第5.5話 お泊まり女子会 後
「どこから話せばいいか分からないけど……。そうね、私が育乳しようと思ったきっかけからかしら。きっかけは真央君が大きい方が良いって悟君や明君と会話してる所を聞いたからなの」
真剣なトーンで皆に真っ直ぐ伝えたが、皆は困惑の表情を浮かべていた。
「……うん、まぁそうだろうなとは思ってたけど」
「はい、ここまでストレートにマジトーンで言われるとどう反応すればいいのか」
私を除く3人が互い顔を見合わせる。
少し胸がキュッと苦しくなったが、私は続けた。
「アレは、私達がまだ中学生になった頃の話」
10月下旬、中学で体育祭が行われた帰り道だった。
その日は体育祭後という事もあり、部活は無く各自帰宅する事になっている。
直央先輩は既に高校生で、陽歌ちゃんは同級生の友達と帰るということで、私と真央君、悟君、明君の4人で帰宅した。
そんな帰り道の道中、私の前を歩いていた悟君が言い出したの
『なぁ、やっぱ陽姉のアレ大きいよな』
『アレって?』
明君が頭を傾げる。
『んなもん決まってるだろ! 乳だよ乳!』
『いや、乳って言い方……』
真央君が悟君の言い方に少し引いた表情を浮かべる。
『伝わればいいんだよ、伝われば』
『悟はアレだろ、恥ずかしいだけだろ。胸とかおっ、むごっ』
『おいばか、それ以上言うんじゃねぇ。優花も一緒に居るんだぞ』
真央君が明君の口を塞ぎ制止した。
だけど私は真央君の制止を無駄にするように話を続ける。
『悟君はおっぱいって言うの、恥ずかしいんだね』
『ち、違うわい!』
悟君はそっぽを向いてしまったが、顔が赤くなっているのはよくわかる。
『それで、陽歌ちゃんのおっぱいなんだって?』
『そればっか連呼するな!』
『まだ2回しか言ってないよ』
『そういう問題じゃねぇ! ってそんな言い方はどうでもいいんだよ』
『言ったのは悟だろ』
明君が突っ込む。
『言い方の話はどうでもよくて、陽姉のが大きくて良いよなって話だよ』
『そこは恥ずかしげもなく言うのか』
今度は真央君が突っ込んだ。
『大きいって言っただけだからな。それより男ならやっぱ大きい方が良いと思わんか? なぁ明』
『いや、俺は特に気にしてないかな?』
『マジかよ、真央は』
『確かに無いよりはあった方が好きだけど……大きいのが良いとは言わないかな?』
「って言う会話をしたことがあって」
「女の子居るのに何て会話してるのよ、悟君は」
陽歌ちゃんがヤレヤレと頭を抱える。
「その話、お兄ちゃんに聞いたっていうか、聞かされた覚えがありますね」
「そうなんだ、よく妹に恥ずかしげも無く話せるね悟君」
さすがの私も少し呆れた。
「でも、この話のおかげで私はここまで大きくしましたからね」
そう言い、瞳ちゃんは自分の胸を持ち上げる。
「私も似たようなものね、まぁ……まさかお母さんに似てここまで大きくなるとは思ってなかったけど」
「優花ちゃんのお母さんって確か、元グラビアで今は下着ブランドの社長だっけ?」
「そうよ、今は義父と海外展開の為にアメリカに渡っているけど」
他の3人が「へー」と関心を示す。
「待って2人共」
陽歌ちゃんが両手を拡げる。
「今の会話の中にまーくんが大きい方が好きとは、一言も言ってなくない?」
「あ、言われてみれば」
「確かにそうですね。言ったのはあくまで無いよりあった方好きというだけで、大きい方が好きとは言ってませんね」
「つまり、瞳と優花ちゃんは真央にいの事が好きすぎて勘違いしてしまい、そこから成長させたって事だね。凄いね」
詩央ちゃんが何故か感心している。
私と瞳ちゃんは身体の火照りを感じた。
「コホン、少し話が逸れたわね。それで相談……というかお願いなんだけど」
「なになに?」
「真央君が巨乳好きかどうかは一旦置いといて。男子達にこの事を黙っておいてほしいの」
私は自分の胸を、両手で軽く持ち上げた。
「そして、いつか真央君に明かす時とか、何かあった時に協力してほしい」
「そういう事ね、わかったわ」
「りょうかーい」
「仕方ないですね、わかりました」
「ありがとう」
とりあえず、同性の幼馴染に秘密を打ち明ける事が出来た私は、少し肩の荷がおりた気がした。
「ねぇねぇ、優花ちゃん」
「どうしたのかしら? 詩央ちゃん」
「ところで、そのおっぱいってどうやって大きくしたの?」
「あ、それ私も知りたい」
「私も気になってました」
3人の目がキラキラして見える。
「陽歌ちゃんと瞳はもう大きいでしょ! 私なんてまだぺったんこなんだけど」
詩央ちゃんが両手で胸を隠す。
「詩央ちゃんは大きくしたいの?」
「さっきの話を聞く限り下月先輩は気にしてなさそうだけど、やっぱり無いよりあった方がいいじゃん?」
「そうは言っても、詩央ちゃんは胸だけ大きくするとバランスがね?」
「そうだよ詩央ちゃん、詩央ちゃんは今のままが一番可愛いんだよ? 明先輩もわかってくれるって」
「そうかなー? でも方法は知りたいなー」
「んー、私がやってたのは大豆を使った育乳方法で、元々牛乳が苦手だったから豆乳を毎朝飲んだり、夕食には豆腐を必ず入れたりしてたわ。それ以外にも寝る前にマッサージとかも欠かさずやってたわね」
「大豆ですか……私はマッサージがメインでしたね。私も豆乳飲もうかな?」
「ひーちゃんは既にスタイル良いから、胸だけ大きくするとバランス崩れちゃうかもね」
「なら、身長も合わせて伸ばさないといけませんね」
「そうだね。でも羨ましいな3人共」
陽歌ちゃんの声のトーンが下がった。
「どうしたの陽歌ちゃん?」
俯く陽歌ちゃんの顔を覗くように、詩央ちゃんが尋ねる。
「だって、私はなーくんの好みがわかんないんだもん。好きな人の好みになるように努力できる3人は、ホントに羨ましいよ」
普段皆を揶揄っている陽歌ちゃんが珍しく、弱音を吐いた。
「あーごめんごめん、そんなしんみりさせたかった訳じゃないんだ。さっそろそろ帰ろうか」
陽歌ちゃんが立ち上がり、湯船から出て室内へと戻って行った。
私達も後を追いかけ、脱衣所へ向かう。
浴室と脱衣所の出入口付近に設置されているシャワーで、軽く全身を流し手持ちのタオルで軽く水気を取って脱衣場に入る。
お互いに会話も無く、黙々とバスタオルで身体を拭き、着替え終わった人からドライヤーで頭を乾かしていく。
そして帰り道ですら特に会話する事はなかった。
帰宅後、3人を家の中に招き入れリビングで待機してもらう。
お布団の準備と、寝間着に着替えるためだ。
温泉に行くのに、いつもの寝間着では少し躊躇う。
なぜなら私が普段着てる寝間着は、ネグリジェだからだ。
4月とはいえ少し肌寒い為、着てるのは皆想像するような肩紐タイプではなく、キチンと肩まで生地で覆われているロングワンピースタイプ。
お気に入りなのは今着ている薄い青色のやつで、胸元に同じ色のリボンで装飾されている。
胸元のリボンはフリルタイプになっていて、このフリルリボンと同じ模様のフリルが袖や襟部分、裾にも付いていて、とても可愛くお店で見つけた時に一目惚れして買ったものだ。
いつか真央君に魅せたいと思っているが、その前にこの胸を先に紹介しないと魅せる日は来ないだろう。
布団を4セット部屋の前に用意し一旦リビングに向かうと、リビングの扉越しでも聞こえるほど3人は談笑していた。
先程の温泉での気まづさは無くなっている。
多分、詩央ちゃんか陽歌ちゃん自身が空気を戻したんだろう。
この2人はそういうのに長けてる。
「布団運ぶの手伝ってほしいんだけど」
声を掛けると、3人がスッと立ち上がった。
「「はーい」」
「お布団はお部屋の前ですか?」
お泊まり会の時はいつも手伝ってもらっているから、3人共慣れた様子でテキパキと動いてくれる。
「通るよー」
一番に布団を持ってきた陽歌ちゃんが、壁際に避けた私の前を通っていき、その後ろを瞳ちゃんと詩央ちゃんも続いていく。
布団はテレビ前に置かれたソファとテーブルを隅に動かして、そこに横向きで”田”の字になるように敷き詰める。
こうして並べると修学旅行みたいな気分になれるから、お泊まり会で私が一番好きな時間だ。
「そう言えば、3人で何話してたの?」
布団を敷き終わり、4人で布団の上に固まって座る。
「ひーちゃんと、しーちゃんに好きな所聞いてたんだよ」
陽歌ちゃんが嬉しそうに答えた。
「結構恥ずかしかったです」
「わ、私も……これ以上言いたくない。恥ずかしさでオーバーヒートしそう」
陽歌ちゃんに根掘り葉掘り聞かれたせいか、思い出したように2人の顔は茹でダコのように真っ赤に染まっていく。
「ってことで次はゆーちゃんの番だね」
陽歌ちゃんは獲物を見つけた獣のような眼差しを向けながら、ジリジリと近付いてくる。
「ちょっ、陽歌ちゃん?」
「安心して? 質問するだけだから。まずは、まーくんの外見で好きな所は?」
「え、えーっと。外見ではないんだけど声が一番好き……です」
「優花先輩! めっちゃ分かります! 真央先輩の声ずっと聴いてたいぐらい良いんですよね!」
瞳ちゃんがテンション爆上がりで迫ってきた。
「そ、そうなのよ……あの爽やで透き通った声。あの声で優しくされると嬉しいけど、胸がきゅんきゅんして逆に痛い、みたいな」
「ホントそれな、です! あれを素でやるんですから怖いものですよ。高校でもライバル増えるんじゃないかってドキドキしてます。ただでさえ優花先輩が強敵なのに」
「あはは、そういえばライバルなら……瞳ちゃん、去年バスケ部に雪穂って子居たの覚えてる?」
「はい、覚えてますよ。優花先輩と一番仲良くて、同じレギュラーメンバーで、男子とも普通にやり合えるシューティングガードでしたから……え、まさか」
「うん、そのまさかだよ」
「はあ……桜葉先輩までもですか」
瞳ちゃんはため息をついて、頭を抱える。
「って事はゆーちゃんもひーちゃんと一緒で、優しい所が好きなのかな?」
「優しい所も好きだけど、私が一番好きなのは実は不器用な所かな」
私は優しく微笑んだ。
私は小学生の頃、軽いいじめに遭っていた。
当時はお父さんが居なくて、お母さん1人だった時のことだ。
片親と言うだけで同級生から変だとからかわれ、一時期学校に行くのが嫌になった事がある。
そんな時、家に何度も来てくれたのが真央君だ。
と言っても私はその期間、一度も真央君には会っていない。
それでも玄関のすぐ隣が私の部屋のため、会話は全て筒抜け。
真央君の言葉と声に励まされたのは今でもはっきり覚えてるし、真央君に惚れたきっかけでもある。
『優花ちゃんのお母さん! もし優花ちゃんが何か嫌な目に遭ってるなら教えてよ、俺1人じゃ何も出来ないけど兄ちゃんと陽歌ちゃんと一緒に絶対助けるから!』
『ふふふ、優花の為にありがとね、真央君』
「どうしたの優花ちゃん?」
ハッと我に返った私の目の前に、詩央ちゃんの顔があった。
「ううん、ちょっと昔のこと思い出しちゃって」
「ふあー、もう時間も遅いし今日はもう寝よっか」
大きな欠伸をする陽歌ちゃんのが感染ったのか、私も瞳ちゃんも詩央ちゃんも欠伸をし皆が同意する。
「陽歌先輩の欠伸が感染っちゃいましたね」
「だねー」
「寝ようか」
それぞれが布団に入ったのを確認する。
「じゃあ、皆おやすみー」
「はい、おやすみなさい」
「おやすみなさ……ふあー」
「えぇ、おやすみ」
リビングの電気を消して私達は眠りについた。
今日のろじ裏
幼馴染達と回転寿司を食べに行って帰ってきた後、自室のベッドの上で音楽を聞きながら悟や明が来るのを待ってると、突然部屋の扉が開いた。
扉の前に立ってたのは兄貴だ。
俺はベッドから起き上がり、耳に入れていたワイヤレスイヤホンを外した。
「どうしたんだ? 兄貴」
と尋ねると、いきなり肩を掴まれ。
「お前はそういうやつだよ」
と言い残し去って行った。
部屋の扉を閉めて、「なんだったんだ?」と呟いて首を傾げる。
再びワイヤレスイヤホンを付けようと思った時、廊下の方からお風呂のお湯が溜まった合図が聞こえた。
「そう言えば兄貴が溜まったら入ってこいって言ってたな」
俺はワイヤレスイヤホンをケースにしまい、タンスから下着を取り出して脱衣所に向かう。
俺の隣は詩央の部屋になっているが、扉が全開になっており部屋は既に真っ暗になっていた。
「もしかして詩央のやつ、もう行ったのか?」
と言っても時刻は既に20時を回っていて、普段お風呂に入ってる時間帯より少々遅い。
脱衣所で服を脱いでる最中、ある事を思い出した。
「優花がなんか困ってることがあるようだけど、何に困ってるんだろう」
でも兄貴には首を突っ込まないように言われちゃったし、いっそ陽姉に聞いてみるか?
いやでも首を突っ込むなって言われてるし。
優花の相談事が気になって仕方はなかった。
小学校の時のある日、過去一度も休まなかった優花が珍しく休んだ。
先生からは体調不良だって聞いたし、優花のお母さんに聞いても体調不良って言われた。
でもそれが嘘だったって2週間も経てば気付く。
でも先生や優花のお母さんにいくら聞いても返事は変わらず体調不良だった。
ところがある日の放課後、クラスの女子が優花の事を話しているのがたまたま耳に入ったんだ。
『優花ちゃん、まだ休んでるよ』
『ねー、体調不良って言うのは嘘で、ホントは家で泣いてるんじゃないの』
『それありそう、ちょっとお父さんが居ないこと揶揄っただけなのにね』
それは優花がいじめに遭っていたと思われる内容だった。
俺は急いで家に戻り、隣の家のチャイムを鳴らす。
もちろん出てきたのは優花のお母さんだ。
『今日も来てくれたの? 毎日ありがとね真央君』
『優花ちゃんのお母さん! もし優花ちゃんが何か嫌な目に遭ってるなら教えてよ、俺1人じゃ何も出来ないけど兄ちゃんと陽歌ちゃんと一緒に絶対助けるから!』
俺が突然こんなこと言うから、優花のお母さんは驚いた表情をしていた。
『ふふふ、優花の為にありがとね、真央君』
それでも誤魔化された俺は翌日学校に行った時、話をしていた女子3人を呼び出して、感情に任せて酷いことを言ったんだ。
ただ、優花を助けたかった一心で。
あの時のことは怒りに身を任せたから、彼女達に何を言ったか覚えてない。
覚えてるのは、その後担任からこっぴどく怒られた事と女子3人を泣かせてしまったことの2つだけ。
それから1週間が経過し、優花は無事学校に来るようになったが同時に優花がクラスで孤立することに。
俺は明と悟に話して極力4人で居るようにし、兄貴と陽姉はゲーム大会を開催してくれるようになった。
そのおかげか優花は休む前と同じぐらい明るくなったが、クラスでは俺達以外と話している所を見たことがない。
でも、部活に行くと楽しそうに桜葉雪穂と話してる姿が見えて安心した。
高校でも俺と雪穂が居るから問題ないだろうし、ここには幼馴染十字会がある。
いつか俺にも相談してくれると信じて、俺はいつまでも待つと心に決めた。




