでだ。明日から、本物の『Gear of Union』の組み立てに入る」

[翌日 ― 技術専門学校の門前]

「ダークホース」サンの噂は一気に広まっていた。友人のゴンが血相を変えて駆け寄ってくる。

「おいサン! ウォラジャック工場の職長たちが騒いでるぞ。2年生のガキが手作業で伝説の研磨を見せたってな!」

サンは微かに微笑んだが、疲労の色は隠せない。「リズムに従っただけだよ、ゴン……。でも、今回の戦いは単なるエンジンの勝負じゃないんだ」

[アキラの屋敷 ― 暗い書斎]

アキラはモニターに映し出された「S & F」の盗撮写真を見つめていた。

「ふん……武器に恋人の名前を刻むとは、反吐が出るな」

アキラは手の中のワイングラスを握りつぶした。「愛など、決勝ではエンジンを破壊する『不純物』に過ぎない。覚悟しろ、サン……。私の『プロジェクトX』に空想の居場所はない!」

彼の傍らには、光すら吸い込むような漆黒のギヤが置かれていた。それこそが、Gear of Unionの真の宿敵。

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