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最終話【完璧な推しの完成】

しずくは、明らかに変わった。


生誕祭を境に、彼女のパフォーマンスは一段と研ぎ澄まされ、言葉も、表情も、立ち居振る舞いさえも、“アイドル”としての完成度を帯び始めていた。


SNSの更新頻度も増えた。ライブ告知、日々の報告、自撮り。ファンの反応は好意的で、フォロワー数も伸び続けている。


だが俺にはわかる。あれは、本当の意味で“アイドル”になった証だ。


誰かと恋に落ちることもなく、ステージの上で輝き続ける。


そこにあるのは、“透さん、いつもありがとう”と微笑んだ、あの夜からの続きだった。



マイに報酬を支払った。


「仕事はこれで終わり。ご苦労さま」


そう伝えたとき、マイはあっさりと笑った。


「もう少し時間かかると思ってたけど、案外チョロかったね。あの子」


「男なんて単純だからな」


「本当透さんの執念はもう病気のレベルだよね」


「で、別れ話は?」


「ちゃんとしたよ。LINEで一方的にね」


マイは平然としていた。金さえもらえれば、それでよかった。


「じゃあ、またなにかあったら声かけて。あと、うちの店にもまた来てよね」


そう言って、彼女はラウンジのバックヤードに消えていった。



理央には、最後の“処理”を済ませた。


OB訪問の担当者から人事で出す推薦状は破り捨てた。


人事には「人格にやや不安がある」とだけ伝えた。


提出済みの書類は破棄され、理央のエントリーは無効となった。


表向きの理由は「社内事情による選考終了」。誰にも怪しまれることはない。


その数日後、理央から「御社から連絡が来なくなった」と連絡が来た。


俺は丁寧に返した。


『申し訳ない。上層部での判断なので、僕からは何もできなくて……』


その文面を読み返しながら、俺は静かにスマホを伏せた。





しずくは白い照明の下、彼女は誰よりもまっすぐに前を見て歌っていた。


俺が作ったステージで。


俺が整えた環境で。


俺の知らない男の影も、過去も、未来も、そこにはもうない。


ただ、“アイドル 榊しずく”だけがいた。


それでいい。


それが、すべてだった。



「これからも応援してるよ」


しずくは満面の笑みを透へ送り、ステージ裏へスキップで帰っていった。


不敵な笑みを浮かべながら…

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