第2年生編 第5話:屋上の決着と、心からの答え
翌朝、第3実習棟の屋上は静まり返り、ただ風の音だけが響いていた。僕は、腕組みをして余裕の笑みを浮かべて待っているアイビーの前に立った。彼女の手には、僕の運命を握るあのスマホが握られている。
「時間通りですね、サン先輩。……しかも一人で。いい子ですね」
アイビーは近づき、細い指で僕の作業着の襟元をなぞった。
「私の提案を受け入れて、フェース先輩と別れて私の『専属』になってくれるなら、この写真は今すぐ消してあげますよ」
僕はかつてないほど冷静な目で彼女を見つめた。
「アイビー……。君がフェース先輩のお父さんのビジネスパートナーの娘だってことは分かった。そして、君が本当に欲しいのは僕じゃないこともね。君は、ずっと真似してきたフェース先輩に『勝ちたい』だけなんだろ?」
アイビーの動きが止まった。純粋無垢を装っていた瞳が、一瞬で空虚なものへと変わる。
「でも、残念だったね」
僕は自分のスマホを取り出した。
「その写真はもう、脅しには使えない。昨日の夜、僕は両親にすべてを打ち明けた。そして、フェース先輩のお父様にもメッセージを送ったんだ。『娘さんの手を引いていたのは僕です。すべての責任は僕が取ります』ってね」
「正気なの!? 理事長に知られたら、あんな女とは強制的に別れさせられるわよ!」
アイビーが声を荒らげた。
「そうしたければ、すればいい。……でも、僕の心までは命令させない」
僕は彼女の目の前まで歩み寄った。
「写真を消せ、アイビー。誰かのフリをしたって、誰も君を愛してはくれない。……自分自身になりなよ」
アイビーは長い沈黙の後、激しくため息をついた。彼女は苛立ちを隠さずに、僕の目の前で写真を削除した。
「ふんっ! 呆れたわ。ただの愛に溺れたバカね。サン先輩って、本当に『おバカさん』なんだから! ……もっと刺激的なターゲットを他に探すことにするわ」
彼女は僕の肩を強く叩いて屋上を去っていった。残された僕は、緊張の糸が切れて足が震えるのを必死に堪えていた。
「サン君……!」
聞き慣れた甘い声が、屋上の扉の向こうから響いた。フェース先輩が走り寄ってきて、倒れそうになるほど強く僕を抱きしめた。彼女は声を上げて泣きじゃくっている。
「サンのバカ! なんであんな無茶なことを……! お父様が本当に怒ったらどうするのよ!」
僕は彼女を強く抱きしめ返した。大好きな彼女の香りに包まれ、自分の決断が正しかったと確信した。
「こうしなきゃ、先輩を一生失うことになった。……そんなの、耐えられません」
僕はそっと体を離し、涙で濡れた彼女の瞳をじっと見つめた。朝の光が差し込む屋上の景色は、まるで二人を祝福しているかのようだった。
「先輩……。これまで、いつも僕に甘えてくれて、支えてくれて、そばにいてくれて……本当にありがとうございました」
僕は深く息を吸い込んだ。
「僕はもう、ただの『後輩のサン君』でいるのは嫌なんです」
フェース先輩は驚きで目を見開いた。
「フェース先輩……。僕の彼女になってください!」
屋上を静寂が包み込んだ。次の瞬間、フェース先輩は再び泣き崩れた。でも今度は、歓喜の涙だった。彼女は冷たい風の中で、僕の唇にそっとキスをした。
「……はい! ずっと、ずっと待ってたんだから、このバカ!」
彼女は涙を流しながら、最高の笑顔で僕に囁いた。
「これからはどこにも行っちゃダメだよ。……『フェースの彼氏』なんだから!」
階段で見守っていたコンは親指を立て、別の角で静かに見ていたリンも、満足そうに微笑んで立ち去っていった。
ポワチョーでの2年生の生活。これから大人たちの高い壁が立ちはだかるかもしれない。でも、もう何も怖くない。僕の隣には、世界一可愛い「最高の恋人」がいるのだから!




