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第4話【崩壊のカウントダウン】

しずくがSNSに投稿しなくなって、1週間が経った。


日常の報告、レッスン風景、アイドル仲間との写真。かつてはほぼ毎日更新されていたアカウントは、沈黙を続けている。


ファンの間では、「体調不良か?」「燃え尽きた?」と憶測が飛び交っていたが、本人からの説明はない。


俺は何も知らないふりで、いつものように現場に足を運ぶ。物販に並び、チェキを撮り、変わらぬ笑顔で応援する。


けれど、彼女の目の奥には、はっきりとした違和感があった。


乾いている。光が差し込まない。


笑顔は貼りつけられた仮面のようで、言葉もどこか遠かった。


「しずくちゃん、最近痩せた?」


その日も、他のファンの声がそうかけたとき、彼女はぎこちなく笑って「夏バテかな」と答えていた。


だが、俺にはわかる。これは、空腹ではなく、喪失による変化だ。



一方、理央も徐々に変化していた。


「最近、就活に身が入らなくてさ……」


ある日、セミナー帰りに会ったとき、彼は疲れた声で言った。


「彼女となんか、話す気にもならないっていうか……向こうも、もう冷めてる感じするし」


「それって、ちゃんとお互い向き合えてない証拠じゃない?」


俺はさりげなくそう返す。


「うーん……マイちゃんとは、もっと自然に話せるんだよね。話題も合うし」


「そっか。だったら、君の答えはもう出てるんじゃない?」


理央はその言葉に、はっとした表情を見せた。


「……ですよね」


小さな罪悪感の影は、すぐに薄れていった。



夜。マイとのやり取りのスクリーンショットが、俺のスマホに届く。


理央が送ったメッセージ。


『俺、たぶんもう気持ちないんだと思う』 『もう別れようと思う』


それを見た瞬間、俺は確信した。


――崩壊のカウントダウンが、始まった。



しずくの裏垢が、久しぶりに動いた。


『皆に笑顔なってもらう私がこんなんじゃダメだね』


彼女にも決心のようなものを感じる。


俺はスマホを閉じ、微笑んだ。


もうすぐ、俺の完璧な推しが帰ってくる。


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