表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/7

第3話【不協和音】

ライブ終わりの帰り道、しずくはスマホを手にしたまま、足を止めた。


渋谷の雑踏の中、ファンとの別れを惜しんだ笑顔の余韻が、まだ頬に残っている。


でも、画面に映る通知は、その笑顔を一瞬で曇らせた。


――新着メッセージ:@clear_dance


「ごめんなさい。あなたにこんなこと言うつもりはなかったけど、どうしても伝えたくて」


「理央くんとは、何度も会っています。最初は相談だけだったけど、もうそれだけじゃない。キスも、抱きしめられたこともあります」


「彼の気持ちは、もうあなたに向いていません」


「私は、彼を本気で好きになってしまいました。彼も、私といると落ち着くって言ってくれます」


「どうか、身を引いてください。あなたのためにも、彼のためにも」


「私はあなたがアイドルをやっていることも知っています。ただ、これを公開しようとは思っていません。」


最後には、添付された写真。


理央が舞に寄りかかっている。店の帰りに撮られたものだろうか。街灯の下、静かに肩を預けるふたり。距離が近い。表情がやわらかい。


しずくは一度スマホの画面を閉じた。


目をつむって深呼吸するが、胸の奥に沈んだものは簡単には浮かび上がらない。


誰にも相談できない。


ファンにも、同期にも。


このメッセージを見せた瞬間、自分がどれだけ嘘を抱えていたのかを突きつけられる。



マイからの報告によれば、理央も連絡の返信が遅れ始めているらしい。


「ちょっと最近、もう彼女に興味が無くなってきてるってさ」


マイは、そう言って肩をすくめていた。



週末。


俺はしずくの物販に再び並んでいた。


「最近、元気ないように見えるよ」


俺がそう言うと、彼女は少しだけ笑って、首を横に振った。


「ううん。大丈夫。ちょっと疲れてるだけ。でも、気を使ってくれてありがとう。」


でもその目は、確実に揺れていた。


俺は軽くうなずいて、チェキを受け取る。


「透さんいつも応援してくれてありがとう……すごく支えになる。透さんは私の味方でいてね。」


その言葉が、胸の奥に静かに沈む。


しずくは、今まさに、孤独になろうとしている。


——もう少しだ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ