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第2年生編 第3話:不穏な鏡像と、残された警告

翌朝、ポワチョー技術専門学校は他校からの交換留学団の来校で、いつも以上に活気づいていた。僕はいつものように実習棟へ向かおうとしたが、第3実習棟の前で、他校の制服に身を包んだ見覚えのある人影が待っているのに気づいた。

「リン……」 僕は足を止めた。

「驚かないで、サン。別に揉め事を起こしに来たわけじゃないから」 リンはかつてよりもずっと真摯な、穏やかな笑みを浮かべた。「実習団の代表として来ただけ。あと、サンの親父さんと私の父さんの件を伝えておこうと思ってね。二人が共同プロジェクトを始めたみたい。これから顔を合わせる機会が増えるだろうから、知っておいたほうがいいでしょ?」

「教えてくれてありがとう、リン」 彼女が戦いを仕掛けに来たわけではないと分かり、僕は安堵した。

しかし、平穏は長くは続かなかった。

「サン君! なんでこの女がまたここにいるの!? もう関わらないって言ったじゃない!」

「フェース先輩」 が血相を変えて走ってきた。彼女は僕の腕を強く抱きしめ、リンを激しく睨みつける。いつもの甘い微笑みは消え去り、一瞬で「愛する者を守る猛獣」のモードに切り替わった。

「落ち着いてください、フェース先輩。ただの仕事の話ですよ」 リンは冷静に返したが、その視線は先輩の後ろから歩いてくる人影に釘付けになった。

「アイビー」 が即座に僕の左腕にすがりついた。彼女は首をかしげ、純粋無垢な瞳でフェース先輩の仕草を完璧にトレースしてみせる。

「サン先輩……。この綺麗な人は誰ですか? 優しそうな人ですね」

リンはアイビーを頭から爪先までじっくりと観察した。冷徹だったリンの瞳に驚きの色が混じり、彼女はフェース先輩とアイビーを交互に見て、小さく吹き出した。

「サン……。どうやらリンよりも厄介な問題にぶち当たってるみたいね」 リンはアイビーを指差して言った。「この子……。性格も立ち振る舞いも、フェース先輩の生き写しじゃない」

「そうでしょ、リン! この子、私の真似をしてるのよ!」 フェース先輩が声を荒らげた。

リンは軽く首を振り、サンの耳元で(先輩たちにも聞こえるように)囁いた。

「サン……。気をつけなさい。ここまで完璧に他人を『演じられる』人間には、必ず何か目的がある。お前のその甘さで、全てを台無しにしないことね」

リンは勝ち誇ったように手を振り、去っていった。第3実習棟の前に大きな爆弾を残して。フェース先輩は不安からか、僕の腕をさらに強く掴み、アイビーは相変わらず意図の読めない甘い微笑みを僕に向けていた。

「サン君! リンの言うことなんて聞いちゃダメ! それに、このアイビーって子も見ちゃダメだからね!」 フェース先輩は泣き言を言いながら縋り付いてきた。

遠くから見ていたコンは、額の汗を拭った。「リンは『忠告』しに来たんだろうが、フェース先輩をさらにパニックにさせる『火に油』になっちまったな……」

現場の空気は、息が詰まるほど重くなった。周囲の視線が僕たちに集中する。普段は自信満々の攻め担当であるフェース先輩が、今は怒りと不安で小刻みに震えている。彼女はアイビーを、まるで親の仇かのように睨みつけた。

「サン先輩……。リン先輩は何の話をしてるんですか? 『目的』だなんて。アイビーはただ、先輩のことが大好きなだけなのに」

アイビーは悲しげに表情を歪め、瞳を潤ませる。それは昨日、僕に甘えた時のフェース先輩の表情と寸分違わぬものだった。

「その顔を今すぐやめなさい!」 フェース先輩の声が裏返った。「私の顔を使って、サン君に汚い真似をしないで!」

「先輩、落ち着いてください」 僕はなだめようとしたが、彼女は傷ついた瞳で僕を見た。

「サン君も見てるでしょ! あの子はわざと私をバカにしてるの! なのに、まだあの子に腕を掴ませてるの!?」

僕は慌ててアイビーの手を解いた。「アイビー……。授業に戻りなさい。僕は先輩と話があるんだ」

アイビーは素直に手を離したが、反論一つしなかった。ただ、僕に向かって含みのある微笑みを向けた。リンが警告した通りの、裏のある笑みだ。そして彼女は、自分が引き起こした嵐など気にも留めない様子で、悠然と立ち去っていった。

「サン君……」 アイビーがいなくなると、フェース先輩は僕に強く抱きついた。彼女は僕の胸に顔を埋める。

「怖い……。本当に怖いの。私の直感が言ってる、あの子はまともじゃないって。サン君を見る目が、まるでお気に入りの『獲物』を定めたハンターみたいなんだもん」

僕は彼女を優しく抱きしめ返し、安心させるように力を込めた。「気をつけるよ、先輩。約束する」

ずっと見ていたコンが歩み寄り、深くため息をついた。

「サン……。俺もリンの言う通りだと思うぜ。あの子は『出来すぎ』だ。他人のキャラをあんなに完璧にコピーするなんて普通じゃない。気をつけろよ、あの子が去り際にスマホで何か打ってるのを見たからな」

コンの忠告に、嫌な予感が加速した。ポワチョーでの2年生の生活。甘い日々になるはずが、ミステリアスな霧が立ち込め始めた。リンの警告が耳に残る——『お前の甘さが、全てを壊さないようにね』。

愛する3年生の先輩と、謎に包まれた1年生の後輩。この戦いは、さらなる試練へと向かっていく。アイビーが隠している秘密が、リンが言っていた家族のビジネスプロジェクトに関わっているのだとしたら……。

【第2年生編 第3話 完】

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