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第5話【別れと決意の生誕祭】

生誕祭の会場は、都内の小さなライブハウスだった。


満員の観客、しずくのメンバーカラーである水色のペンライト一色、祝福のボード。榊しずくの誕生日を祝うため、ファンが集まっていた。


その観客の半分は俺が招待した客である。


ステージ裏、彼女は鏡の前でじっと自分を見つめていた。


アイラインを引き終えた手が、わずかに震えている。


舞台に立つ直前、スマホの通知を確認した。


──藤井理央:『今夜、会って話したい』


一瞬だけ目を伏せ、彼女はスマホを伏せた。


「本番、いきまーす!」


スタッフの掛け声がかかる。しずくは無言で立ち上がり、ステージへ向かった。



「ハッピーバースデー、しずくちゃーん!」


ファンの歓声に包まれて、彼女は笑った。


MCの時間。彼女は深呼吸し、一歩前に出た。


「今日、この場所に来てくれて、本当にありがとうございます」


「皆さんのおかげで、私はここに立てています。……本当は、ちょっと迷ってたんです。続けていいのか、って」


会場がざわつく。


「でも、今日こうして、皆さんの顔を見て、改めて思いました。私はここにいていいんだって」


「だから、これからも……よろしくお願いします」


割れるような拍手。涙を浮かべながら笑う彼女。その姿に、誰もが心を打たれた。


だが、俺は知っていた。


──あれは、ただの決意の言葉ではない。


“決別”の言葉だ。



その夜、裏垢に投稿された文章。


『これで、やっと本当にアイドルなれた気がする』


『今日はたくさん泣いちゃったな』


『でも、あのステージで、初めて“私”の声で歌えた気がした』


スマホの画面を見つめる俺の指が、わずかに震えた。


彼女は、これで純粋なアイドルとして昇華される。


俺は笑った。


静かに、心から。

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