第2年生編 第20話:父の眼差しと、次なるステージへ
[ショッピングモールの屋上 ― 試合終了後]
試合の熱気が冷めやらぬ中、サンとフェースは夕日を眺めながら休息していた。18,200 RPMという過酷な戦いの余熱が、今もサンの指先に残っている。
「サンくん……手がすごく震えてるわね」フェースがサンの手をそっと握り、心配そうに言った。
「エンジンの限界を少し強引に引き出しすぎたかもしれません……。でも、その価値はありました」サンは微笑んで答えた。
「見事だった……二人とも」
背後から聞き覚えのある重厚な声が響いた。フェースの父親だ。誇らしげな笑みを浮かべつつも、その瞳には実業家、そして熟練技術者としての鋭い光が宿っている。
「お父さん! どうしてここに……?」フェースは慌ててサンの手を(赤くなりながら)離し、立ち上がった。
「二人が作り上げた『歯車』の成果を見に来るのは当然だろう」父親はサンに向き直った。「サンくん……今日の走りには驚かされた。最後の10秒、本能だけで回転数をねじ伏せたあの技術……工学の教科書には載っていないものだ」
「ありがとうございます、お父……いえ、叔父さん」サンは慌てて言い直し、フェースはそれを見て思わず吹き出した。
「だが、サンくん……アキラという男は簡単に引き下がるような奴じゃない」父親の表情が真剣なものに変わった。「今日ここに来たのは、私の『工場』が君たちの決勝に向けた特殊素材の支援を約束するためだ……。だが、それには条件がある」
サンは真っ直ぐに聞き返した。「条件……とは何ですか?」
「明日から毎日放課後、私の工場で修行してもらう。エンジンの力を『強引に引き出す』のではなく、『制御する』方法を教えよう」父親はサンの肩に手を置いた。「そして何より……君が私の『最も大切な歯車』をこの先任せるにふさわしい男かどうか、見極めさせてもらうよ」
「お父さん! 何を言ってるのよ!」フェースの顔が真っ赤に染まる。
サンは臆することなく父親の目を見つめ返した。「はい……受けて立ちます。僕が必ず、証明してみせます」
[ビルの影 ― 闇の中のアキラ]
アキラは壁に背を預け、屋上を見上げていた。手元にはサンのRPMグラフが表示されたタブレットがある。
「本能、だと? くだらない」アキラは吐き捨てるように呟いた。「もしもし……マテリアル工学の『プロジェクトX』のデータを送れ。あの歯車を、この世から消し去ってやる」
[屋上 ― 約束の場所]
父親は満足そうに頷いた。「いいだろう。明日、夕方5時に私の工場に来なさい。作業着と工具を用意させておく」
そう言い残し、父親は去っていった。屋上には再びサンとフェースの二人だけが残され、夕日に代わって星々が輝き始めた。
「サン……本当に大丈夫なの? 父さんの工場は厳しいことで有名よ。腕利きのエジニアたちも、みんな音を上げるくらいなんだから」
サンは彼女を見つめ、力強く微笑んだ。そして、自然に彼女の手を再び握った。「世界中の機械を修理することになっても、僕は耐えられます……それが、先輩の隣にいて、僕たちの『リズム』を守ることになるなら」
フェースは一瞬固まり、それからサンの肩に顔を埋めた。「バカ……そんな恥ずかしいこと、よく平気で言えるわね」
[闇の中のアキラ ― 悪意の加速]
アキラはタブレットをスポーツカーのシートに無造作に放り投げた。その瞳は、わずか50回転の差で敗れた屈辱と復讐心に燃えている。
「想いのこもった歯車? 笑わせるな」エンジンが咆哮を上げる。「決勝戦で教えてやる……限界を超えた熱で歯車が溶け落ちた時、お前の言う『想い』が何の役に立つのかをな!」
黒い車は闇の中へと消え、アスファルトにはタイヤの焦げ跡だけが残された。
[翌朝 ― 技術専門学校の門前]
サンは掲示板の前で足を止めた。そこには自分とフェースが『今年のダークホース』として紹介された写真が貼られている。彼は「SUN」のキーホルダーを握りしめ、深く息を吸い込んだ。
「本当の戦いは……これからだ」




